第5話 オネエ、ときめく(脚本)
〇赤レンガ倉庫
柊(デートなんていつぶりかしら。 ああああ、バカみたいな 格好してないわよね?)
柊(一応、服のセンスはない ほうじゃない、はず・・・!)
柊(あっ、でもイマドキの子から見ると、 やっぱりおじさんくさいのかしら!? んまっ!? おじさん!?)
柊(おじ・・・! 自分で言っといて悲しい!)
滝沢晶「あの」
柊(いやでもね、割とカタい服できたはず。 浮かれてなんか無いし? あっ、そうだったわ!)
柊(久しぶりに外を出歩くんだから、 口調もちゃんとしないと!)
柊(いやぁんっ、オネエ言葉封印とか、 久しぶりすぎてやばぁいっ)
滝沢晶「あのう」
柊(っていうか待って待って! 俺!? 俺ってアタシ言っちゃうの?)
柊(え? 言える? 俺よ? 俺! あらぁ! 言える気しないんだけど!?)
滝沢晶「・・・ふっ」
ふっと、耳に突如息がかかる。
柊「きゃああああっ!?」
滝沢晶「あ、気づきました?」
柊「なっ!? な、なああっ!?」
振り返る人々の視線が痛い。
そりゃそうよ。いくらイケメンとはいえ、
アラサー男性の叫びとは思えないほど
乙女な声をあげてしまったのだから。
柊「ふっ、普通に声をかけなさいよ!?」
滝沢晶「かけましたよ。 でも、まったく反応しなかったので」
柊「えっ、うそ」
滝沢晶「うそじゃありませんよ。 だいぶ前から、俺、ここにいたんで」
柊「そうだったの? なんか、その・・・ごめん」
滝沢晶「いえどうも」
柊「で・も! 耳に息を吹くのはダメ! さすがに容認できないわ!」
滝沢晶「・・・触れるのはよくないと 思ったもので」
柊「触れるほうがまだマシよ! あんたの感性どうなってんの!? ってかどこ触る気!?」
滝沢晶「え? ・・・肩?」
柊「ほら普通じゃない! 肩のほうが全然いいに決まってる!」
滝沢晶「わかりました。 ・・・今度から、 接触はためらわず行います」
柊「えっ、そう言われると・・・ なんか違うけど」
滝沢晶「よくわかんないですね。難しいです」
柊「・・・あんたのほうが よっぽどわかんないわよ」
脱力したアタシを見て、
滝沢くんは一つうなずく。
滝沢晶「よく言われます。 ・・・それで、落ち着きましたか? そろそろ出発しようかと」
柊「えっ、あ、うん」
柊(そうだ。 そういえば、デートに来たんだった)
そう思い出した瞬間、照れくさくなる。
柊「そ、それでどこに行くの?」
滝沢晶「定番コースを調べてきましたので、 おまかせください。 ・・・あ、定番はダメなタイプですか?」
柊「そんなことないわ・・・じゃない」
滝沢晶「ん?」
柊「そんなことないよ。 定番には定番のよさがあるって 思うタイプだ、ぜ」
滝沢晶「?」
柊「とりあえず、行こうか」
滝沢晶「はい、あ、けどまだ早いんで」
柊「あ、うん。ごめん、どこ行くの?」
滝沢晶「秘密、です」
柊「ちょ、なによそ・・・。 じゃなかった、なんなんだ、それは」
滝沢晶「・・・・・・」
柊(そんな顔するなっての!)
〇映画館の座席
連れてこられたのは映画館。
確かにベタなデートコースだけど。
そんなことより・・・。
柊(なんで、この映画なの〜!?)
女優「彼の仇、殺してやる・・・!」
俳優「ふっ、お前になどやられんよ」
柊(この監督って、今度アタシの作品を 撮る人じゃない〜!!!)
柊(えっ!? なに? なんなの? 仕事の延長? やっぱり仕事の延長なの〜!?)
苛つきながら隣に座る滝沢くんを見る。
だが、彼は映画に夢中なのか、
アタシの視線なんか気づきやしない。
柊(ふんっ。 ま、まあ? 別に、構わないし? 仕事の延長でも一向に構わないし?)
ムシャムシャとポップコーンを頬張る。
柊(アタシばっかり浮かれてバカみたい! ・・・ん?)
柊(浮かれて? 浮かれてなんかないし! そんなまさか!?)
思わず赤面してしまう。
これじゃあまるで、アタシ一人期待して
いたみたいでしんどい。
柊(・・・っ!?)
滝沢晶「・・・・・・」
暗闇の中。
手がぎゅっと握られる。
柊「・・・・・・」
見つめても、彼とは視線が交わらない。
だけど、その耳はうっすら赤いようだ。
柊(・・・もう、なによ)
〇居酒屋の座敷席
柊「ぷはーっ! それでさ、それでさぁ、 やっぱりラストシーンの 瀬島がよかったのよね」
滝沢晶「ああ、ハイ。 瀬島役・・・俳優は確か」
柊「惣三郎様よ!! やっぱり歳を重ねるごとに、 どんどん魅力あふるるイケオジに なっていってるぅ。はふぅん。神」
ため息を吐きながら、
目の前のジョッキを飲み干す。
アタシと滝沢くんは映画を見たあと、
個室居酒屋へとやってきていた。
柊(ここでなら思う存分、 オネエ言葉も使えるわ。楽ちん!)
滝沢晶「・・・・・・。 最初は、俺の顔ばかり見てましたよね」
柊「え? あ、あー・・・ちょっと考え事してて」
柊「でも、惣三郎様が出てきたら、 もうその老練な演技に見とれちゃって」
滝沢晶「そうですか」
そっけない声に驚いて、
思わず滝沢くんを見る。
すると彼はどこか不満げな顔をしていた。
柊「あらやだ! もしかして、嫉妬でもしちゃったの?」
滝沢晶「嫉妬? ・・・ああ、これが?」
柊「むすっとしちゃってかーわいー。 って、さすがにそんなこと──」
滝沢晶「なるほど、嫉妬しました」
さくっと答えた滝沢くんは、
そっとジョッキを握るアタシの
手に手を重ねる。
柊「ひえっ」
滝沢晶「接触はOKだと」
柊「今じゃない!」
滝沢晶「むずかしいですね。 ・・・まあそれはおいておいて」
滝沢晶「いずれにせよ、俺は嫉妬したようです。 あなたには、俺以外を褒められたくない」
柊「なっ」
ストレートな言葉と視線に射抜かれ、
思わず心拍数が上がってしまう。
滝沢晶「俺のことだけ、褒めてください。 ・・・ただでさえ、今日のあなたは 少し遠く感じて悲しかったので」
柊「え?」
滝沢晶「外では、口調を気にされて いるんでしょう? 俺は気にしないのに」
柊「・・・っ」
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