プロローグ(脚本)
〇カウンター席
クレーマー「チッ!」
大間 柾「ありがとうございましたぁ~」
柾の活躍で、先程までうるさかったクレーマーは恨めしそうに舌打ちをして足早に去っていった。
大間 柾(おおま まさ)・・・カフェレストラン「ジュリコ」でアルバイトをするバイトリーダーである。
大間 柾「ふ~、最近減ったと思ったら・・・。 こんな素晴らしい社会でなんで荒むのやら・・・分からぬな。」
山口 清香「あ、あの・・・大間さん、すみませんでした。私の所為で──」
アルバイト店員で、まだ女子高生の山口 清香(やまぐち きよか)が、申し訳なさそうに柾に頭を下げる
大間 柾「ああ、気にしないで・・・というか、清香ちゃんは何も悪くない。」
山口 清香「でも・・・」
大間 柾「こういう時は、ありがとうって言えばいい。覚えておきなさい。」
山口 清香「はい! ありがとうございます。 柾さんって、本当に頼りになりますね」
明石 晴馬「そりゃ柾さんだからね~! ウチの一番すごい人だし!」
お調子者だが、仕事は出来る大学生(休学中)。明石 有馬(あかし ありま)。
ちなみにコイツはクレーマーが出た瞬間に、奥へ引っ込んだ。
山口 清香「なんで明石さんがドヤ顔なんですか・・・?」
明石 晴馬「そ、そういうツッコミは良いんだよ。清香ちゃんだって、そう思うでしょ?」
山口 清香「思いますよ。そりゃ当然。 店長の7億倍は頼りになります。」
山口 清香「あと、明石さんは私を名前で呼ばないでください。」
明石 晴馬「酷くね・・・?」
店長「ねぇ、待って・・・山口さんの店長評価の恐ろしいインフレにツッコもうよ。」
山口 清香「正当評価ですけど?」
店長「うん。 笑顔で言ってるけど、よろしくないよ? 辛辣過ぎておじさん泣くよ?」
大間 柾「大丈夫ですよ店長。 俺は店長の事、高く評価しています。」
店長「大間くん。 君だけだよ・・・そう言ってくれるの。」
大間 柾「それじゃ、俺はこれで帰りますんで・・・お疲れさまでした」
店長「ああ・・・ごめんね。 帰り際にクレーム処理なんてやらせて・・・お疲れ様。明日も頼むよ」
山口 清香「お疲れさまでした~!」
店長「ふぅ~、毎度のことだけど、彼には助けられてばかりだ。」
山口 清香「・・・・・・・・・・・・」
山口 清香「店長。やっぱりシフト増やしてください。 柾さんと同じシフトでお願いします。」
店長「うん・・・君のそういうところは嫌いじゃないよ。ところで、それで僕の評価上がる?」
山口 清香「上がりません!」
店長「うん、まぁ知ってたけどさ。 せめて、その笑顔は接客で出してね。」
〇部屋の前
大間 柾「郵便は・・・チラシに宣伝マグネット。 あとは封筒か。」
大間 柾「ふぅ~、今帰ったぞ。」
アルバイトに身ながら、家はそこそこ良いマンションである。
奥からドタドタと音がしてきた。
小林 誠司「魔王様! 申し訳ありません! お出迎えできず! このセージ・ウッドローいかような罰でもお受けいたします!」
家の中から走ってきた男はエプロン姿だ。
その姿のまま、片膝を床につけてこうべを垂れる。
大間 柾「いや、しないからな? あと、家の中とは言えかしずくな!」
大間 柾「それと、今の前の名前は小林誠司だ。本名を言うな。あと、魔王っていうな!」
小林 誠司「お言葉ですが魔王様。このセージ。もとい誠司。 1日三度は魔王様にこうべを垂れねば、日々に張り合いがでませぬ!」
