第4話 母からの手紙 後編(脚本)
〇病院の廊下
私とバベルさんが病室前に駆けつけると、
そこにはブラムさんが居た。
ミア「ハァ・・・ハァ・・・サラさんは!?」
ブラム「眠ってる」
バベル「大丈夫なんですか!? お腹の子は!?」
ブラム「今は安定してる。 お腹の子も特に異常は無いそうだ」
ミア「はあ・・・良かった・・・」
ブラム「僕が悪いんだ。 最近の手紙制作で無理させてたから・・・」
ミア「それなら私もです。 手紙制作は少しの間お休みしましょう」
ブラム「・・・・・・。いや、急がないと・・・」
ミア「え・・・」
ブラム「予定より早く産まれそうなんだ」
ブラム「産まれたら・・・、 おそらく彼女は・・・、 サラは・・・、居ないから・・・」
ブラムさんは拳を固く握りしめている。
ミア「どういう事ですか?」
ブラム「サラはもともと体が弱くてね。 出産には耐えられないと言われてるんだ」
ミア「・・・・・・」
ブラム「授かった命を無下に出来ない。 例え自分が死のうとも、 子供を産むと言って聞かないんだ」
ミア「・・・・・・」
ブラム「いつも言ってる。可愛くてしょうがないって・・・。まだ出会ってもいないのにね」
ブラムさんはその場から泣き崩れそうに
なる自分を必死に抑えている様子だった。
ブラム「僕はサラの想いを尊重したい。 だから手紙を完成させたいんだ」
ミア「反対です・・・」
ブラム「え?」
ミア「私は反対です!」
ミア「残された方はどうなるんですか! 残された人は・・・触れ合う事も、 話す事も出来ない!」
ミア「その人のこと、 何も知る事が出来ないんです!」
ミア「ブラムさんだってこのままじゃ、 大切な人を失ってしまうんですよ! もう会えなくなるんですよ!」
ブラム「・・・・・・」
バベル「ミアちゃん。これは二人の問題だ。 僕達がどうこう言っていい話じゃない」
ミア「でもそれじゃあサラさんが・・・!」
ブラム「ミアちゃんに話さなくてすまない。 君にはあまり気負わせたくないって サラも言ってたんだ」
ミア「・・・・・・」
ミア「そんなのダメですよ・・・ 認められません・・・」
バベル「もうよさないか。ブラムさんの気持ちが 分からない君じゃないだろ?」
ミア「・・・・・・」
ブラム「・・・・・・。 僕は少しサラの様子を見てきます」
そう言って、
ブラムさんは病室に入って行った。
私は自分の気持ちを整理出来ないまま
立ち尽くしていた。
〇古書店
落ち込む私の前に、バベルさんが
温かいミルクティーを置いてくれた。
バベル「ほら、ミアちゃんの好物、 ミルクティーだよ」
ミア「・・・・・・」
バベル「甘くて美味しいよ?」
ミア「そんな気分になれません」
バベル「そっか・・・」
ミア「・・・・・・」
バベル「このまま辞めちゃうの? サラさん達のサポート」
ミア「私には、荷が重いと思います」
バベル「・・・・・・」
ミア「ねぇバベルさん。人は死んでしまったら どうなるんでしょうか?」
バベル「難しい質問だね」
ミア「最近母の夢を見るんです。幼い頃の。 その夢では母は私の頭を撫でてくれます。 そして私を見つめている・・・」
ミア「母が何を想っていたのか 今は知る事が出来ません・・・」
バベル「そうだね。 僕達には想像する事しか出来ない」
バベルさんは椅子に深く腰掛け、
遠くを見つめて、語り始めた。
バベル「昔、ある人が言っていたんだ。 死んでしまっても、 この世界から居なくなる訳じゃないって」
バベル「僕が忘れない限り、僕の中で彼女は 永遠に生き続けると・・・」
ミア「その人は・・・?」
バベル「死んでしまったよ。 でも彼女を想わない日は一日も無い・・・」
ミア「辛くはないんですか?」
バベル「辛いよ。時々ね・・・」
バベル「でも出会ってしまったからね。 大切にしたいと思ってしまったから・・・ 忘れる事は出来ないよ」
ミア「・・・・・・」
バベル「ミアちゃん。もう少しだけ、サラさん達のサポートをしてあげてくれないかな?」
ミア「・・・・・・」
