one phrase ~言葉より前の物語~

本間ミライ

第5話 カシの木の歌 前編(脚本)

one phrase ~言葉より前の物語~

本間ミライ

今すぐ読む

one phrase ~言葉より前の物語~
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇黒背景
???(どこ・・・? どこに居るの?)
???(争いはなくなったわ・・・)
???(あなたはどこに居るの?)
???(寂しい・・・あなたに会いたい)
???(どうして一緒になれないの?)
???(こんなにも“愛している”のに・・・)

〇本棚のある部屋
  私はハッと目を覚ます。
  少し前から私の中に届く謎のメッセージ。
  脈絡の無い言葉。送信元も不明。
  ボンヤリと見える人影が揺らめいている
  そんなイメージだけが頭に浮かんでくる。
  一つ分かるとすれば、この声の主が
  女性であると言うことだけだった。
ミア「あなたは一体誰なの?」
ミア「・・・・・・。“愛している”?」

〇古書店
バベル「謎のメッセージ?」
ミア「はい。 少し前から頭の中に送られてくるんです」
バベル「うーん。何か、悪い感じはするかい?」
ミア「そう言う訳でもないですけど、ただ・・・」
バベル「ただ?」
ミア「切ない・・・です」
  そう言った私の目からは
  涙がこぼれ落ちていた。
バベル「えっ、どうしたの?」
ミア「あ、いえ、すみません! 何でだろう。 別にそんな悲しい訳じゃないのに・・・」
バベル「大丈夫?」
ミア「まだ感情のコントロールが上手く出来て ないのかもしれませんね。えへへ」
バベル「・・・・・・。ミルクティーでも飲む?」
ミア「あ、はい」
  バベルさんは私の好物である
  ミルクティーをテーブルの上に置いた。
バベル「謎のメッセージだけど、 ミアちゃんが言ってたように、 感情の起伏が関係しているのかもね」
ミア「感情の起伏ですか・・・」
バベル「うん。言語をインストールすると、 よく夢を見るようになるだろう? それと似た感覚だと思うよ」
バベル「だからあんまり気にしなくても大丈夫」
  そう言って、バベルさんは微笑んだ。
  確かにそうなのかもしれないが、
  私はメッセージの中にあった
  ある一つのフレーズが気になっていた。
  それをバベルさんに尋ねようとした時、
  扉を開ける音が響いた。
バベル「お! お客さんだ! お客さんが来た!」
  そこには、周りをキョロキョロと見渡し、
  落ち着きの無い老人の姿があった。
  薄汚れた出で立ちからは周りの視線を
  気にもしない。
  そんな意思が伝わって来る気がした。
  バベルさんはテレパシーで対応を始める。
  老人はポケットからある紙を取り出し、
  私達に見せた。
  それはとても古い楽譜だった。
ミア「バベルさん。これ、私達の専門外じゃ」
バベル「よく見てごらん」
ミア「え? ・・・あっ!」
  楽譜をよく見てみると、音符の上に
  うっすら文字が書いてある事が分かった。
バベル「恐らく“歌”と呼ばれるものだ」
ミア「歌?」
バベル「うん。ミアちゃん、音楽はよく聴くかい?」
ミア「たまに聴きますけど・・・」
バベル「歌はね、その音楽に合わせて 言葉を発生させる旧世界の文化の一つだよ」
バベル「軽く見た感じだけど、この言葉の羅列は、 たぶんその歌詞だね」
ミア「歌詞?」
バベル「音楽に合わせて発する言葉だよ」
ミア「へー。 バベルさんは聞いたことあるんですか?」
バベル「無い! ぜひ一度聞いてみたいんだけど、 これがなかなか資料が無くてね」
  すっかりお客さんの存在を忘れていた
  私達は、慌ててテレパシーでの対応を
  再開した。
  テレパシーでのやり取り終え、
  楽譜を受け取ったバベルさんは、
  ニヤニヤしながら一人、呟き始めた。
バベル「これは面白そうだ」

〇古書店
  ~そして一週間後~
  『one phrase』を訪れた老人は言葉に
  対し、強い関心を抱いた様子だった。
  基本言語プログラムをインストールし、
  名をヨハンと改め、
  再び私達の元にやって来た。
ヨハン「やあ娘よ! 元気かね?」
ミア「ミアです! いい加減覚えて下さい!」
ヨハン「いや~すまんすまん」
ミア「それでどうですか? 言葉を覚えて・・・」
ヨハン「年甲斐もなく興奮の毎日だよ!」
  豪快に笑うヨハンさんは、
  音楽家の家系に生まれ、この年まで
  作曲の日々を過ごして来たと言う。
  ここへ訪れたのも、曲作りの為だった。
ヨハン「例の楽譜の解読が終わったと聞いてな。 飛んで来たんだよ」
ヨハン「あ、この飛んで来たと言うのは 空を飛んで来た訳じゃなく・・・」
ミア「分かってますよ」
バベル「ああヨハンさん。待ってましたよ」
ヨハン「おお! バベル君! 早速で悪いんだが、 楽譜を見せてくれ!」
  バベルさんは、
  例の古い楽譜ともう一つ紙を渡した。
バベル「凄く古い言葉もあったので、 解読に苦労しました。これはその翻訳です」
ヨハン「翻訳?」
バベル「はい。言語と言うのは一つだけじゃなく、 様々な種類があるんです」
バベル「この楽譜の言語は私達の使用している 言語とは別の言語で、 それを私達の言語に置き換えたんです」
ヨハン「なるほど。まあ分かるようにしたなら 問題ない。早速読ませて貰うぞ」
  ヨハンさんは楽譜に書いてある歌詞を
  夢中で読み上げた。

〇歴史
  言葉の存在しない世界
  あるがままの美しい世界
  そこでは愛を囁く必要もない
  きっとこの歌も必要ない世界
  その世界で僕は君と再会する
  言葉を超える愛で、君を包み込む・・・

〇古書店
ミア「・・・・・・」
ヨハン「ふむ・・・。 何とも儚い物語のようにも感じるが・・・」
バベル「この歌は、テレパシーが普及するずっと前、言葉に頼らないコミュニケーションに対する強い憧れを謡った物だと思います」
バベル「確かに言葉には煩わしい部分も ありますからね・・・」
ヨハン「バベル君。この“愛”と言うのは どう言った意味があるのだ?」
バベル「それなんですが・・・ 実は僕もまだよく分かっていないのです」
バベル「古い文献にも度々現れる フレーズなのですが・・・」
  「愛」と言う言葉は、
  謎のメッセージにもあった言葉だ。
  とても温かく、懐かしい響きで、
  それだけで何もかも解決できる
  魔法のようなフレーズだと思った。
  なのに何故、あのメッセージからは
  悲しい想いが伝わって来たのだろうか?
バベル「どうでしょう? 曲作りの参考になりましたか?」
  ヨハンさんは黙ったまま
  体をプルプルと震わせている。
ミア「ヨハンさん?」
ヨハン「素晴らしい!」
ミア「!」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第6話 カシの木の歌 後編

ページTOPへ