『紐糸渡り(アンバランス)』

透水

前編(脚本)

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〇部屋のベッド
  どんどんどこどこどんどこどん。
  どんどんどんどんどこどんどん。
真樹菜「っさいわね……誰、こんな時間に」
  やけにリズミカルなノックの音で目が覚めた。
  時刻は朝の七時半。
  今日が祝日、三連休の初日ということを考えれば、まだ早朝と言って良い時間帯だ。
  ――まあ。
  『誰だ』とは言うものの、こんな時間に訪ねてくる非常識な人間の心当たりは、一人しかいないのだけれど。
「せんぱーい! 真樹菜せんぱーい! 起きてますかー? 起きてないなら起きてないって言ってくださーい!」
  年がら年中緊張感のない、ついでに言うなら上級生を敬う気持ちもさっぱり感じられない声。
  もう慣れたとはいえ、こうして寝起きに聞かされると軽く殺意、もとい苛立ちを覚える。
「せーんーぱーい! 起きましょー! 起きてくれないとせんぱいが普段ノーブラで過ごしてることみんなにバラしちゃいますよー!」
真樹菜「デマ垂れ流してんじゃないわよっ!」
  いよいよ無茶苦茶なこと言い出したので、扉を開けると同時に怒鳴りつける。
  無茶苦茶言うだけならまだしも、やると言ったことは本当にやらかす相手だから性質が悪いのだ。
  開いた扉の向こうには、予想通りの姿があった――圓磨学院(つぶらまがくいん)中等部二年生、日向野(ひなたの)ひより。
  圓磨学院高等部二年、舞洲真樹菜(まいしま まきな)の後輩だ。
ひより「おはようございます真樹菜せんぱい! お外はいい天気ですよっ!」
真樹菜「……貴方、天気の話がしたくて私を起こしたワケ?」
ひより「いえいえまさか! 実は真樹菜せんぱいにお願いがありまして!」
ひより「というわけでちょいとお邪魔させていただきたいのですが!」
  朝っぱらから上級生の部屋――真樹菜もひよりも同じ女子寮住まいである――に押し掛けた上、中に入れろと要求する。
  真樹菜でなければ怒り出す、真樹菜であっても呆れてしまう図々しさだが……まあ、そこを今更指摘しても始まらない。
  ひよりが持ってくる『お願い』は多種多様だが、大抵の場合、それを聞きもせずに突っぱねた方が痛い目に遭うのだ。
真樹菜「ほんっとにもう……ほら、さっさと入って。」
ひより「おじゃましまーす! とうっ!」
真樹菜「そのへん適当に座りなさいな――って、もう座ってるし……」
  座るどころかベッドにダイブしやがった。
ひより「えっへっへ、せんぱいの温もりが残ってますー……」
真樹菜「マジで変態っぽいからやめて。 貴方とそういう関係になる気はないわよ。」
真樹菜「……で、何の用?」
真樹菜「いつも寝坊助で遅刻常連の貴方がこんな時間に来るなんて、割と切羽詰まってるんでしょ。」
ひより「うっす。 いやヤバいのはわたしじゃなくて、わたしの友達なんですけど。」
ひより「もーほんとに困ってるみたいで、なんとかしてやりたいんですよう。」
真樹菜「その義侠心を少しは私にも分けてほしいものね。」
  まあ、それはさておき。
  傍迷惑が服を着て歩いているような人格に反して、日向野ひよりは不思議なほど顔が広い。
  交友関係は学内、いや国内に留まらず、いつぞやはアフリカ奥地の民族が彼女を訪ねてこの寮にやってきたことさえあった。
  ただ。その顔の広さが厄介事を呼び込むことも多く――今日もまた、その一つなのだろう。
真樹菜「困ってる、ねぇ……」
真樹菜「そのオトモダチは何やらかしたの? この前の貴方みたいに放火か何か?」
ひより「ほ、放火じゃないですよぅ。 あれは事故です、事故。」
ひより「ってか、そんなヤバい系の話じゃなくて。」
ひより「その友達、今お付き合いしてるカレシがお父さんと喧嘩して家出しちゃったらしいんですよ。」
ひより「もう三日にもなるのにさっぱり行方不明の音信不通らしくて。」
真樹菜「……それ見つけて、連れてこいっての?」
