夢の匂いがする貴方。

月織

読切(脚本)

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月織

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〇黒
  私の言葉は時折現実になる。
  だから周りの人々は私を神の子だと言った。
  困った事があると、私に話をしに来たり
  助言を求めたりしてきた。
  私には何も分からないけど
  話を聞いて思った事を喋るだけで
  彼らの中では私はずっと神の子だ。

〇海
  目を開くとそこはいつもの海だった。
  でも私は沈まないし海の水はほんのり甘い。
  現実じゃない事は明らかだ。
  この夢を初めて見たのは
  まだ小さな頃だった。
  気が付くと知らない海にいて、そして
彼「やぁ」
  決まって彼が現れた。
彼「明日、赤い車が事故を起こす。 だから三丁目の交差点は渡ってはいけないよ」
  彼は毎回、私に何が起こるか伝えてくる。
  私の言葉が現実になるのはこの夢のせい。
「止める方法は?」
彼「世の中の決まり事を変えてはいけない。 受け入れないといけない事もあるんだ」
  彼はいつもそう言う。
  そして、私が更に話を続けようとすると
  身体が水に飲み込まれるのだ。

〇水中
  深く深く身体が沈んでいく。
  だけど息苦しさは感じない。
  でも私は水上に這い上がろうともがいて、
  そうやっていつも意識を失っていった。

〇古びた神社
  最初はこの夢がなんなのかも
  彼が何者なのかも分からなかった。
  だけど今から半年前
  ふらっと訪れた森の奥の神社で
  私は彼に出会った。
「お待たせ。これ、おにぎりだよ」
  私がそう言うと
  どこからともなく彼がやってくる。
彼「美味しそう!頂きます」
  彼はぱくぱくとおにぎりを
  口の中に放り込んでいく。
  何気ない風景かもしれないけれど
  彼だけが異常だ。
  なぜなら彼は、
彼「美味しかった〜 やっぱり人間界の食べ物はいいね」
  神様なのだ。
  そんな彼のお告げを受けている私は
  本当に神の子なのかもしれない。
彼「新しい環境には慣れた?」
「ぼちぼち、かな。 勉強大変だけど頑張ってるよ」
  今年の春から大学生になった私。
  神の子ではなく、普通の子としての生活を求め
  実家から離れた大学に通うことにしたのだ。
  入学から半年
  彼と現実世界で出逢ってからも半年。
  ぼちぼちとは言っても中々友達の出来ない私にとって、夢の中で何年も関わりのある彼に逢えたことは嬉しかった。
彼「どう?散歩でもしに行かない?」
「行きたい!」
  彼はよく私と一緒に色々な所を巡ってくれる。
  神様と人間という事実なんて
  そんなこと全く気にならなかった。

〇狭い裏通り
  彼は色んな場所を知っていて、
  私に新しい世界を見せてくれる。
彼「こういう裏通りも中々いいでしょ?」
「うん、結構好きかも」
彼「良かった」
  そう言って彼がはにかむ。
  本当に神様なのか?なんて疑いそうにもなる。だけど、
彼「君の好みはなんでも知ってるからね〜 昔からずっと見てきたんだもん」
  そう、彼にはなんでもお見通しなのだ。
  やっぱり彼は神様なんだなと感じる。
彼「君と一緒にお出かけ出来るなんて 僕は幸せ者だね」
  いきなりそんなことを言う彼に
  私はいつも内心振り回されるんだ。

〇古びた神社
  私達は街中を散歩したあと
  森へと戻ってきた。
  いつの間にか日が沈み始めている。
彼「楽しかったね〜」
「うん!今日もありがとう」
彼「どういたしまして」
  彼が笑う。
  つられて私も笑う。
彼「ねぇ、まだ時間あるかな? 実はもう1箇所だけ 行きたいところがあってね」
  彼はそう言う。
「いいよ、行こう」
彼「良かった、ありがとう」
  私が了承すると彼は森の中を進んで行く。
  私も彼の後を追った。

〇睡蓮の花園
  彼に着いていくと
  やがて綺麗な池にたどり着いた。
彼「ここだよ、綺麗でしょ?」
「この森にこんな所あったんだ」
彼「この池は別名願いを叶える池 って言われてるんだよ」
「願いを叶える池?」
彼「うん、素敵だよね」
  彼はそう呟くと
  急に真剣な表情になって私を見た。
彼「僕の夢は、君と一緒にいること。 神様としてではなく人間として」
「え?」
彼「だから僕は神様を辞めようと思う」
  突拍子もない話だった。
「そんなこと、できるの?」
彼「一応ね。でも周りの神様の反対もあるだろうし、時間もかかると思う。だから僕はこの池に来たんだ」
  そう言うと彼は私の手をそっと包み込む。
彼「僕は必ず人間になって君の所に帰ってくる。 だから、それまで待っていてくれますか?」
「・・・あなたが決めたことなら何も言わない。 でも、絶対戻ってきてね」
彼「もちろん」
  そう言うと彼は
  私の頬に優しい口付けを落とした。
  その刹那、強風が巻き上がる。
  思わず目を瞑ってしまう。
  しばらくして目を開けると
  もうそこに彼はいなかった。

〇黒
  それから私は彼の事を待ち続けた。
  1年、2年、3年・・・。
  ずっとずっと、待ち続けた。

〇駅前ロータリー(駅名無し)
  私は大学を卒業して
  小さな会社で働くことになった。
  休日はカフェや水族館に行ったり
  毎日楽しくやっている。
  今は図書館に寄ってから
  自分の家に帰るところ。
  私はやってきたバスに乗り込んだ。

〇バスの中
  席に座り、バスに揺られる。
(意外と人多いな)
  そんな事を思っていると、
「隣いいですか?」
  と、声をかけられた。
「あっ、どうぞ」
  声の主は私の隣に座った。
  その横顔をみて私は思わず固まってしまう。
  そんな私に向かって、彼が言った。
彼「お待たせ、会いに来たよ」
  数年間ずっと止まっていた
  普通の人間になりたかった神の子と
  普通の人間になりたかった神様の
  恋の歯車が再び動き出した

コメント

  • あまり幻想的なことは信じないタチではありますが…思ったり言ったりすることが現実になったりすることは私もあったりします…。まぁ単なる偶然でしょうけど…。、

  • 神の子と神様の一途な恋物語、とっても素敵です。昔からずっと一緒に居続けたから、主人公も信じて待ち続けることができたのですね!

  • 自分の能力だったり肩書きを失ってでも、一緒になりたい人がいるというのは、どこまでも純粋で美しくそして強い愛ですね。3年以上も待ち続けることもなかなかできることじゃない。こういう純愛に憧れます。

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