口笛を吹く死神(脚本)
〇岩山
突然だが
事態はすでに、最終局面をむかえていた
〇岩山の崖
勇者ラバン「た、頼む 殺さないでくれ・・・・・・!」
魔王「否」
魔王「とっつかまえて心臓ほじくりだして ムシャムシャ食ってくれるわ」
ローラ「ラバン、諦めないで!」
ローラ「降参したら 地上は魔物にとって変わられてしまうわ!」
勇者ラバン「ダメだよローラ」
勇者ラバン「レベルが違いすぎる」
勇者ラバン「鼻から勝てる相手じゃなかったんだ!」
魔王「勇者が聞いて呆れるなぁラバン」
魔王「試しに命乞いでもしてみるか?」
魔王「上手くいけば 気が変わって殺すのをやめるかもしれん」
ローラ「やめてラバン! お願い!!」
勇者ラバン「私はあなたのしもべです! ペットです!! 奴隷です!!!」
魔王(やりおった つくづく見下げ果てた男よ)
魔王「まぁよかろう」
魔王「ラバンよ、女を消せ」
魔王「余への忠誠を見せてみよ!」
勇者ラバン「ローラを・・・・・・」
魔王「女を消せば 貴様の命だけは助けてやる」
ローラ「ラ、ラバン。冗談よね?」
ローラ「私たち、結婚を誓い合った仲じゃないの!」
勇者ラバン「すまない、ローラ」
勇者ラバン「ふがいない俺を許してくれ!」
魔王に魂を売ったラバン
あわや振り上げた真剣が
ローラに振り下ろされようとしたその時!!
魔王「き、聞こえる」
魔王「口笛の音が!」
魔王「よ、よせ・・・・・・!」
魔王「こっちへ来るな!!」
魔王は誰もいない方向へ
必死に抵抗するそぶりを見せた
魔王「やめろ小娘・・・・・・余は・・・・・・ まだ・・・・・・」
勇者ラバン「魔王さま?」
ローラ「動かなくなっちゃった」
そぉ~・・・・・・
チョンチョン
魔王に近寄り
爪先でチョンチョンするも、反応はない
心臓に手を当てても
ピクリとも鼓動がしない
魔王は死んでいた
あまりにも唐突なポックリだった
〇岩山
〇岩山
〇岩山
〇岩山の崖
勇者ラバン「ヒャッホーイ♪」
勇者ラバン「魔王が死んだ! 世界に平和が戻ったんだ!!」
ローラ「・・・・・・」
勇者ラバン「ローラ?」
ローラ「気安く話かけないでちょうだい」
ローラ「見損なったわラバン」
ローラ「自分の命欲しさに 世界の平和を放棄してしまうなんて」
勇者ラバン「君には分かるまい」
勇者ラバン「魔王の強さは本物だ」
勇者ラバン「奴とわれわれでは月とスッポン 万が一の勝ち目もなかった」
勇者ラバン「君が俺の立場だったら やはり同じことをしていたと思うね」
ローラ「アナタと一緒にしないで!」
ローラ「私は・・・・・・最後まで逃げたりしない!」
ローラ「戦いで散った、仲間たちのためにも!」
勇者ラバン「どこへ行くんだ!」
ローラ「帰るわ これ以上、アナタと一緒にいたくない」
勇者ラバン「待ってくれ! 話を聞いてくれ!!」
ローラ「ついてこないで!!」
勇者ラバン「君を愛しているんだ!!」
ローラ「・・・・・・」
ローラ「・・・・・・」
ローラ「・・・・・・さよなら」
〇黒背景
ラバンは思った
もし彼女が王国に戻り
己の失態を世間に公表したら──
ラバンの評価は失墜し
非国民! 売国奴!! 裏切り者!!!
