お前だけを見つめている

美野哲郎

読切(脚本)

お前だけを見つめている

美野哲郎

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〇荒れた倉庫
  ん。ここ、は?

〇荒れた倉庫
男「よう、やっと目を覚ましたか 眠れる森のお姫様」

〇地下室
私「あなた誰? ここはどこ?」

〇荒れた倉庫
男「そこからだって、窓の外は見れるだろ」

〇地下室
私「夕焼けが濃くて、 眩しいくらいだってことしかわからない」

〇地下室

〇地下室
私「待ってよ 椅子に縛られて、手足が──」

〇地下室
私「あなた誰よ! 私に何をしたの?」

〇荒れた倉庫
男「くくっ・・・」

〇荒れた倉庫
男「いいねぇ。俺なしじゃ、 何もわからない、動けやしない君」

〇地下室
私「いやぁっ!! こないで・・・」

〇地下室

〇地下室
私「私は・・・ 誰・・・?」

〇荒れた倉庫
男「テメエで思い出してみろよ。 ここに来る前、何があったのか」

〇荒れた倉庫
男「あと1分で思い出せ。 さもねえと──」

〇荒れた倉庫
男「俺が、お前らにとって 最悪の選択をしてやろう」

〇赤(ダーク)
  彼の後ろ手に握られたものは・・・

〇荒れた倉庫
男「さあ──早く」

〇地下室
  うう・・・私は、私は

〇荒れた倉庫

〇病室のベッド

〇荒れた倉庫
  私は、病院に、いた・・・?

〇荒れた倉庫
男「タイムオーバー」

〇地下室
私「いや・・・!? お願い、やめて・・・」

〇赤(ダーク)
  その時、彼の手元からナイフが落ちた

〇古い本
  カランカラン・・・

〇荒れた倉庫
  見上げると、悶え苦しむ彼の姿があった

〇荒れた倉庫
男「やめろ。俺は、苦しめる為に 彼女を連れ出したんじゃない・・・」
男「ふん。まだ居座っていやがったか。 この女、何も覚えていないってよ」
男「それでいいんだ。 彼女はずっと、それでいいんだよ」

〇古い本
  まるで
  目の前に、二人の男がいるような

〇荒れた倉庫
男「いいか、ナズナちゃん。 この男の言うことなんて、 なにひとつ聴いちゃいけない」

〇地下室
私「私、ナズナって言うの?」
私「私を病院から連れ出してくれたのは、 あなた・・・?」

〇荒れた倉庫
男「心配いらないよ。今の君はもう、大丈夫。 君だけは、大丈夫なんだ」
男「バーカ。それを今から俺が、 台無しにしてやろうってとこだろうが」
男「な、何。やめろ・・・ 何をする気だ・・・!?」

〇地下室
私「二重、人格・・・!?」

〇病室のベッド
  きっとそうだ。
  この人も、あの病院の患者で。

〇地下室
  この、狂っている方の人格が、私を

〇荒れた倉庫
男「ナズナちゃん。どうか、 こいつの言うことは、絶対に・・・」
男「アバヨ」
  まともだった方の彼の人格が、
  二つ感じていた気配の一つが、
  消えた・・・

〇荒れた倉庫
男「あーあ。この人は二重人格で、 狂った方の人格が残っちまったか」

〇地下室
私「え?」

〇荒れた倉庫
男「今、そう思っただろ。違うか?」

〇地下室
私「う、うん。たしかに、そう思ったけど」
私「あれ? 間違えた? もしかして──」

〇荒れた倉庫
男「ざぁ~んねん。大正解でしたぁ~」
男「狂っているのはぁ~ 俺のほう」
男「それじゃ、サクッといっちゃうね」

〇地下室
私「ひいっ!!」

〇黒背景

〇地下室
私「ん」
私「あ あれ?」
私「私、どこも怪我してない・・・?」

〇荒れた倉庫
男「言っただろう。俺は── 「お前らにとって最悪の選択」をすると」
男「さあ。解放してやったぞ。ナズナ。 お前はもう、自由だ」

〇地下室
  私は、フラつく足で立ち上がった
私「ねえ。私、まだ 訊いてないことが、沢山あるよ」

〇荒れた倉庫
男「グダグダ言ってねえで 自分で確かめろ お前にはまだ」
男「動く足と、見る目と、 少しはまともな頭があるんだ」
男「あの窓から、世界を見てみろよ」