ひより「です。真樹菜せんぱいならって思って。」
真樹菜「ちょっと待って。私は探偵じゃないのよ?」
真樹菜「人探しなら他を……それこそ本職の探偵なり興信所なりを頼った方が良いわ。」
真樹菜「だいたいその彼氏くんがどこに居るのかも判らないのに――」
ひより「いや、学校の中にはいるんですよ。 学校っつーか、敷地の中のどっか。」
真樹菜「…………?」
  やけに曖昧で、そのくせ不思議と断定的な、妙に引っ掛かる言い方だった。
ひより「というワケでどうか! どーかひとつ、何も言わずにうんと言ってください!」
真樹菜「どうやってよ。」
真樹菜「……ま、いいわ。人探し――人探し、ね。 貴方が持ち込んでくる厄介事にしては、まだマイルドな方ね。」
真樹菜「その彼氏くんの写真か何か、特徴が判るもの持ってない?」
ひより「ありますあります。 ちょっと待っててくださいね。」
ひより「これでもかってくらい特徴に溢れた見た目してるから、見れば一発で判ると……あれヘンだな、写真どこいっちゃったかな。」
  スマートフォンの中の写真を探しているようだが、どうも時間がかかりそうだ。
  だったら今のうちに着替えた方が良いだろう。
  学校の中を捜すとなれば、制服を着ていかなければ。
真樹菜「……ん?」
  べちべち、と窓から音がする。
  この部屋は女子寮の一階。
  窓は裏庭に面していて、たまにひよりがここから入り込んでくる。
  で、今は誰かが外から窓を叩いているのだ。
  磨り硝子の窓だから、詳細な人相や風体は見て取れないけれど――
ひより「あ、来た来た。 わたしの友達ですよ。ほら、例のカレシ失踪しちゃったコ。」
真樹菜「ああ……別にそんな、窓から来なくてもいいのに。 普通に玄関から入ってくればいいじゃない。」
  何の気遣いなのかしら、と呆れながら窓を開ける。
  窓を閉めた。
真樹菜「なっ……な、ななな、なに、今の……!?」
ひより「あ、ダメですようせんぱい。そーゆーいじわるしちゃ。」
  硬直する真樹菜に代わって、ひよりが窓を開ける。
  窓の外に、怪物が居た。
  いやもう明らかに人間じゃない。
  人間サイズだけど着ぐるみとかそんなんじゃない。
  どう考えてもナマモノだ。
ひより「おっす、ぷよ子ちゃん。ちょーどハナシまとまったトコだよ。待った?」
  気安く話しかけるひよりに、怪物は『いやいや全然』とばかりに手を振った。
真樹菜「ちょ、ひ、日向野、貴方こいつ知ってるの……!?」
ひより「こいつ呼ばわりはどーかと思うんですけど。 初対面の相手に失礼ですよ真樹菜せんぱい。」
ひより「知ってるってゆーか、だから友達ですってば。」
ひより「こちらチュパカブラの血染沢(ちぞめのさわ)ぷよ子ちゃんです。 熟れてぴちぴちの十七歳なのですよ。」
真樹菜「熟女なのか少女なのかはっきりしなさいよ。」
  そこは重要だと思う。
  ともあれ、チュパカブラ。
  現代では最も有名なUMAの一つだろう。家畜を襲って血を吸うという、割と危険な類の未確認生物。
真樹菜「な、南米にお住まいのヒトって聞いたことがあるけど……」
ひより「あー、それですね。 なんかこの前、チュパカブラ村の『入口』がこっちの方と『繋がっちゃった』みたいで。」
ひより「そのうち元の状態に戻ると思うんですけど、いつ戻るかはわかんないんですよね。 今日かもしれないし明日かもしれないし。」
真樹菜「ああ、なるほど。それで私に探させようってワケね。」
  あまり時間に余裕が無い、ということだ。
  教師陣からの覚えがめでたく、部活やサークル、生徒会にも顔が効く。そんな真樹菜だからこそ、急ぎの相談にはうってつけ。
血染沢ぷよ子「×××××、××××」
  何を言っているのか判らないが、とりあえず「よろしくお願いします」的なことを言っているのは伝わった。
真樹菜「え、ええ、お気遣いなく……」
ひより「お、あったあった。 ほらほらせんぱい、これこれ。 これがぷよ子ちゃんのカレシですよ。」
  そこでようやく画像が見つかったのか、ひよりがスマートフォンの画面を見せてくる。

