推しってなんだ。愛ってなんだ。

さやいんげん

読切(脚本)

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〇学校の部室
  永徳高校、四階。
  現代文化研究同好会部室。
  柿田は、同じクラスの松田ショウに、青山が話があると聞き、部室を訪ねる。
柿田さん(青山くんの話って、昨日のことだよなぁ)
柿田さん「失礼しま・・・・・・ぎゃっっ!?!?」
  柿田が部屋の前に立つやいなや、内側から素早くドアが開く。
青山くん「足音で柿田さん来たってわかったよ! どぞどぞ、こちらおかけください!」
  青山は勢いよく床に片膝を付き、パイプ椅子を引いた。
  突然の社長待遇に、柿田は戸惑う。
柿田さん「あ、ありがとう。 青山くん、私に何か用事あった?」
  遠慮がちに椅子に腰掛けた柿田を、青山は膝を着いたまま見上げる。
  さっきまでの笑顔はなく、超真顔である。
青山くん「昨日のことなんだけど」
柿田さん(ああ、怒らせちゃったかあ)
柿田さん「いきなりスリッパ振り回して、ごめんね」
青山くん「いや! 俺が暴れてご迷惑かけちゃってごめん! 西園寺様コスの柿田さんが立ち向かってくださった事、一生忘れないよ!!」
柿田さん「さ、西園寺様?」
青山くん「うん。昨日は、ありがとう!」
柿田さん「うん、じゃあ、その言葉ありがたく受け取るね!じゃあね、青山くん、また明日!」
  椅子から立った柿田を見て、青山も慌てた様子で立ち上がり、今度は勢いよく腰を90度に折る。
青山くん「柿田さんに、お願いがあるのですが! 聞いていただけますか!?!?」
柿田さん「は、はいいぃ!?!?」
青山くん「俺、ふわふわ学園生徒会長西園寺貴美子様のコスした柿田さんを見て、もう、もうっ!」
柿田さん(何!? ここは大人しく聞いとくべき?)
青山くん「エモすぎてたまらんってなって! あれからずっと柿田さんのこと考えてて。柿田さんの魅力に気付かなかった今までの俺バカすぎ」
柿田さん(は?え?ちょっとまってこれって告白!?!?)
青山くん「認知してくれとか、ファンサほしいとかじゃなくて。 あ、いや、できたらほしいけど!」
柿田さん(違うかーー!)
青山くん「あの、俺、柿田さんが・・・・・・」
  言葉を切った青山は頭を上げて、柿田を真っ直ぐに見つめる。一瞬の静寂が訪れる。
青山くん「柿田さんが、最推しになってしまいました」
青山くん「全力で推させていただて、よろしいでしょうっっっ!!!!!!!!」
  青山の叫びとともに、部室の扉が開け放たれる。
松田リコ「お前は突然何言ってんだ!馬鹿野郎!」
松田ショウ「告白かと思ったら、推し宣言とはねえ」

〇学校の部室
松田リコ「青山ぁ! 推しに対する態度なってねぇなあ? 推しには最大級の敬意持て?」
  床に正座した青山は深々と頭を下げる。
青山くん「返す言葉もございません。 柿田さん、ごめん。 急に怖かったよね。 俺初めて三次元で夢中になって、浮かれてて」
柿田さん「ううん、びっくりはしたけど・・・ あと、推しって何のこと?」
青山くん「十人十色の推し活だと思うんで、俺にとっての推しでいい?」
柿田さん「うん、それが知りたいな」
青山くん「はあああああ!!まじで!! 柿田さんが俺に興味があるって!?」
青山くん「尊くてエモくて、推しの魅力は全人類に知ってほしいような、自分だけが知ってたいような、そんな葛藤があり─」
  柿田を見つめながら、嬉しそうに語る青山の前に、笑顔を絶やさずショウが割ってはいる。
松田ショウ「ねえねえ、俺、青山が柿田さんに落ちた日のこと聞きたいんだけど? スリッパとか、大暴れとか、西園寺様とか」
柿田さん「それ私も気になって。 私は西園寺様って方に似てるの?」
青山くん「西園寺様は、このふわふわ学園に出てくる生徒会長で、皆の憧れで・・・あ、この人!」
  そこには背の高さこそ似通っているが、柿田とは全く違うクールな女生徒が描かれていた。
柿田さん(文化祭のコスプレ喫茶の衣装合わせで、私が似たようなセーラー服を着てたから?)
  首をかしげる柿田と微笑む青山を見比べて、松田兄妹は目を見合せると、ニヤリと笑う。
青山くん「柿田さんとは昨日の放課後ーーーー」

〇教室
青山くん「昨日、俺が空き教室でコスプレ喫茶の試着してたら、校内の不良が入ってきてさ」
柿田さん「そこにセーラー服を着た私が通りかかって、女の子が絡まれてるから助けなきゃって思って!」
柿田さん「スリッパを掲げて、 「さっき、ここの部屋に出たんです!奴らが!」って入ったの。そしたら、彼らがしがみついてきちゃって」
青山くん「柿田さんに触れる奴らが許せなくて、俺が校内追いかけまわしたんだよ」

〇学校の部室
「一目惚れした子に他の輩が触れるのに我慢ならなかったということかあ」
青山くん「ん?柿田さんは神推しだよ、激推し。 毎日笑っててほしいし、昨日みたいな時は危険なことしてほしくない」
柿田さん「あ、はい! 次は気を付けるね!」
青山くん「俺に守らせてください!ん?」
青山くん「違うんだ! 推しへの愛って、恋愛だけじゃなくて、親心とか友愛とか、応援とか、存在に感謝で。 でも、俺だけ見てほしくて」
松田ショウ「これってなんて言うんだろう?」
松田リコ「ねー?」
青山くん「俺はヲタク失格だ・・・・・・」
  赤かった顔を蒼白に変えた青山が、柿田を見やる。未だ状況を掴めていない彼女の困惑の表情にさえ、青山の心臓は波打つ。
青山くん「柿田さんは俺の最愛の人です。 君に触れる人は許せないし、君にも愛されたい。欲張る俺は、君推し失格だ」
柿田さん「そんなことないよ。 気持ちだけは自分のものだし。 推しって言ってくれて嬉しかったよ?」
青山くん「つっっ・・・・・・!!!! 俺だけの最推しってのは駄目・・・・・・!?!?」
松田ショウ「ガチ恋の同担拒否か」
松田リコ「それ普通に恋でいいじゃん!」
柿田さん「ガチ?同担?なに言ってるのーー!?」

コメント

  • いちばんの主役ふたりがほわんほわんしていて、理解できてないというか思考がおいついてない感じが可愛かったです。推しとガチ恋の狭間は紙一重だったりしますよね〜!

  • 恋愛と推し活、この違いやズレで甘酸っぱい告白シーンがここまで愉快なものになるのですね。柿田さんの戸惑いがとっても好きです!

  • タイトルに惹かれました、愛と推しって、主導権が自分にあるかないかの違いでしょうか?!と色々考えながら読ませて頂きました。

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