ある日、ぼくらの王が殺されて

浮艇 景

1-1:王様が死んだ日(脚本)

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〇洞窟の深部
  これは、剣と魔法が主流だった時代の物語。
  
  人の国と魔物の国は、百年もの間互いに憎しみあい、戦い続けてきました。
  少年ロノはそんな物騒な時代に生まれてきましたが、彼なりに楽しく過ごしていました。
  今日も彼は幼馴染で大の仲良しであるアミーを訪ねるため、森のはずれの洞窟に来ているようです……。
ロノ「アミー! 遊びに来たよ。 一緒にご飯を探しに行こう!」
アミー「よう、ロノ! 今日はどこ行く? たまにはアンヤ平原にでも行かね?」
ロノ「……でも、平原は人間に見つかったら 逃げ場所がないから危ないって魔王様が言ってたよ?」
ロノ「このところ、この国の中でも武装した人間がいっぱい出没しているらしいし……やめとこう?」
  ぼく……ロノの種族は真水スライム。
  水から生まれた雑魚の中の雑魚だ。
  一方、アミーは火の悪魔。
  コワモテだし一見強そうなんだけど、
  悪魔の中では最低レベル。
  
  つまり、ぼく達はとっても弱い。
ロノ(人間に襲われたら一瞬で倒されちゃうよ……)
アミー「ええ! じゃ、また森か洞窟? 最近ずっと狭くて暗いとこに引きこもってばっかじゃん! たまには外出たっていいじゃねえか!」
ロノ「ええー……でも……」
アミー「大丈夫、大丈夫! オレも一応少しは戦えるしよ、 ”勇者”とか、明らかにヤバそうな奴いたらすぐ逃げれば平気だって!」
  どうやら、”勇者”と呼ばれるすごく強い人間が、ぼく達を倒すためにこの国に侵攻してきているらしい。
  だから子供のぼく達は、暗い見つかりにくいところへ隠れるよう王様からお触れが出ていた。
  ”勇者”を倒すだなんて、ぼくはもちろん、お調子者のアミーでさえも考えていなかったんだ。
  
  ……この時までは。
  (ザワザワ)
アミー「ん、なんだろう? パイセン達が皆こっちに向かってくるぞ。」
陸サメのアーク「おう! アミーもロノもここにいたか!!」
アミー「ウッス、なんかあったんスか?」
陸サメのアーク「なんかあったもクソもねえよ!! 我らの王様が、人間にやられちまった!!」
「………………………………………………。」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええっ!?」
陸サメのアーク「シッ! 声が大きい! 人間がここに来たらどうすんだ!!」
アミー「だっ、だって……人間数千人をお一人で蹴散らせる天下無敵の王様ッスよ? 人間一人にやられるお方じゃ……」
陸サメのアーク「ああ、たしかに王様はお強い御方だったが、とにかく敗北されてしまったのだ。」
アミー「で、でも、王様にはお強い配下もいっぱいいたッスよね!? ガーゴイル兵長とか、魔女メデューサ様とか……!」
陸サメのアーク「みーんな、王様より先にやられちまった。 仲間も、兵長様も魔女様も…………」
陸サメのアーク「だから俺はせめて、今生き残った奴らや隠れてる子供達を守ろうと思って……だからここに来たのさ。」
ロノ「……ぼく達、これからどうなっちゃうの?」
陸サメのアーク「王様のご加護が無くなった今、人間達はどんどん侵攻してくるだろう。 森は切り開かれ、洞窟も開発され……我らは駆逐される。」
陸サメのアーク「アイツらには敵わない。今、我らにできることは人間共がいないところへ逃げるだけだ。」
ロノ「そんな、やだよ……ずっとここで生きてきたのに……離れたくないよ……ううぅ」
アミー「そんな……ひどすぎるだろ!! なんで人間達はそこまでしてくるんだよ!!」
陸サメのアーク「勝った者が正義。 それがこの世界の摂理ってやつだ。」
陸サメのアーク「しかし、我らは生き延びるために逃げるのだ。人間共にやり返せる日が、いつか必ずやってくる。そのためには生きねばならん。」
陸サメのアーク「……我らを愛してくださった王様がいなくなった悲しみと、故郷を奪われる悔しさを忘れるなよ。その心が、いつか人間を砕くのだ。」
  ぼく達はこうして、攻めてくる人間達から逃げる生活が始まった……全ては”いつか”人間達、そして勇者をこの手で倒すために。
アミー「でも、”いつか”っていつだよ?」
ロノ「そんな事、ぼくに言われてもわからないよぅ……うぅ」
アミー「いいや。もし人間に会ったら……オレは我慢できないね。今すぐにでもやり返してやらぁ……!!」
陸サメのアーク「おい。なにヒソヒソ喋ってんだ? ……くれぐれも、今すぐ反撃しようだとか変な気は起こすんじゃないぞ。」
ロノ「うん、大丈夫。 わかってるよ……わかってる……」
陸サメのアーク「まあ、それならいいんだが。」
「………………………………………………。」
  ……ぼくもアミーも、多分同じ事を考えていたと思う。
  ────ぼく達が王様の仇をとるんだって。

次のエピソード:1-2:ぼくらのその後

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