〇けもの道

〇部屋のベッド
真樹菜「えーと……これ? こっちのヒト?」
  なんでひよりと一緒に写ってるんだ、そもそも誰が撮ったんだ、ここ何処なんだというツッコミはひとまず脇に置いておく。
ひより「です。 名前は血祭宮(ちまつりのみや)ぽろ助くんで。 チュパカブラ村では五本の指に入るイケメンらしいですよ。」
ひより「ぷよ子ちゃんとは美男美女のお似合いカップルだってもっぱらの評判だそーで。」
  知らねえよ。

〇黒
  ――そもそもの話。
  どうして舞洲真樹菜が、日向野ひよりの相談事に応じて、その解決のために動くのか。
  中高大の一貫教育を謳う圓磨学院の生徒は、それ故に比較的裕福な家の子女が多くなる。真樹菜もひよりもその一人。
  ……が、まあ、曲りなりにも自ら望んで入学した真樹菜と異なり、ひよりの方は半ば厄介払いであったらしい。
  資産も家格も一般庶民の枠に収まらない日向野家において、ひよりはどうも『やらかしすぎた』のだとか。
  そんなトラブルメーカーを野放しにもしておけず、そこで『ひより担当』として白羽の矢が立てられたのが、真樹菜という訳だ。
  実家からも日向野家からも『お願いします』と頭を下げられれば、真樹菜としても断れない。
  『舞洲』が『日向野』に恩を売る好機。
  めんどくさい大人の計算だが、そういうものと呑み込める程度には、真樹菜も大人だった。
  という訳で、ひよりが圓磨学院に入学してからというもの、真樹菜は彼女の起こす厄介事の後始末に駆り出されている訳で――