大間 柾「お前もうそれ病院行け」
柾が忠臣の対応をしていると、奥の扉が開き、小柄な男が覗いてきた。
大間 柾「おお、今帰ったぞ。花丸よ」
角田 花丸「こ、これは魔王様。お早いご帰宅でそ。」
大間 柾「そうか? 予定通りの帰宅・・・いや、むしろ遅いくらいだ。 クレーマーの処理をしていたからな。」
小林 誠司「我が主にクレーマー!? そいつは殺しましょう。火あぶりがよろしいかと・・・」
大間 柾「するか!!」
大間 柾「それと花丸。お前も魔王と呼ぶな。 それはもう2年前の話だ。」
小林 誠司「いいえ魔王様。いえ、柾さま。 これも花丸。ハナー・マールターカクの忠義から溢れ出た言葉。」
小林 誠司「わたくし共々、せめて家にいる時だけでもお受け止めください。」
大間 柾「そ、そう言われると無下にはできないが・・・いや、ダメだ。 万が一外で出てしまえば面倒だ。以後、気を付けるようにな」
小林 誠司「それが、柾さまのご命令とあらば・・・」
角田 花丸「そ、そうでそな。 ところで殿下。いえ、柾殿。 ポストの確認をしてきたいのですが?」
大間 柾「それなら、持ってきたさ。 封筒があったが────」
その瞬間、魔王センサーが機敏に察知した。
角田 花丸「よかったでそ! それをこちらに・・・」
角田 花丸「のぉぉぉぉぉぉ!? 何故、封筒を開けるでそ!?」
大間 柾「花丸よ・・・この封筒の中身について、私は説明を求めようではないか。」
角田 花丸「ま、柾さま? 突然、魔王時代の口調にお戻りになっているのは何故でそ?」
角田 花丸「ははは! 柾さま! スマイル イズ ピース! それで世界は救われるでそ! そんな目が笑ってないのはイカンでそ!」
小林 誠司「いかがなさいましたか? 柾さま」
小林 誠司「・・・ボォウッフ!?!?」
封筒の中身はクレジットカードの請求書だった。
小林 誠司「ごっごごごごごご五万!? ごまっ胡麻ん!?」
大間 柾「お前! また課金したな!? それもクレジットカードを使いやがって! あれは大きな買い物をする時だけ使うもんだぞ!」
角田 花丸「な、なんのことでそ?」
大間 柾「誤魔化せる状況じゃねぇだろ!!」
小林 誠司「胡麻、ゴマ・・・ごま、GOMA・・・」
大間 柾「見ろ! 誠司がバグったぞ! どうするんだお前!」
小林 誠司「2ヵ月分の生活費が・・・」
小林 誠司「大学に行くためにも一銭の無駄もできないという状況で花丸……いや、ハナー! 貴様は万死に値する!」
角田 花丸「ひえぇぇ! 家庭内暴力でそ! 魔王様! お助けでそ!」
大間 柾「いや、自業自得だ。 折檻は受けろ。あと働け」
角田 花丸「働いてるでそ! ゲームセンターで働いてるでそ!」
大間 柾「週2ではなく、週5で働け!」
角田 花丸「いやでそ! 働きたくないでそ! やりがい搾取の日本社会で働くなど、無下な時間の浪費以外の何物でもないでそ!」
大間 柾「黙って歯車になれ! 社会のパーツである自覚を持てば働きに精も出る!」
大間 柾「第一、お前の不真面目な勤務態度に時給900円は高すぎる!!」
角田 花丸「冷酷なロジハラでそ! 酷いでそ! ドメスティックバイオレンスゥゥ!」
角田 花丸「やはり花丸は孤独、いや孤高。 まさに意識の差から出る大局を見据える者。 お二人には理解できない志でそ!」
大間 柾「目を覚ませ! 少なくともお前の持ってる志の生末は孤独死だ!」
小林 誠司「とりあえず、歯を食いしばっておけ。 それがお前の唯一にして最善策だ。」