〇地下室
私「う、うん」

〇荒れた倉庫
  私は、フラつく足で歩きはじめた
  一歩。また一歩・・・
  嫌な、予感がする
  その窓へ、近づいてはいけないような
  そこからの景色を、見てはいけないような
  本能が、拒絶する──

〇古い本
男「ナズナちゃん。どうか、 こいつの言うことは、絶対に・・・」

〇荒れた倉庫
  それでも、私は、行かなくちゃ
  すくむ足が、それでも行けと──
  私は行きたいと、そう伝えていた

〇地下室
男「あ。そうそう。ナズナ。 お前さあ──」

〇荒れた倉庫
私「な、なに?」

〇地下室
男「今、何時だと思ってる・・・?」

〇荒れた倉庫
  私は、何か、勘違いを──
  いいえ。足を止めないで、それでも行くの

〇地下室
男「ほーう。今のでも怯まず、歩き続けるか」
男「じゃ、教えてやるよ」
男「今はなあ──」

〇荒れた倉庫
  そして私は、窓辺に立ち、外を見た
私「え・・・・・・?」

〇地下室
男「──朝だ」

〇赤(ダーク)
  ──それは、夕暮れなどではなく
  ──世界を、赤いモヤが満たしていた

〇地下室
男「狂ったのは、俺だけじゃねえ」
男「ある日いきなり、この世界に 月から赤い光が降りそそいで」
男「それを浴びた奴らはみんな狂った」

〇荒れた倉庫
私「嘘。ここ、私が住んでいた街だ なにもかも壊れて──」

〇地下室
男「それからすぐに激しくて赤い風が吹いて、 世界は狂った連中と、連中に襲われる まともな人間の殺し合う地獄と化した」
男「病院で清掃員をしている孤独な男は、 孤独ゆえに生き残ることが出来たんだ そして気になった──」
男「あの病院に入院していた、 手術を間近に控えていた少女は どうなったんだろう、ってな」

〇荒れた倉庫
私「それが、私・・・?」

〇地下室
男「男が病院に駆けつけると、 手術はもう終わってたよ」
男「医者も、看護師も、 手術を終えて眠る少女を、 守るように息絶えていた」
男「男は思ったんだな 次に少女を守るのは、自分の番だと」

〇荒れた倉庫
私「そして私を連れ出して── ここに、監禁した?」

〇地下室
男「狂ったこの世界から、守るために」
男「だが男もまた、赤い光の影響で 狂った人格を宿してしまっていた」
男「ああ。俺は、狂った男だ ナズナを、危険なこの世界で 自由の身にしようとしている」

〇荒れた倉庫
私「私、は・・・」

〇地下室
男「こんな滅茶苦茶になってしまった世界で それでもお前は──」

〇荒れた倉庫
私「行きたい! ずっと病気に閉じ込められていた 私の体が 心が そう願っているの」

〇地下室
男「そうか。なら、行って来い!」

〇荒れた倉庫
私「え!? 行かせてくれるの?」

〇地下室
男「ああ・・・行きたいんだろう?」

〇赤(ダーク)
  世界が、どんなに恐ろしく姿を変えても

〇荒れた倉庫
私「行きたい。 私は・・・それでも」
私「生きたい」

〇地下室
男「ならば思う存分に行け 今すぐに顔を上げて ここからどこへでも」
男「俺は、狂っているからな」
男「そんなお前の背中を──」
男「いつまでも、見つめていよう」

コメント

  • なずなちゃんの、恐怖や困惑といった感情がダイレクトに伝わってくるようでした。そして、勇気や希望も。狂い歪む世界で、彼女は真っ直ぐ進んでほしいと思いますね。

  • 彼は自分が狂っていることをわかっていながらも、わずかに残っている理性をたよりに、なんとかなずなちゃんを助けようとしていてすごいなあと思いました。なずなちゃんには生きてほしいです。

  • なずなちゃんの、それでも行きたい生きたいという言葉が感動的でした。世界がどう変化しても、一歩前に進みたいという希望、自分を信じる勇気が必要ですね。彼は自分が狂ってしまっているという自覚があり、まだそうでないなずなちゃんをどうか救いたいと思ったのですね。

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