〇学校の屋上

〇学校の駐輪場

〇体育館裏
真樹菜「……ここにもいない、か。」
  血祭宮ぽろ助くんを捜して学内を色々と見て回るのだが――今のところ、手掛かり無し。
「もしもしー? 真樹菜せんぱい、どーですかー?」
真樹菜「見当たらないわね。居た気配も無し。」
  電話越しにひよりから進捗を訊ねられるが、成果らしい成果は皆無である。
「いやー、それにしてもすいませんねせんぱい。 ぽろ助くん捜しぜんぶ任せちゃって。」
真樹菜「なんかすっごい今更な気がするんだけど……」
真樹菜「ま、しょうがないわ。貴方美術室とか保健室とか、色々出禁になってるし。 探し物というか、人探しには向いてないでしょ。」
真樹菜「それはそうと……ぽろ助くん、『血の匂いが残ってるところ』に居る可能性が高いのよね?」
「です。 まーチュパカブラですからね、血の匂いには割と敏感らしいのですよ。」
真樹菜「……ねえ、ぽろ助くんもぷよ子ちゃんもそうだけどさ。 人を襲って血を吸ったりとかはしないのよね?」
「人? あー、どうなんでしょーね。 ぷよ子ちゃん、どう? 血吸ってみる?」
「××××。×××、××××」
「そっかそっか。 ぷよ子ちゃん、吸わないって言ってますよ。 なんか人間の血って美味しくないんだそーで。脂っぽいんですって。」
真樹菜「好みの問題なの……?」
真樹菜「ま、生徒が襲われる可能性がないならいいわ。 にしても、ここ――いま体育館裏だけど、ここで血の匂いはしないでしょ。」
真樹菜「屋上と駐輪場と体育館裏が怪しいって言ってたけど。 屋上と駐輪場はこの前献血やってたから判るけど、ここは何かあった?」
「え? そこですよね、真樹菜せんぱいがこの前不良どもと大喧嘩したの。」
真樹菜「け、喧嘩ってほど大したものじゃないわよ。 ちょっとタバコ吸ってた連中を注意しただけ。」
  そう、『注意』しただけだ。
  良家の子女が多く通う圓磨学院ではあるが、生徒全ての素行が良い訳ではない。
  今回は少しだけ不運なことに、『注意』が口頭だけに留まらず、肉体言語も必要になったという話である。
「不良八人をぼっこぼこにしたらしいじゃないですか。 現場とか血まみれのすげーことになってると思ったんですけど。」
真樹菜「ああ……そんな血は出てないわよ。 手足の関節外して転がしただけだから。」
  中国拳法、鷹爪翻子拳の流れを汲む擒拿術。要は中国流の関節技。
  大陸との貿易を営む実家の伝手で、真樹菜は幼少の頃に数年ほど、中国拳法の使い手に師事したことがあった。
  その時修めた技も、今はだいぶ我流に崩れているが――素人の不良をあしらう程度、造作も無い。
「かるーく言ってますけど、それ結構スゴいことなんじゃ……」
真樹菜「要は『押す』か『押さない』かよ。 即断即行ができれば誰にでもやれるわ。」
真樹菜「……そういえば、梶田先生が怪我したのもこの辺だったかしら。」
「あー、高等部の体育のせんせいですよね。 渡り廊下の蛍光灯取り換えようとして脚立から落ちたんでしたっけ。」
「脚立の金具に腕ひっかけて血がどばーって聞きましたけど。 本人はアタマ打って気絶してたって。」
真樹菜「ええ。他の教師が見つけて、あわてて救急車呼んだそうよ。」
真樹菜「まあ、数針縫った程度ですぐ退院したそうだけど。あの人も大概丈夫よね。」
「ですねー……あ。そうだそうだ。梶田せんせいで思い出した。 せんぱい、まだ探してないところあったですよ。」
真樹菜「そう? じゃあちょっと見てくるけど……どこかしら?」
「更衣室ですよ更衣室。 たぶん男子のほう。 バスケ部とかが使ってるところ。」
真樹菜「……は?」
「ほら、先月第三体育館で派手な乱闘あったじゃないですか。茶道部と空手部の。」
真樹菜「いや、まあ、確かにあったけど…… 空手部が茶道部の『茶の湯殺法』にぼろ負けしたっていうあれよね?」
「です。 あれって確か、更衣室で空手部員が茶道部員のふんどしからかったのが原因ってハナシで。」
  乱闘の発端が更衣室であるのなら、そこで流血沙汰というのは、成程解らなくもない。
  ……だが。それは、つまり。
真樹菜「……貴方、私に、男子更衣室に忍び込めって言ってんの?」
「はい! よろしくお願いします!」
  満面の笑顔で言ってるんだろうなあ、とすぐに判る声音で、ひよりは頼んできた。
  ――戻ったら、一発ひっぱたいてやろう。