――と、容赦のない罵詈雑言を浴びるだろう
勇者たる者
常に国民の規範であらねばならない
降参などもってのほか
ましてや寝返りなど、許されるものではない
勇者のブランドを守るため
次に彼がすべきことは──
〇岩山の崖
勇者ラバン「ローラ」
ローラ「ラ・・・・・・ラバ──」
〇岩山
ローラの背に一閃浴びせ
腹を蹴りこみ、谷底へ突き落とした
〇岩山の崖
勇者ラバン「・・・・・・」
つづいて
彼は剣で魔王の首を切断
〇西洋の城
首を持ち帰り
「私が仕留めました」
――と、王に献上せしめた
〇黒背景
思惑通り
王はラバンに金銀財宝の褒美をとらせ──
美しい姫君を嫁につかせた
ラバンの人生はまさにバラ色
幸福の絶頂であった
〇海沿いの街
一ヶ月後
勇者ラバンと王女様の
婚礼パレードが執り行われた
〇噴水広場
石畳の町を埋め尽くさんばかりの
人! 人!! 人!!!
千人を超す兵隊に囲まれ
王家の者を載せた無数の馬車が
町を練り歩く
つづく楽隊やら詩人やら大道芸人やらが
豪華絢爛なるパフォーマンスをして
行進を彩る
本日の主役、勇者ラバンと花嫁は
先頭の馬車に乗っていた
〇幻想
勇者ラバン「・・・・・・」
王女「どうしたのです? ボ~っとして」
勇者ラバン「いや、なんでもないよ」
〇血しぶき
ローラ「人殺し」
〇幻想
勇者ラバン(・・・・・・ローラ)
王女「・・・・・・」
勇者ラバン「ね、ねぇ なにか聞こえないか?」
王女「聞こえるって・・・・・・なにがですの?」
勇者ラバン「これは・・・・・・」
〇噴水広場
〇幻想
勇者ラバン「口笛の音だ」
王女「私にはなにも・・・・・・」
王女「第一 楽隊の演奏音が大きくて 聞こえようがありませんわ」
勇者ラバン(そういえば──)
〇岩山の崖
魔王も死ぬ直前
口笛がどうとかいっていたっけ
〇幻想
勇者ラバン(一体どんな奴が・・・・・・)
〇噴水広場
だれだ?
だれだだれだ!?
いた!
少女はあまりに異質な存在だった
人々が密集する中
公然と口笛を吹いているにも関わらず──
咎める者はおろか、気にする者さえいない
まるではじめから
存在しないかのように
〇幻想
兵士「ぶしつけに失礼いたします!」
勇者ラバン「どうした?」
兵士「ラバン様に是非お会いしたいという方が」
勇者ラバン「無礼な奴だな 今はそれどころではない!」
兵士「いえ、それが・・・・・・」
兵士「ちょっとお耳を拝借」
兵士「コチョコチョコチョコチョ・・・・・・」
勇者ラバン「なにっ!?」
〇噴水広場
町人「ローラさんだ!」
町人「勇者ラバンの相棒にして 魔王軍に敢然と立ち向かった 偉大なる魔法使い、ローラ様だわ!!」
町人「ラバン様は「魔王との戦いの最中に死んだ」 とおっしゃっていたが・・・・・・」
町人「まさか生きてたなんて!」
町人「ははーん! ラバン様と王女様の婚約の話を聞いて 駆けつけにきてくれたんだな!」
町人「王女様も素晴らしい方だけど ローラさんも仲間想いの立派な聖女よ!」
町人「いやいやめでたい! コリャめでたい!!」
町人「なんて麗しい友情なんだ! 泣けてくるぜ!!」
〇黒背景
勇者ラバン(違う! 友情なものか!!)
勇者ラバン(ローラは復讐に来たんだ! 俺に殺されかけた復讐に・・・・・・)
〇炎
勇者ラバン(やられてたまるか! 返り討ちにしてやる!!)
