エピソード1(脚本)
〇CDの散乱した部屋
よしお「え?」
よしお「ええぇ!?」
足塚おさむ「む・・・ここは?」
足塚おさむ「やけに身体が軽いな」
よしお「このエロ本を開いたら人が・・・」
足塚おさむ「バカ野郎!」
よしお「いでっ!」
足塚おさむ「俺のエロ本じゃねぇか」
よしお「あんたどこから出てきたんだ? エロ本から飛び出たように見えたが・・・」
足塚おさむ「うむ 俺は胃癌で死んだはずだ」
よしお「え? 胃癌ってホントすか?」
足塚おさむ「嘘をついてどうなる」
足塚おさむ「死んだときは60くらいだったが 今は30歳くらいのときの身体だな」
よしお「60歳に胃癌で亡くなって その風貌・・・あんたまさか・・・」
よしお「漫画の神様 足塚おさむ先生!?」
足塚おさむ「うむ、いかにも 俺は足塚おさむだ」
よしお「えぇえええええええッ!!!」
〇CDの散乱した部屋
よしお「足塚先生にお願いがあります!」
足塚おさむ「何だ?」
よしお「俺、漫画家目指してるんです!」
よしお「今月末締め切りの 足塚賞に作品を出したくて・・・!」
足塚おさむ「バカ野郎!」
よしお「いでっ!!!」
足塚おさむ「俺の名前を冠した賞なんだろ!」
足塚おさむ「それに俺のアドバイスをもらいだって!?」
足塚おさむ「・・・」
足塚おさむ「おもしれぇじゃないか」
よしお「何で殴ったんすか!?」
足塚おさむ「ひとまず・・・ 今の時代の漫画を読んでみたい」
よしお「いいっすよ 漫画大好きでたくさんあるんで」
足塚おさむ「どれどれ・・・ マンピース・・・」
足塚おさむ「デススマホ・・・ ふん、どれも絵は描けてるな」
足塚おさむ「でも肝心なのは中身」
足塚おさむ「いまだ俺が漫画の神と呼ばれているなら この時代の漫画など・・・」
〇CDの散乱した部屋
足塚おさむ「よしおぉおおおおおおっ!!!」
よしお「何すか?」
足塚おさむ「この時代の漫画は・・・」
足塚おさむ「クソだ!」
足塚おさむ「何もわかってない」
足塚おさむ「俺のほうがおもしろいものを描ける」
よしお「めっちゃ目キラキラさせて 足ばたつかせながら読んでましたけど」
よしお「ラブコメとかニヤニヤだったじゃないすか」
足塚おさむ「はぁ?」
足塚おさむ「そんなことしてないしぃ」
よしお(そういえば嫉妬深い人だったらしいな)
足塚おさむ「この時代の人間に 漫画が何たるかを分からせてやるぞ」
よしお「は、はい・・・」
よしお「漫画とは何なんですか?」
足塚おさむ「バカ野郎!」
よしお「いでっ!!!」
足塚おさむ「お前の頭は飾りか?」
足塚おさむ「自分で出す答えに意味があるんだよ」
よしお「その通りっす!」
よしお(教えてやるって意気込んでたのに! 自分で考えろってどっちだよ!)
足塚おさむ「「祈り」だ」
よしお「へ?」
足塚おさむ「人間の醜さ、汚さ、葛藤、美しさ、 尊さを描ききったとき」
足塚おさむ「それは自ずと祈りになる」
足塚おさむ「作者の人間への想い、エゴが溢れ、 未来に届く「祈り」へと昇華されるもの」
足塚おさむ「それが漫画だ」
よしお(「自分で考えろ」と言った口で 全部語っちゃったよ)
足塚おさむ「だが、このエムズという漫画を見ろ」
よしお「それは足塚さんがニヤニヤしてた」
足塚おさむ「女の子がかわいいし、 ちょっとエッチだ」
足塚おさむ「多分、俺とは違う信念で描いている」
足塚おさむ「だがおもしろい!」
よしお(おもしろいって言っちゃった)
足塚おさむ「俺は俺の美学で描く」
足塚おさむ「皆も自らの血を流して 美学を築き上げていけばよい」
足塚おさむ「お前はその美学すら 人に頼らなければ定められないのか?」
よしお「うっ」
足塚おさむ「ただ漫画を描くのが楽しい それでもいいんだよ」
足塚おさむ「でも、美学くらい 自分の言葉で語ってほしい」
よしお「うぐぅ!」
足塚おさむ「さ、描きなさい」
よしお「はい!」
よしお(この人はやっぱり漫画の神様だ!)
