善悪の境目

灰螺蛛蜘

出遭う友人の友人(脚本)

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〇黒
  連勤が終わり休日を楽しむように熟睡していた。
  サァァ──────
  雨音と湿気の香りに包まれて深く眠る。
  ピロン─
  耳元から大音量で着信メッセージの短い音がした。
  ピロン──
  気にせず深く眠ろうとしたが、更に追撃のメッセージが届く。
  ピロン──
  ピロン──
  ピロン──
  この容赦のない追撃は・・・
  想像しなくとも分かる。

〇本棚のある部屋
稲荷紡「・・・」
稲荷紡「・・・」
  ピロン──
  ピロン──
  ピロン──
稲荷紡「うるさい!!」
稲荷紡(スマホでアニメを、一気見してたらそのまま寝落ちしたのか・・・。)
稲荷紡(どうせ休みだからって、音量大きくしたまま寝たのは迂闊だったな・・・。)
  ピロン──
  ピロン──
  ピロン──
  寝ぼけながらスマホの音量を下げて、メッセージの確認する。
  『起きた???』
  『おーきーろー』
  『つぐちゃんは、まだに寝てるんですかー?』
  『つぐちゃーん!!』
  『つぐつぐー!!』
  『つぐちゃん見てー!』
  『つーぐちゃん』
  (スタンプ)
  『つぐつぐー』
稲荷紡「やっぱりアイツだ・・・。」
稲荷紡(こんなに遠慮なく追撃メッセージをするのは、俺の知り合いに一人しか居ない。)
稲荷紡(高校生の時から仲の良い、廿千裕二(はたち ゆうじ)のみだ。)
稲荷紡「なんかあったのか?」
  突然の連絡には驚く事はないが、起きるまで連絡してくる事に気になった。
  しかし、廿千からのこのテンションの連絡に身構えてしまうのだった。
  過去を振り返ると、新しく好きになった作品に語りかけたい時、今見た映画の愚痴を言いたい時、役者が気に入らない時。
  そんな理由で長時間話を聞く事が多かった。
稲荷紡(いや、ついに彼女が出来たかもしれない。その惚気話に賭けて話を聞くか。)
  どこかでそんな事ないとは思いつつも、既読無視する訳にはいかないので、返信をする。
稲荷紡「何」
  『おはよー!つぐちゃん』
稲荷紡「はいはい」
稲荷紡「おはおは」
  『今度会えない?久々に話そうよ!』
稲荷紡「いいけど、なんかあった?」
  『やっと連休取れそうだから、遊びたいって思ったんだわ!』
稲荷紡「あー・・・マジか。」
  廿千は中々休みが取れない仕事で、深夜もサービス残業有り、休日出勤(休み扱い)有りでかなり心配していた。
  毎度次こそは、今度は、後少し、もう少しで・・・
  と言いながら、会う約束が叶わなかった。
稲荷紡「最高じゃん」
  『ホントだよー!』
  『命の危機も感じていたから、やっと休み来たって感じ。』
  『まあ、会社が法的に怒られただけだけどさ』
  『休めなかった分休んでいいってさ』
稲荷紡「いいね」
稲荷紡(いやー、本当に良かった。 裕二と会うのが次はもしや・・・って思ってたし。)
  『つぐちゃんに会いたいし、次いつ休み?』
稲荷紡「ほれ」
  スマホ内にあるカレンダーをスクショして、廿千に送りつけた。
  『おけ』
  『ここ予約したから、少し前に駅まで来て』
  『僕はゲーセン行くから、早めに行くよ』
稲荷紡「え!? 早い・・・」
  今の短時間でお店が、予約された事に驚いた。
稲荷紡「待って」
稲荷紡「ここ、酒飲める場所だけど・・・」
  『つぐちゃんお酒好きだろ?飲みなよ』
稲荷紡「気を使うなよ」
  『いーのよいーのよ』
稲荷紡「ありがとな」
  お酒が苦手な廿千を誘うのはファミレスと決まっていたが、見てるだけでもいい所を予約されていて思わず嬉しくなった。
  当日廿千に会うのが楽しみになり、廿千に会うために仕事を頑張ろうとした。
  その後他愛もないなく、廿千とメッセージを交わしていく。

〇黒
  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・
  ・・・
  そして、約束の日当日になる。
  休日明けの仕事はかなり気合が入り、今週は全日定時帰り。
  嫌味を言う人も居たが、休日を変わってほしい人には申し訳無いが断ってきた。
  そして今日も、問題なく休日を迎える。

