出発の日(脚本)
〇渋滞した高速道路
──嫌だった。
毎日通う学校も、縦社会で鬱陶しい部活も。
好きだ嫌いだで渦巻く人間関係も。
人は大きくなるにつれて世の中を知り
子供の頃に大事にしていたものを見失ったり
忘れてしまったり
得るものが減ってるように感じたりして・・・
そして『後悔』ってやつを沢山積み上げて行く。
──【あの時こうしていれば。】
そう言わないために、俺はバイクの中型免許を取得。
その後練習がてらに一年地元を走り回り
小さい頃からの夢だった日本一周を、18歳半ばにしてようやく実行
・・・から数時間。
現在渋滞に巻き込まれている。
九重 翔馬「進まねええええええええ!」
九重 翔馬(マジで進まない。何コレ?事故なの? それとも工事でもやってんの?)
立ち往生からはや15分。進んだ距離、3メートル。
まあ、大概の人はおまえバイクなら横から抜けていけよとか思うかもしれない。
だがしかし、待ってほしい。
人と言うのは、醜くも頭の良い生き物だと言うことを思い出していただきたいのだ。
「『俺が進めねえのになんで単車のおまえが楽に横抜けていこうとしてんだ。クソガキが!!』」
と根性の悪い人間も存在していると言うことを。
そう、幅寄せである。
今現在、渋滞に巻き込まれ・・・更には幅寄せをされているのだ。
しかも、幅寄せしている親父はバックミラー越しにチラチラと此方を見てきては満足そうにどや顔でタバコをふかしておられる。
九重 翔馬(正直ぶっ飛ばしたい・・・!!)
これが、某ギャング系ゲーム(グランド○フト)ならば
このバイクを乗り捨て、前の親父を運転席から引きずり出し
ぼっこぼこにした後、右上の☆が無くなるまで車を走らせたいところだが、いかんせんこれは現実。
九重 翔馬「くっそ・・・!はらたつ・・・っ!」
こう呟くのが精一杯である。
そこで俺は、頭のなかでおっさんの鼻に100円玉をつめていき、ようやく5枚目といったあたりで、渋滞が動き始めた。
ゆっくりと進んでいくと、渋滞の全貌が明らかになる。
どうやらタクシーが前の乗用車に軽く接触したらしかった。
タクシーに乗っていたであろうヤンキーチックな少女が、機嫌悪そうにしている様までは見えたが、そのまま俺は走り抜けていった。
〇大きい交差点
さぁ、それから数分後、さっきまでの渋滞は嘘のように解散。
快適にツーリングしていると腹が減ってきた事に気づく
九重 翔馬「(ぐうぅ~・・・)」
旅と言えば地方の名産品や、グルメも醍醐味だ。
今現在はまだ、数時間しか走っていないためそんなに目新しいものはないが
腹が減ってはなんとやらである。
スマホでこの辺の有名な店を検索する。
どうやら、有名なラーメン屋が数分走った所にあるらしい
レビュー内の写真も俺好みだ。
九重 翔馬「ここにすっかな・・・」
渋滞に巻き込まれ出鼻をくじかれた感はあるが
うまいものを食えば、そんな気分も飛んでいく事だろう。
完全に頭の中をラーメンにし、ウキウキ気分でバイクを転がす──。
〇寂れたドライブイン
九重 翔馬「・・・はぁ~」
溜め息の原因に目を向ける。やはりどう見ても[定休日]と書かれた看板がたっている。
九重 翔馬「なぜだ・・・」
踏んだり蹴ったりである。出発初日にして挫折しそう・・・
九重 翔馬「腹へったな・・・」
とは言うものの、度重なるハプニングによりすぐには動く気もおきず、駐車場にある自動販売機横のベンチに腰かけてみる。
バイクに乗っけてあるテント等の装備を眺め子供の頃からの夢を想う・・・
九重 翔馬「切ない・・・現実とは、あまりに世知辛く理不尽と非情に溢れている・・・」
そう呟いて、地面に視線を落とす
これから涙でアスファルトを濡らそうとしていると、目の前にわりと小さめの靴が現れた。
九重 翔馬「・・・??」
そのまま視線をあげると、B○S(韓国系)とか聞きながら、彼氏や友達とウェイwしてそうな女の子が
何故か俺の『財布』を差し出していた。
宮崎 優愛(ヤンキー)「これ、君の?」
金髪ストレートに付けまつげ、体型にあってないぶかぶかのジャージ。
九重 翔馬「あ、はい・・・」
宮崎 優愛(ヤンキー)「隣の自動販売機のとこに落ちてたよ」
九重 翔馬「はぁ、ありがとうございます・・・」
軽く頭を下げて財布に伸ばそうとした俺の手を、何故かヒョイとかわされた。
九重 翔馬(で、でたーちょっと面倒くさいパターンの奴ー!)
九重 翔馬(近くに怖いお兄さんたちが潜んでいて、後から財布どころか丸裸にされちゃう可能性も捨てきれねぇぞコレっ!)
九重 翔馬(しかしここで怯ひるむわけにはいかない。これから国をまわろうと言うのだ、こんな事よりすごい困難も待ち受けていることだろう!)
九重 翔馬(いやまてよ?これ以上の面倒ってもうそれは耐えられないんじゃね?泣いちゃうんじゃね?)
九重 翔馬(・・・とか言ってる場合じゃねぇっ)
九重 翔馬「あの・・・財布」
少女はこちらをじっとみている
宮崎 優愛(ヤンキー)「・・・・」
九重 翔馬「あの・・・そんな見られても」
数秒後、俺の言葉を無視するように彼女は言った。
宮崎 優愛(ヤンキー)「君、旅してるの?」
九重 翔馬「え?あ、はい・・・でもなんで?」
宮崎 優愛(ヤンキー)「ん」
少女はバイクを指差す。
そこには俺が手ぬぐいに墨で殴り書きした、『日本一周』の文字が風に揺れていた。
宮崎 優愛(ヤンキー)「はい、どうぞ」
視線を戻すと財布を渡される
九重 翔馬「あ、ども」
もう落とすまいと受け取った財布を肩からかけたカバンに戻していると、衝撃的な言葉が少女から繰り出される。
宮崎 優愛(ヤンキー)「ねぇ、君さ・・・」
宮崎 優愛(ヤンキー)「私も連れてってくれない?」
手を止め少女の方を向いた。
九重 翔馬「・・・は?」