〇更衣室
  ――当然のことではあるが。
  男子生徒が女子更衣室に踏み入ったならば、そこで何もせずとも(盗撮とか下着泥棒とか)停学処分が待っている。
  無論、何かやらかしたならば即退学だ。
  こうもはっきり名言されているからには、恐らく誰か『前例』となった者がいるのだろう。
  一方で、女子生徒が男子更衣室に侵入した場合の罰則は明らかになっていない。
  男子更衣室に忍び込むような変態系女子はさすがに前例がなかったのだろう。
  ……だから。
  今日の舞洲真樹菜が、最初の一人。
真樹菜「~~~~~~っっっ…………!!」
  変態系女子第一号は悶絶していた。
  汗やら汁やらが蒸発して発酵して腐ったような酸っぱいような饐えたような、十七歳女子の鼻には耐え難い臭いが充満している。
  ……普段、この更衣室を使う男子バスケ部は校外へランニングに出ているらしく、体育館の中は閑散としている。
  これ幸いと更衣室に忍び込んだ真樹菜を襲ったのが、この『かぐわしき青春』であった。
真樹菜「ったく……! なんで男子って、こんな臭いさせといて平気なの……!?」
  こういう臭いに男は鈍感という話は良く聞くし、或いは河豚が自分の毒で死なないようなものなのかもしれない。
  しかしさすがにこれは無いだろうと怒鳴りたい気分だった。
  せめて洗濯物くらい持ち帰れ。
真樹菜「ああもう、さっさと探して出てかないと……! 臭い染みついたりしないわよね……!?」
  更衣室の中で人(と同じサイズの生物)が隠れられるのはロッカーの中くらいだ。
  真樹菜は片っ端からロッカーを開けていく。
  バスケ部員の防犯意識を云々するのはまた今度。
  ……結果として、そのどれもが外れくじであったのだけれど。
真樹菜「んー……やっぱり、居ないわよね。」
  一通りロッカーを開けてみるが、チュパカブラの姿はどこにも見当たらない。
  ――と。
真樹菜「ん?」
  妙な物音がした。
  振り向いてみると更衣室の隅に、何故か一つだけ、隔離されているかのようにロッカーが置かれている。
  事実、それは隔離されていたのだ。
  『七不思議』的な怪談めいた理由から――無論、真樹菜には知る由も無いことだが。
真樹菜「ちょっと? どなたか、中に入ってます?」
  がんがん、と乱暴に扉を叩いて呼びかける。
  反応は覿面だった。
  がたがたがたっ、とロッカーの中から音が聞こえてくる。
  いかにも誰か入っていますとばかりの音。
真樹菜「――ああ。君が、ぽろ助くんね。」
  ロッカーの中に、チュパカブラが入っていた。
  見た目はひよりに見せられた写真とほぼ同じ。
  男女差だろうか、ぷよ子より幾らか背も高く、横幅も広い。
  恐らく――彼が血染沢ぷよ子の彼氏、血祭宮ぽろ助だろう。
真樹菜「ええと、血祭宮ぽろ助くんよね? 私は舞洲真樹菜。血染沢ぷよ子ちゃんの頼みで、貴方を捜しに来たんだけど――」
真樹菜「……ええと。 貴方、それ出られる?」
  そこそこ大柄なチュパカブラは、半ば無理矢理ロッカーの中に収まっている。
  みっちり詰まって缶詰のような有様。
  何とか出ようと試みている様子だが、あちこち引っ掛かってとても出て来れそうにない。
真樹菜「……ちょっと待っててね。」
真樹菜「もしもし、日向野? ええ、ぽろ助くん見つかったわ。」
真樹菜「――で、ちょっと手伝って頂戴。 私一人じゃ、引っ張り出すの無理そうなのよ。」

〇更衣室
  連絡を受けたひよりがぷよ子を連れて駆けつけて。
  ロッカーに詰まったぽろ助に驚いて。
  三人がかりで彼を引っ張りだして――
  そうして、ひよりに連絡してからおおよそ三十分後。
  離れ離れの恋人たちは、遂に再会を果たしたのであった。
真樹菜「……ええと。 これ感動的な光景なのよね?」
ひより「ですよう。 え、なんで真樹菜せんぱい泣いてねーんですか。」
真樹菜「いや……だって……ねえ?」
  目の前ではぽろ助とぷよ子がひしと抱き合って、改めて再会を喜んでいる。
  ひよりはさも良いものを見たとばかりに鼻をすすっているが、真樹菜はいまいち乗り切れずに冷めた顔だった。
真樹菜「ほらほら、さっさと支度してここ出てって。 もうじきバスケ部が戻ってくるから、貴方たち見られたら大騒ぎよ。」
  ぱんぱんと手を叩いて、感動の再会を終わらせる。
  抱擁を交わしていたぽろ助とぷよ子が真樹菜の方に向き直ったかと思うと、そろってぺこりと頭を下げた。
  何の仕草かと思ったが――どうやら、感謝の意を示しているらしい。
真樹菜「い、いいわよ、お礼なんて。」
ひより「あ、照れてる? 照れてますねせんぱい? やだもーかわいいなせんぱい――」
ひより「――って、いたーい! なんで叩くんですかあ!」

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コメント

  • 主役の二人の女の子が、会話の掛け合いも楽しく、なんだかんだお互いを気に入っているような関係性が良かったです。主人公の先輩も、クールそうに見えて、意外と感情が漏れているところが魅力的だと思いました。また、途中で怪物が登場したり、最後の展開についてもそうですが、次に何が起こるか全く読めない楽しさがありました。後編も楽しみにしています!

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