〇新橋駅前
  約束の日、数分前。
稲荷紡(んー・・・ ここら辺だっけか?)
  この駅の特徴的な場所に着き、辺りをキョロキョロする。
  スーツの人が多く行き交う中で、顔見知りを探す。
廿千裕二「お!!」
廿千裕二「つぐちゃーん!!」
稲荷紡「うお、裕二か。」
廿千裕二「やー!久しぶり。」
廿千裕二「元気?」
稲荷紡「ああ、元気だよ。 久々に会えて嬉しいよ。」
稲荷紡「そっちも元気そうで良かったわ。」
廿千裕二「うんうん。」
  廿千に見つかり、駆け寄ってきて軽く歓談するも、廿千の後ろからニコニコしながら来る男性を見る。
稲荷紡「えーと・・・裕二、この方は?」
廿千裕二「ああ。」
廿千裕二「なんて言うのかな・・・。」
  うーん。
  とか言いながら、廿千は説明に困りながら考えているようだった。
廿千裕二「フォロワーって分かる? ソーシャルネットサービスで繋がって・・・」
稲荷紡「分かるよ。」
廿千裕二「良かった! まあ、同志ってやつよ。」
稲荷紡「ふーん・・・」
  廿千が口を開こうとした際に、後ろに居た男性が先に遮ってきた。
神埼豊「えーと、私は神埼豊(かんざき ゆたか)と申します。」
神埼豊「裕二君からは、つぐちゃんさんの事はよく聞いております。」
神埼豊「何卒よろしくお願い致しますね。」
稲荷紡(つぐちゃんさん・・・。)
  一体何を話していたかは分からないが、あだ名のみを教えていて話した内容が気になっていた。
稲荷紡(学生時代のふざけた話か・・・?)
稲荷紡「神埼さん、はじめまして。 稲荷紡(いなり つむぐ)と申します。 つぐちゃんでいいですよ。」
神埼豊「わぁ、ありがとうございます! つぐさんと呼びますね!」
稲荷紡(つぐさん・・・)
稲荷紡(まあ・・・敬語とか抜けない人なんだろうな。)
廿千裕二「ああ、紹介してなかったな。 お二人ありがとっすー。 んじゃ、そろそろ行こうかー。」
  いつもの廿千のマイペースに気にせず、神埼さんを見ると同じように気にしていなかった。
  神埼さんは背筋をピシッとし、仕事着と変わらない服装でニコニコしていた。
  とりあえず廿千が神埼さんと繋がった理由や、最近の話をしていた。