〇CDの散乱した部屋
よしお「もう朝か・・・」
足塚おさむ「できたか?」
よしお「はい!」
足塚おさむ「ラブコメか」
よしお「是非アドバイスを」
足塚おさむ「バカ野郎!」
よしお「あだっ!」
足塚おさむ「服脱がせてどうする!?」
よしお「お色気シーンは必要っすよ」
足塚おさむ「裸にすれば色気が出るのか?」
足塚おさむ「違うだろ! お前はエムズを読んで何を学んだんだ」
足塚おさむ「むしろ服着てるからいいんだ」
足塚おさむ「服とかパンツのシワを描き込め」
足塚おさむ「自分の本能にもっと素直になれ」
足塚おさむ「恥ずかしいところこそ見せろ!」
足塚おさむ「実はそういうものにこそ、 人は共感し、心動かされるのだ」
よしお「う、うっす!」
足塚おさむ「それから、よしお」
よしお「何すか?」
足塚おさむ「お前に頼みたいことがある」
よしお「できることなら・・・」
足塚おさむ「俺も漫画を描きたい」
よしお「描けばいいんじゃないすか?」
足塚おさむ「それが・・・」
足塚おさむ「どうやら俺は漫画と お前の身体しか触れないらしい」
よしお「中途半端な幽霊っすね」
足塚おさむ「だから・・・」
よしお「うわっ! 急に後ろから抱きしめないでください!」
足塚おさむ「バカ! 抱きしめてるんじゃねぇ!」
足塚おさむ「お前の腕をこうやって動かして」
足塚おさむ「俺にも漫画描かせてくれってことだ」
よしお「一回だけっすよ?」
足塚おさむ「ちょっと待って 何その顔やめて」
〇田舎の駅舎
よしお「そんなこんなで・・・ できましたね」
足塚おさむ「デビューすれば俺もお払い箱か」
よしお「そっすね」
足塚おさむ「嘘でもそんなことないって言えよ」
足塚おさむ「プロになる前に伝えておく」
よしお「はい」
足塚おさむ「実はこの世に「結果」などない」
よしお「え?」
足塚おさむ「賞を獲っても獲らなくても人生は続く」
足塚おさむ「長い人生の中に 結果なんてものは一つもない」
足塚おさむ「大事なのは「過程」つまり生き方だ」
足塚おさむ「賞など獲れなかったとしても、 誇れる生き方をしてほしい」
足塚おさむ「自分がカッコイイと思える 生き方を貫いてほしい」
足塚おさむ「そういう意味では・・・」
足塚おさむ「努力し、机に向かうお前の生き方は、 なかなかカッコよかったぞ」
よしお「照れるっす」
足塚おさむ「しかし・・・」
足塚おさむ「俺の名を冠した賞に 俺自身が作品を出すとはな」
よしお「俺が賞獲って 先生だけ落ちても殴らないでくださいよ」
足塚おさむ「バカ野郎、そのときは ボコボコにしてやる」
〇CDの散乱した部屋
よしお(あの日から一か月・・・)
よしお「先生・・・」
よしお「先生は努力賞でした」
足塚おさむ「むぅ、大賞以外ないと思ったが」
よしお「話はおもしろいけど 絵柄が古いらしいです」
足塚おさむ「悔しいが受け止めよう」
足塚おさむ「次の構想もある 俺は描くだけだ」
足塚おさむ「それで肝心のお前は?」
よしお「・・・」
よしお「選外です」
足塚おさむ「そうか・・・」
よしお「あんたが・・・」
よしお「あんたがこなければ! 俺は夢なんか見なかったんだ!」
よしお「漫画の神様がついてくれて 選外とか・・・バカみてぇだよ」
足塚おさむ「判断が早い!」
よしお「いでっ!」
よしお(この人絶対現代の漫画 気に入ってるでしょ!)
よしお「俺はずっとあんたにあこがれていた」
よしお「だから、こうやってあんたを知って 失望しましたよ」
よしお「スケベだし、すぐ殴るし、 口も悪い」
足塚おさむ(マズい 全部事実だ)
よしお「実物のあんたなんかに 会いたくなかった!」
足塚おさむ「・・・」
足塚おさむ(身体が消えかかっている・・・)
足塚おさむ(俺の時間はもう長くないか・・・)
〇公園のベンチ
よしお(何やってんだ俺は!)
