オネエ系マンガ家、無表情系編集者に初恋されてます!

あいざわあつこ

第4話 オネエ、詰め(られ)る(脚本)

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〇漫画家の仕事部屋
柊(やばい、ドキドキしてきた)
  今日、アタシは一つの決心をして、
  滝沢くんを待っていた。
柊(そうよ、もともとアタシはグレーなのが 大の苦手なの!)
柊(だから、今日こそしっかり彼の話を 聞いて・・・)
  深呼吸を一回。
  それだけじゃ、ドキドキが
  おさまらなくって、もう一回。
柊(はぁ〜・・・! よし、彼の話を聞いて、それで・・・)
柊(と、とにかく、聞いてやるのよ! なんでアタシのこと好きなのかって!)
  我ながら、メンタルが弱い。
  話を聞いて、決断する。
  そんな単純なはずのことが、
  まったくもってできる気がしないのだ。
柊(・・・しかたないじゃない。 ずいぶん、独り身だったんだもの。 あ、なんかまた悲しくなってきた)
  ――ピンポーン。
  インターホンが鳴って、
  すぐにいつもどおりドアノブが回る。
柊「ヒィ!」
柊(来ちゃった! 来ちゃったわ! 来ちゃった!)
  廊下を歩く音が聞こえる。
  彼のたてる音はかすかだ。
  歴代の編集は割と男性的、というか、
  ドタバタと歩く人が多かった。
  だけど、滝沢くんは・・・。
柊(あんまり、考えたことなかったけど)
柊(・・・もしかして、アタシの仕事を 邪魔しないため、だったりするのかしら。 いやそんなまさかね)
  だけど、彼ならあり得る。
  そんなことを思ってしまうくらいには、
  今、アタシは彼を意識してしまっている。
滝沢晶「お疲れ様で・・・ あ、作業中じゃなかったんですね」
柊「え、ええ・・・。 あ、これが原稿よ」
滝沢晶「お預かりします」
  紙束を受け取った滝沢くんが、
  丁寧に枚数を確かめ、
  それから読み始める。
滝沢晶「・・・・・・」
柊(・・・い、いつ切り出せば)
滝沢晶「あの」
柊「ひゃい!」
滝沢晶「ひゃい?」
柊「コホン・・・なあに?」
滝沢晶「あ、いえ、ここの書き文字部分。 誤字かなと」
柊「ええ!? うそうそうそうそ!」
滝沢晶「本当です。ほら、ここ」
柊「うわぁ〜んっ、ほんとうだぁ。 ごめんなさいねぇ、直しておかないと」
滝沢晶「いえ、ぜんぜん。 それより・・・」
柊「ん?」
滝沢晶「顔、近いです」
柊「!?」
  指摘されて、気づく。
  彼の持っていた原稿を覗き込んだせいで、
  顔と顔が、ものすごく、近い。
  ・・・それこそ、キスできそうなほど。
柊「きゃああっ! ごめんなさいね!? セクハラよね!?」
柊「いや、そんなつもりは なかったのだけれど!」
滝沢晶「いえ、別に嬉しいのでいいです」
柊「うれ、し!?」
滝沢晶「ええ、あなたのことが好きなので」
柊「し、しれっと言わないで〜!」
  顔に一気に血がのぼって、
  火照ってしまう。
滝沢晶「可愛いですね」
柊「無表情のまま言わないでくれる!?」
滝沢晶「表情があまり変わらないのは、 もともとなので」
柊「知ってるけども!」
柊(あ、でも、この流れ・・・。 もしかして、チャンスなんじゃ?)
柊「んんっ、コホン」
滝沢晶「なんですか?」
柊「ねえ、この間の話だけれど。 ・・・アタシの、どこが好きなの?」
  アタシがどストレートに問うと、
  彼は目を大きく見開いたあと、
  二度三度とまばたきをした。
滝沢晶「どこが。 ・・・作品?」
柊「へ?」
滝沢晶「いや、違いますね。 その単体だけじゃないので、 作風を愛している、が正しいです」
柊「や、嬉しいけど。 でも、アタシは今アタシのどこがって」
滝沢晶「はい、だから作風を愛しています」
柊「はい?」
滝沢晶「あなたがあなただから、 この作品群が生み出されたわけですよね」
滝沢晶「だったら、作風を愛している、 というのはあなたの人格を愛していると 言っても過言ではないでしょう」
柊「いや、過言でしょ」
滝沢晶「いいえ。おそらく、たぶん、 過言じゃないです」
柊「妙に自信ないのね」
滝沢晶「誠実でいたいので」
柊「よくわかんないんだけど」
滝沢晶「そうですね、俺もよくわかりません。 でも、鬼橋逝人先生の作品以上に 好きなものがこの世にないんです」
柊「えっ」
滝沢晶「一見して、血しぶきや無骨な絵柄から ただの色物と思われがちですが、 その真髄は違う」
滝沢晶「きちんとした感情線から描かれる、 骨太な“情”」
滝沢晶「それが絡まり合って、物語を作り上げて いくさまは壮観としか言えず」
柊「ストップ! ストップ! 恥ずかしくて! 死ぬ!」
滝沢晶「何を恥ずかしがることがあるんですか? 今作だって、主人公とヒロインである 仁美の情愛の濃さも」
柊「いい! 作品レビューは一旦やめて!」
滝沢晶「ああ、はい。お望みなら」
柊「・・・うう。 で、でも、それってアタシが好きって ことにはやっぱりならないと思うんだけど」
滝沢晶「・・・なんで、ならないんですか?」
柊「え?」
  アタシの服を、不意に引かれる。
  彼は椅子に座ったまま、
  アタシを上目に見つめてきた。
柊「あの」
滝沢晶「わかりません。 これが恋じゃないなら、 なんなんですか」
柊「アタシに聞かれても・・・」
滝沢晶「これは恋です。 ・・・おそらく」
柊「なんで、自分の気持ちなのに、 そんなにあやふやなの?」

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