〇大衆居酒屋
  少し歩いて、活気の良い居酒屋に着いた。
  様々なお酒が有り、食べ物も美味しそうで、店内は楽しそうに飲食している声がたくさん聞こえる。
稲荷紡「裕二がここを指定してくるの、本当に珍しいな。」
廿千裕二「やっぱり気付いた?」
稲荷紡「ん?」
神埼豊「ここ、よく私が来るお店なんですよ。」
稲荷紡「ああ、やっぱりそうですよね・・・。」
  廿千は元々お酒が苦手なので、こんなお店を知るわけが無いとは思っていた。
  しかしワイシャツに、スーツっぽいズボンの神埼さんなら仕事で利用しそうだな。
  と納得した。
  予約した席に着くなり、話を切り出した。
稲荷紡「もしかして仕事終わりですか? なんか裕二が巻き込んですみません。」
神埼豊「巻き込み・・・。」
廿千裕二「いやいや! 僕は無理矢理連れてきた訳じゃないよ!!」
神埼豊「はい。 今日は仕事が休みですし、彼も悪気があって巻き込んでいる訳でもないですよ。」
廿千裕二「悪気ってなんすかそれー!?」
廿千裕二「つぐも笑うなー!!」
稲荷紡「すまん、すまん。」
稲荷紡「神埼さんが仕事着っぽいから、仕事終わりだと思ってさ。」
廿千裕二「あー・・・なるほどね。」
神埼豊「私服を選ぶのが面倒でこれが私服なんですよ。」
神埼豊「悪気は無いんですけどね。」
稲荷紡「あぁ、そうなんですね。」
稲荷紡「どうしてもここら辺って、スーツの仕事終わりの人が来るもんで・・・。」
神埼豊「気にしないでください。 私も気にしてないですし。」
神埼豊「それより、つぐさんは15年前に発売された有名メイカーのこのゲーム、好きなんですよね?」
  神埼さんはそっとスマホを操作して、とあるゲームのパッケージを見せてきた。
稲荷紡「これは──!?」
稲荷紡「有名メイカーなのに、隠れた名作と言われるやつ・・・!!」
稲荷紡「あの結構作り込まれていて、細かいギャグやバッヂを集めて戦うゲームじゃないですか!」
廿千裕二「えーと、これと、これ、多分生中2つと、この旬の盛り合わせと、予約してたデザートを食後にとりあえず3つお願いします。」
神埼豊「そうです。 あの有名メイカーから出たのに、当時出ていたシリーズ物に埋もれてしまった奴です。」
廿千裕二「僕はこのコラボのコーラください。」
神埼豊「彼からつぐさんがこのゲームをやり込んでたと聞いていて、どうしても会いたいと頼んで居たんですよ。」
稲荷紡「なるほどなるほど。」
稲荷紡「裕二すらこのゲーム知らなくて、ずっと勧めてたんですけど結局ハマらなくて・・・。」
廿千裕二「有名メイカーのゲーム基本やらないからねー。」
廿千裕二「例えお金を積まれてもやらないかな。」
神埼豊「裕二君は、作品への向かい方がこだわりありますからねぇ・・・。」
稲荷紡「そうそう、これ高校生の時からもうこうだったんですよ。」
神埼豊「おや、そうだったんですね。」
稲荷紡「よくゲームとかアニメとかドラマも、気に入らないと愚痴って居ました。」
廿千裕二「いやいや、愚痴じゃなくて嫌いなだけだって!!」
廿千裕二「ドラマの撮り方とか、話の流れとか、演技とかなんか違うんだよなぁって思っただけ。」
神埼豊「こういう所ですよねー。」
稲荷紡「これですよねー。」
廿千裕二「早くも結託ですか!?」
  その後、ワイワイガヤガヤと廿千について話したり、ゲームの話をしていた。
  神埼さんは物腰が柔らかく、相槌も上手く話して楽しい人だった。
  廿千が連れて来るのも納得いき、廿千と楽しそうに話すのも不思議と違和感が無かった。
  そしてすぐに飲み物と食事類が来る。
稲荷紡「あれ、いつのまに。」
廿千裕二「二人共話してた時に頼んでおいた。」
廿千裕二「二人はビールで良いんでしょ?」
神埼豊「はい。」
稲荷紡「すっげー。 気が利くようになったじゃん。」
廿千裕二「いやいや、二人からはいつも二言目にビールの話が出るから・・・。」
稲荷紡「あ、そうなんですか?」
  神埼さんを見ると、頷いてビールジョッキを持ち上げた。
神埼豊「では乾杯です!!」
  乾杯!!
  ガチャとビール2つと、星型のラムネみたいな物が入ったコーラのグラスが接触した音を立て会話がより盛り上がる。
  廿千の近状からゲーム、映画、様々な話に転々としていく。
  そして、適当に賭けていた事を聞いた。
稲荷紡「そういえば、裕二って彼女とか恋愛に目覚めたの?」
廿千裕二「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
廿千裕二「僕が作るわけないだろ!」
神埼豊「まあまあ・・・。」
稲荷紡「お・・・と、すまん。」
  無駄に怒らせたが、神埼さんがなだめてくれた。
  その後も神埼さんのおかげでまた楽しく歓談して、謎のコラボデザートを食べて解散した。

〇本棚のある部屋
稲荷紡「はぁー・・・楽しかった・・・。」
稲荷紡「笑い過ぎて腹痛い・・・。」
  会わなかった分連絡は取ってはいたつもりでも、会うと話していた事でも再度口に出しいた。
  楽しく揺らめく意識に身を任せつつ、寝入る準備はした。
  神埼さんとは連絡先を交換して、今度の休みに会う話をした。
  『今度ここでイベントやるんですよ。行きませんか?』
  いきなりの誘いに驚いて硬直していた。
  別に嫌とかではないが、会ったその日に知らなかったイベントに誘われた。
  しかも、昔から好きな作品のイベントであったからだ。
  だんまりしていると、神埼さんは心配そうに一歩引いた。
  『いきなりのお誘い申し訳無いです。悪気は無いのですが、嫌でしたらすみません。』
  『あ、いや、行きます。』
  申し訳無さそうにこちらを見てきて、急いで答えた。
  今度の休みも楽しみだ・・・。
  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・
  ・・・
  つづく

次のエピソード:その笑顔の意味は

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