バベル「ミアちゃんにしか出来ない事があると 思うんだ。だから・・・ね?」
そう言ってバベルさんは優しく微笑んだ。
そして私は、もう一度、
サラさん達と向き合う決意をした。
〇綺麗な病室
サラさんの病室に入ると、そこには
ブラムさんの姿は無く、サラさんが一人、
外の景色を見つめていた。
サラ「あ、ミアさん! 良かった! もう来てくれないかと思ったわ!」
ミア「・・・・・・」
サラ「ブラムから色々聞いたわ。ごめんね。 黙ってて・・・」
ミア「いえ、私の方こそ、 昨日はブラムさんに酷いことを・・・」
サラさんは優しく微笑む。
サラ「良いの。 こうしてまた来てくれたでしょ・・・」
サラさんは優しく微笑んだ後、
少し恥ずかしそうに語り始めた。
サラ「ブラムとはね。普通に出会ったの。 政府の”配偶者推進プロジェクト”で・・・」
配偶者推進プロジェクト
それは遺伝子の配列によって配偶者が
割り当てられる政策のことだ。
私の両親はもちろん、
多くの夫婦はこの政策によって、
出会い、子を成し、育んでいく。
この政策以外の出会いで夫婦になる事は
極めて珍しいことである。
サラ「初めはお互い、 何とも思っていなかったかもしれない」
サラ「でも彼と過ごしていく内、 だんだん彼のこと大切に思ってしまった」
サラ「彼と見つめ合う度、触れ合う度に、 お互いにかけがえの無い存在に なったんだと思う」
サラ「言葉を覚えてから、 その事をより深く実感したわ・・・」
ミア「素敵な事だと思います」
サラ「ウフフ。ありがとう」
サラさんは優しく微笑んだ後、
私の目を真っ直ぐに見つめた。
サラ「子供を産む決意も強くなったわ」
ミア「・・・・・・」
サラ「あなた達のおかげよ。ありがとう」
そう言って、優しく私の頭を撫でた。
何故、この人はこんなにも優しく、
そして強いのだろう?
サラさんの負担は
相当なハズなのに・・・。
その事を微塵も感じさせない。
ミア「・・・怖くはないんですか?」
サラ「ええ。死ぬのは怖くないわ」
ミア「え・・・」
サラ「ただ怖いとしたら、私の弱い体が原因で、 この子に何か悪影響を 与えてしまわないか、」
サラ「私のせいで産まれる事が出来なかったら? そう考えると、怖くてたまらない」
ミア「・・・・・・」
サラ「この子は私の大切な人との間に出来た。 世界で一番、大切な人だから・・・」
自分の膨らんだお腹に手をあて、
優しい瞳で見つめていた。
私はこの優しい瞳を知っている。
かつて自分に向けられた、
あの瞳と同じだと・・・そう思った。
ミア「遺しましょう! サラさんの想い全部! 必ず完成させましょう!」
サラ「・・・ええ!」
そして、私達は再び手紙制作に勤しんだ。
私も、もう目を反らさない!
この人の想い全てを伝えるんだ!
サラさんも自分の体に鞭を打ち、
遅くまで手紙を書いた。
そして、無事手紙は完成した・・・。
〇黒背景
出産の日。
サラさんは元気な赤ん坊を産んだ。
女の子だ。
しかし、サラさんは・・・。
〇幻想2
サラ「これを読んでると言う事はあなたは 無事に生まれていると言うことね。 本当に良かったわ」
サラ「あなたがこうして生まれて来たこと、 それだけで私は世界一の幸せ者よ」
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言葉を紡いでいくもの、言葉の大切さが、とても伝わりました。親子のぬくもりも素敵です。
うぉー!!!!!(´;ω;`)泣いておりますー!!!!!凄く良いお話ですー!!!!!!!(´;ω;`)
言葉のひとつひとつが丁寧で、そっと語りかけてくる感じのお話です・・・(´;ω;`)✨
テレパシーでは感情は伝えられない。だから最後の場面では、ミアは父親のことを抱き締めたのでしょうか…。
言葉によるコミュニケーションを覚えたミアですが、父親へ自分の思いを伝える手段として「言葉の要らない行動」を選んだところにぐっときました。一枚絵の表情もとても良かったです…!
言葉に触れたことで変化していくミアの今後が、さらに楽しみになりました。