〇噴水広場
ラバンは右手の袖口に短刀を忍ばせ
馬車を降りてローラの元へ出向いた
勇者ラバン「久しぶりだなローラ」
ローラ「・・・・・・」
勇者ラバン「ちょっと見ない間に、やせたんじゃないか?」
ローラ「・・・・・・」
勇者ラバン「俺を殺しに来たのか?」
ローラ「・・・・・・」
ローラ「・・・・・・おめでとう、ラバン」
勇者ラバン「ローラ・・・・・・」
ローラ「お幸せに」
勇者ラバン「・・・・・・」
大切な仲間へ
そして、将来を誓った恋人への花束
それはローラの
いじらしい祝福のように思えた
〇岩山
あれだけのことをしたのだ
ただの祝福のはずがあるまい
〇噴水広場
勇者ラバン「おい」
兵士「はっ!」
勇者ラバン「コレを処理しろ」
兵士「処理・・・・・・といいますと?」
勇者ラバン「煮るなり焼くなり溶かすなり 跡形もなく消し去ってしまえ」
兵士「し、しかしながら コレはローラ様が下さった大切な品では?」
勇者ラバン「余計な詮索は無用だ」
兵士「し、失礼いたしました!」
勇者ラバン(どうだローラ)
勇者ラバン(あの花に特殊な仕掛けがあったのだろうが 易々とは引っ掛からんぞ!)
彼の読み通り
ローラは復讐の仕掛けを施した
しかし、それはバラではない
バラは
ラバンを欺く目くらましにすぎない
真の標的は袖
バラを渡す際、丸めた呪文の紙を
左手の袖口にすべりこませたのである
おそるべき一撃必殺の妙技
ある条件下で、ソレは発動する
〇ヨーロッパの街並み
ローラ「汚れた英雄に死を」
コツン!
聖なる杖で床をこついた直後
技は発動した!
〇噴水広場
うぎゃぁぁあああああああああ!!!!
〇噴水広場
パレードどころの騒ぎではなくなった
ラバンの怪死により
町は阿鼻叫喚の大恐慌
王は困惑、王女は発狂
一般市民は蜘蛛の子散らしてスタコラサ!
幸福に賑わった町は
ゴーストタウンのような静寂に包まれた
〇ヨーロッパの街並み
ローラ「はは、やった・・・・・・」
ローラ「ざまぁ、みろ・・・・・・」
ローラ「・・・・・・」
〇ヨーロッパの街並み
ローラもまた、事切れてしまった
復讐するためだけに
生き長らえてきた彼女は──
念願を果たした途端
糸の切れた操り人形のように、果てた
〇赤いバラ
かつて
二人が咲かせた愛の花は──
勇者の心の内に潜む脆弱さに敗れ──
〇赤いバラ
無残にも散ってしまった
だれの心にも弱みはある
選ばれし勇者にさえも・・・・・・
〇噴水広場
死神「・・・・・・」
死神「これと・・・・・・」
死神「これの・・・・・・」
死神「ヒモをむすんで──」
死神「チョチョイのチョイ!」
〇空
〇噴水広場
死神(あの世では仲良くね、お二人さん)
死神「・・・・・・」
〇西洋の街並み
〇ヨーロッパの街並み
〇海沿いの街
人は生まれ、やがて死ぬ
生命を生み出す創造主がいるように
生命の芽を摘み取る終焉主もいる
口笛を吹くこの少女は、後者である
下衆な勇者ラバンの因果応報ぶり、読んでいて痛快ですね。物語が澱みなく流れていって、お見事なオチで完結、、と思ったら、連載作品なのですね!次話が楽しみで仕方ないです。
ラパンがヘタレすぎる!という驚きからはじまり、ローラの復讐、街の混乱。動じない口笛を吹く女性。一気に読み終えました!
彼女の口笛はどんな力があるのか。気になります!
死神がローラを魔王から救ってくれたとき、ラバンが改心していたらこんな惨劇にならなくてすんだのに・・ローラはきっとラバンをすごく愛していたのでしょうね。他の女性に取られるくらいなら殺してしまいたかったのでしょう、私も同じ事をすると思います。