よしお「先生に八つ当たりしてしまった・・・」
よしお「俺・・・先生と描いて ひさびさに漫画が楽しいと思った」
よしお「負けず嫌いだし、すぐ殴るし、 口も悪い・・・」
よしお「けど、本当に漫画が好きな人だった」
よしお「誰よりも・・・」
よしお「先生は・・・もう次を描こうとしていた」
よしお「それなのに俺は・・・」
〇公園のベンチ
よしお(時間が経って頭が冷えた)
よしお「謝りに行こう」
〇CDの散乱した部屋
よしお「先生?」
よしお「先生、どこに行ったんすか!」
よしお「トイレにもいない」
よしお「風呂場も・・・」
よしお「先生!!!」
〇CDの散乱した部屋
よしお(朝まで探したけど 先生はどこにもいなかった)
よしお「嘘だろ・・・」
よしお「俺、先生に酷いこと言って・・・」
よしお「謝ることすらできなかったのに・・・」
よしお「ん?」
よしお(机の上に足塚先生の伝記が・・・)
よしお(ページが開かれている)
よしお「『間違いにどう向き合うか、 それを行動で示し続けるのが人生です』」
よしお(先生の語録・・・)
よしお(俺を励ましてくれているのか?)
よしお「ははっ・・・」
よしお「先生らしくないけど・・・ 先生らしい・・・」
よしお「不思議な人だ」
よしお「先生ぇえええええええッ!!!」
足塚おさむ「どした?」
よしお「は?」
足塚おさむ「そんなに俺が恋しかったか? そんな泣きじゃくってw」
よしお「ち、ちがっ! これは! 全然違うんだからね!」
足塚おさむ「ラブコメのヒロインみたいだなw」
よしお「一体何なんなんだ! あんたは!」
足塚おさむ「それよりよしお 次の足塚賞は大賞を獲りたいのだ」
足塚おさむ「さっさと身体を貸せ」
よしお「いや、俺だって獲りたいんです」
よしお「まず俺に描かせてくださいよ」
足塚おさむ「まったく仕方がない」
足塚おさむ「つまらん現代の漫画でも読んどくかね」
よしお(先生なりの配慮 謝るのは無粋かもしれない・・・)
よしお(だから心をこめて・・・)
よしお「先生」
足塚おさむ「ん?」
よしお「先生に多少失望したのは事実です」
足塚おさむ「ふむ」
よしお「でも、それ以上に 先生と漫画を描いてて楽しかったです」
よしお「俺、ずっと結果が出なくて 漫画が嫌いになりかけていました」
よしお「漫画を読んでも嫉妬が先にきて 全然楽しくなくて・・・」
よしお「自分の漫画も何がおもしろいのか わからなくなって・・・」
足塚おさむ「・・・」
よしお「でも、先生と漫画について語り合って 漫画を描いている瞬間は・・・」
よしお「楽しかったです」
よしお「ありがとうございます」
よしお「俺・・・頑張ります」
足塚おさむ「バカ野郎!」
よしお「いでっ!」
足塚おさむ「さっさと漫画描け!」
足塚おさむ「俺も漫画描きたいんだよ!」
よしお「はははっ!」
〇CDの散乱した部屋
足塚おさむ(そうやってめでたしめでたしで 終われれば漫画みたいだがな)
足塚おさむ(そうはいかないのが現実)
足塚おさむ(俺の身体は徐々に消えかかっている)
足塚おさむ(消えれば漫画は描けなくなる・・・)
足塚おさむ「やはり・・・」
足塚おさむ(よしおの身体を 乗っ取るしかないのか)
足塚おさむ(この時代になっても 人々は変わっていなかった)
足塚おさむ(だから俺が描かねばならない)
足塚おさむ「よしお すまない・・・」
つづく
先生の言葉が刺さります
いつもながらテンポが良くて最高です(´゚艸゚)∴
何かあるとすぐバイオレンスに走る足塚先生……よしおが気の毒だけどこの二人の掛け合いが楽しすぎます(≧∇≦)/
足塚先生の語りを通じて明里さん自身の創作に対する情熱も伝わってくるナイスなお話ですね!
全日本着衣連盟理事ワイ「裸に色気無し……やはり大先生は理解(ワカ)っていらっしゃる! 足塚先生、オレも先生に付いて行きます!!」