ゴツンッ! と2発。
花丸は2人から鉄拳制裁をもらったのだった。
〇ダイニング
角田 花丸「シクシク……花丸の誠意ある謝罪が受け入れなかったでそ」
小林 誠司「いつお前が謝罪した? 全く──魔王・・・いえ、柾さま。とりあえず5万の補填は可能です」
角田 花丸「フッ、気付かれましたか……当然でそ。 この花丸。全て計算づくでそ」
小林 誠司「お前の給料から差っ引くからな? 覚悟しとけ?」
角田 花丸「なんですと!? 横暴でそ!」
小林 誠司「あったり前だろうが!!」
角田 花丸「酷いでそ! へ? 今、何か聞こえませんでしたか?」
その瞬間、家の中の空気が一瞬止まる。
小林 誠司「おお……ついに幻聴が聞こえる程に狂ったか花丸よ。 柾さま。この者の処分はわたくしめが務めますゆえ──」
角田 花丸「違うでそ! 本当に聞こえたでそ! てか、さりげなく処分なんて言葉を口にしないでほしいでそ!」
大間 柾「待て誠司・・・・・・聞こえるぞ」
【???】
聞こえますか? 異界の魔王よ・・・
間違いなく、聞こえてきた。
脳内に直接響く声。女性の声だ。
そして、その言葉を理解した瞬間、即座に動いた。
大間 柾「誠司! 逆探知魔法だ! 正体を探る必要はない! 探知後、即座に迎撃せよ!」
小林 誠司「御意!」
その瞬間、魔王の右腕たる男の魔法が発動した。
空間が赤く染まる。
それはまさに一瞬だった。
小林 誠司「探知完了! 迎撃します!」
大間 柾「焼き払え!」
【???】
え!? ちょっ、ま・・・ぎゃああああああああああああああああああああああ!
誠司の発した黒い稲妻が、テレパシーを辿る。
さながら、落ちた落雷がヒモを辿っていき、ヒモを持つ者を感電させるように・・・
大間 柾「大儀であった誠司よ。 これで地球の生活も平穏だ。」
小林 誠司「ありがとうございます。柾さま。」
角田 花丸(容赦ねぇでそ)
【???】
いや、許されるかぁぁぁぁぁぁ!!!!
周囲が白く発行する。
そして、その発行が収まると──
女神「あんたら女神に向かって何つーことを──!」
大間 柾「──魔王パーンチ!!!!!!」
バキッ! バタン・・・
【女神?】
きゅ~・・・
角田 花丸「登場した瞬間に顔面グーパン。 流石、陛下。容赦ないでそ。」
小林 誠司「この女・・・女神と? どういたしますか?」
大間 柾「女神だかメカブだかあずかり知らぬわ。 それにこれは不法侵入者を自ら倒したにすぎん。」
角田 花丸「まぁ、その言い分が通るのが地球であり、日本でそ。」
大間 柾「誠司、スマンがコイツを警察へ突き出してくれ。 それが健全な一般人というものだ。」
大間 柾「コイツが女神だと主張しても、ここは日本。 正月は神社に参り、結婚式は教会でやり、葬儀は仏教の国だ。」
大間 柾「世界一複雑化した宗教を持つ国で、女神を主張したところで、イカれたコスプレイヤーにしか思われん。」
角田 花丸「その意見・・・全くもって、反論できないでそ。」
小林 誠司「承知いたしました。 すぐに警察に突き出してきます。 お食事は先に済ませてください。」
こうして、元魔王とその部下たちの平和は保たれるのだった。
・・・もちろん、そんな訳はなく、3人はこれから大きな騒動に巻き込まれる。
女神「魔王よ! どうか力を貸してください!」
大間 柾「ふざけんな! シフトどうするんだ!?」
女神「・・・シフト?」
そんなやり取りがあるのは、もうちょっと先の話である。