第7話 配偶者推進プロジェクト 前編(脚本)
〇黒背景
???(“愛している”あなたを愛している・・・)
???(・・・。ありがとう。でも僕達は 一緒になることは出来ないんだよ)
???(どうして?)
???(君は機械だからね。 それに僕には愛する妻もいる・・・)
???(何故、一人に限定する必要があるの?)
???(愛とはそう言うものだからだ)
???(“愛している”それ以上の言葉があったと したら、あなたと一つになれるの?)
???(・・・すまない)
???(どんな言葉を並べたとしても、 それは叶うことのない願いだ・・・)
〇古書店
私は今朝、見た夢の事を
バベルさんに話していた。
ミア「いつもは独白のようなメッセージだったんですけど、今回は誰かと話していたんです」
バベル「でも身に覚えは無いんだよね?」
ミア「はい」
バベル「うーん。もしかしたらミアちゃんが 見たのは他の誰かの記憶かもしれないね」
ミア「誰かの記憶?」
バベル「うん。先祖の記憶とかね」
ミア「うーん。それも何か 違う気がするんですよねぇ・・・」
バベル「でもまあ、実のところ、 基本言語プログラムは分かっていない 部分も多いんだよ」
ミア「それって大丈夫なんですか?」
バベル「もちろん安全面は保証するよ。祖父の代に作られて以降、僕が改良を重ねたからね」
バベル「おかしな夢を見る人は多い。前にも言ったけど、あんまり気にしないようにね」
ミア「はい・・・」
バベル「あっそう言えば、明日から僕、 出張だからしばらく留守にするよ」
ミア「えっ、あの聞いて無いんですけど・・・」
バベル「ごめんごめん。すっかり言い忘れてたよ。 アハハ」
ミア「はぁ・・・」
バベル「だから言葉を覚えたい人が来ても、 しばらくは無理だからよろしくね」
そう言って調子よく笑うバベルさんを
私は呆れた顔で睨んだ。
〇おしゃれなリビングダイニング
私が家に帰ると、珍しく来客が来ていた。
その来客は綺麗な女性の人だった。
ミア(ああそう言えば今日だったか・・・。 政府から役員が来るのは・・・)
彼女は“配偶者推進プロジェクト”の役員。
配偶者の紹介から、両家の間に立ち、
お互いにベストな形で結婚出来るよう
取り計らうのが彼女の仕事だ。
私にも、とうとう配偶者候補が決まった
事を伝えるためにやって来たのだ。
配偶者推進プロジェクトでは、遺伝子の
配列だけでなく、お互いの職業に関し、
慎重な協議が行われる。
世帯主がどちらの職業を家業にするかも
含め、政府と、お互いの家を通し、
慎重に協議される事になる。
父は結婚に対し、私の意思を
尊重してくれるようだったが、
肝心の私はと言うと複雑な思いだった。
頭によぎるのは、
何故かカナタの笑顔だった・・・。
〇綺麗な病室
カナタ「へぇーミアに配偶者か・・・」
ミア「どう思う?」
カナタ「良いと思う」
ミア「え・・・?」
カナタ「僕はそもそも配偶者推進プロジェクトは 結構気に入ってるんだ。合理的だし」
カナタ「それに実際、ブラムさんにサラさん。 それにアンナさんだって、 それで素晴らしい出会いがあったワケだし」
ミア「そうだけど・・・その、カナタは良いの?」
カナタ「何が?」
ミア「いや、その、私が結婚しても・・・・」
カナタ「それがミアの幸せに繋がるんなら 良いんじゃないかな?」
カナタはいつものように
無邪気に笑っている。
いつもは心惹かれるその笑顔も
今回は無性に腹が立つ。
ミア「あっそ! じゃあ結婚するから!」
カナタ「何で怒ってんの? 僕何か言った?」
ミア「別に怒ってないし!」
カナタ「変なヤツだなぁ・・・」
実際、私も何故こんなに腹が立つのか、
よく分かっていなかった。
その時、窓から誰かが侵入してきた。
私とカナタより少し年上の男性だ。
カイ「よっ! カナタ! 邪魔するぜ」
ミア「誰ぇ!?」
カイ「俺はカイ! こいつの兄貴みたいなもんだな!」
そう言ってカイさんは
カナタの頭をグリグリする。
カナタ「兄貴だなんて、思ったことないよ・・・」
ミア「この人もテレパシー障害なの?」
カナタ「そうだよ」
ミア「何で窓から?」
カイ「見つかると面倒だからな。 それよりお前のこと知ってるぞ! 例のコンサートで歌を歌ってたヤツだろ?」
ミア「え・・・」
カナタ「ミア、ここじゃかなり有名人だよ」
ミア「ウソでしょ・・・」
最近ここに来るまでに視線を感じるのは
そう言うことだったのか・・・。
カナタ「カイ。今日もあの人の所に行ってきたの?」
カイ「まあな・・・」
ミア「あの人って?」
カナタ「カイの・・・恩人かな?」
ミア「何かハッキリしないね」
カイ「ああ・・・そう。ハッキリしない・・・」
先ほどとは打って変わって
何だか元気が無い様子だ。
カナタ「どうしたの?」
カイ「ああ。それがな・・・もうすぐ 彼女と会えなくなるかもしれないんだ」
ミア「どう言うことですか?」
カイ「彼女、結婚するらしい・・・」
カナタ「良い事じゃん」
カイ「まあそうなんだけど・・・」
ミア「あんまり嬉しそうじゃないですね」
カイ「ああ・・・。 何て言うかその、複雑なんだ」
カイ「彼女が他の人と一緒になる事を考えると 嫌なんだよ。 自分でも良く分からないけど・・・」
ミア「分かる気がします・・・」
カイ「分かってくれるか!」
カナタ「でもその人とは、ほぼ面識ないんでしょ?」
カイ「・・・・・・」
カナタ「相手は言葉分かんない訳だし・・・」
ミア「カナタは黙ってて!」
カイ「そうだそうだ」
カナタ「・・・・・・」
ミア「カイさんはその女性と、会えなくなる前に 友達になりたいんですよね?」
カイ「友達と言うか・・・その、 彼女の傍にずっと居られる存在に なりたい・・・と思っている」
カイ「この気持ちも よく分からないんだけどな・・・」
ミア「うーん。その人に言葉を覚えて貰おうにも バベルさんは今、出張行ってるし・・・」
カナタ「じゃあカイが彼女の結婚相手に なれば良いんじゃない?」
カイ「え・・・?」
ミア「あ、そうだよ! 配偶者推進プロジェクトは 強制じゃないし、カイさんが彼女と 結婚すれば傍に居られます!」
カナタ「まあ彼女次第だけどね・・・」
カイ「彼女の傍に居られる・・・」
ミア「はい!」
カイ「だけど言葉が通じないぞ? どうやってその意志を伝えるんだ?」
ミア「それは私に任せて下さい! テレパシーを通して、 カイさんの言葉を彼女に伝えますから!」
私は自信満々に胸を叩いた。
〇ビジネス街
ミア「ここがその女性の働いているビルですね。 でもここって政府の建物じゃ・・・」
カイ「ああ、彼女は配偶者推進プロジェクトの 役員だからな」
ミア「え?」
カイ「彼女が来たぞ」
カイさんの言う彼女とは、私の担当の
役員のあの綺麗な女性の人だった。
ミア「あの人・・・」
カイ「知り合いか?」
ミア「私の配偶者推進プロジェクトの 担当役員です」
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