オネエ系マンガ家、無表情系編集者に初恋されてます!

あいざわあつこ

第1話 オネエ、絶叫する(脚本)

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〇ビルの裏
銀次「チッ、ここまでか」
憲三郎「アニキ、もう遊びはおしまいに しやしょうや」
銀次「いいや、まだだ・・・。 俺は、まだ・・・」
  ――バキューン!
銀次「ぐう・・・っ!」
憲三郎「あ、アニキぃいいいい!!!」

〇漫画家の仕事部屋
柊「あー、終わったー。 んもう、マジで憲三郎ったらいい顔! 自分で描いといてなんだけど最高ね」
  徹夜明けの体を起こして、
  ずりずりとそのまま洗面所まで歩く。
柊(シャワーは気力がない。 でも、せめて! せめて、顔だけは洗う!)

〇白いバスルーム
  ――キュッ。
柊「ふあぁ、気持ちよかった〜。 ・・・って、あらやだ」
  鏡に思わず手をつく。
  前髪の分け目、真ん中あたりに・・・。
柊「こんなところに白髪! んもう、この間染めたばっかりなのに、 やんなっちゃうわ」
  大きくため息を吐きながら、
  指先で白髪を引き抜く。
  その手付きはもう慣れたものだ。
  だって、アタシ、もうアラサーだし。
柊(こんなことじゃへこたれないわ)

〇本棚のある部屋
  ベッドに勢いよくダイブして、
  目を閉じる。
  だけど、まぶたのウラにはまださっきまで
  書いていた原稿がこびりついていた。
  と、スマホが鳴る。
柊「はぁい?」
晶「・・・お疲れさまです。 原稿の受け取りですが」
柊「ん、いつもどおり勝手に入ってきて。 今回の銀次もマジやばいわよぉ。 激渋、つよつよオジサン、最高」
  電話の相手は、担当編集だ。
  眠い目をこすりながらそう告げると、
  電話の向こうで彼はかすかに
  戸惑ったようだ。
晶「・・・そうですか、ではまた」
柊「ふぁい、おやすみ」
  スマホを電源ごと切って、
  うとうととまどろみに身を任せながら、
  せっかくだからイケオジの夢が見たい、
  と心のなかで欲を出してみる。
  こんなに頑張ってお仕事したんだから、
  いい夢くらい見せてちょうだいよ。
柊(でも、ほんっと・・・。 こんな働き方、いつまでも できるもんじゃないわ)
柊(もう、若く、ない・・・んだ、し・・・)

〇黒背景
元カレ「俺たち、別れよう」
柊「えっ、なんで? こ、この間まで、アタシのこと、 好きだって・・・」
元カレ「冷めたんだ」
柊「ど、どうして・・・?」
元カレ「どうしてって、お前が・・・。 マンガ家の鬼橋逝人だからだよ!!!」

〇本棚のある部屋
柊「!?」
  ――ガバッ。
柊(今の・・・夢? あああ、夢だわ。 もう、あの恐怖のPNバレから 5年も経つのに)
  改めてベッドに大の字に寝転がる。
  1時間ちょっとしか寝ていないのに、
  もう目は冴えてしまった。
柊「マジで、やってらんないんだけど」

〇漫画家の仕事部屋
柊「・・・・・・」
柊(結局眠れないからって、 仕事しちゃってるとか)
柊(はー・・・まあでも、おかげで 直したいトコとことんいじれる からいっか)
  カリカリとペンを紙の上に走らせる。
  友達の漫画家も、そのほとんどが
  デジタルに移行したけれど、
  私は未だにゴリゴリのアナログ派。
柊(なんとなく、そのほうが強い線が 引ける気がしちゃうのよね)
柊(アタシみたいなハードボイルド系は そのほうが合ってる気がして)
  なんて考えていると、
  不意にインターホンが鳴った。
  そして、アタシが返事をするより早く、
  カチャカチャと玄関から音が聞こえる。
柊「あ、もうそんな時間・・・?」
滝沢晶「先生、おはようございます」
柊「ん、おはよ」
  振り返らずに言葉を返す。
  相手はもうわかっているもの。
  ・・・最近アタシの担当編集になった、
  滝沢晶、だ。
滝沢晶「・・・・・・」
  どうせ振り向いて挨拶したとて、
  彼はアタシと目線を合わせない。
柊(この子ちょっと、苦手なのよね。 現代っ子の低体温ボーイっていうか 超イケメンなんだけど好みじゃないの)
柊(ま、アタシがオジ専ってのはあるんだけど)
  だけど、仕事は仕事、だ。
  編集者として考えると、彼は有能。
  それで十分だろう。
滝沢晶「ご進捗、いかがですか」
柊「まだ。直し始めたら止まらなくて。 ・・・でもラスト1Pだから、 座って待ってて」
滝沢晶「はい」
  原稿の束の前にある座椅子に座って、
  滝沢くんが中身を確認する。
滝沢晶「・・・ふむ。 いつも以上にエグいですね」
柊「それ、どーゆー意味?」
滝沢晶「もちろん、いい意味です」
  ちらっと盗み見た滝沢くんは、
  相変わらずの無表情。
  だけれど、よく見ると小さく口角が
  上がっている。
柊(いい顔するわね〜。 マンガがマジで好きってかんじ)
柊「そう? んふ、ありがと」

〇漫画家の仕事部屋
滝沢晶「・・・よし」
  丁寧に滝沢くんが原稿を封筒に収める。
  そして、折り目正しくアタシに
  頭を下げた。
滝沢晶「今月分、確かにいただきました」
柊「はいどーも」
滝沢晶「鬼橋先生は、相変わらず優等生ですね」
柊「・・・ね、それ締め切り当日に出してる 作家に言うこと? んまっ、もしかして、嫌味?」
滝沢晶「いえ、本心です」
柊「ふうん、ならいーけどねぇ」
滝沢晶「・・・拗ねたんですか」
柊「いーえっ、そんなことないわ」
滝沢晶「本気で本心だったんですけどね、 先生方は・・・とくに、鬼橋先生クラスの 売れっ子になると、」
滝沢晶「まったく皆さん締め切りを守って くれません。 それを思うと、やっぱり鬼橋先生は」
柊「ストップ! ごめんなさいね、 ジョークよ? ジョーク!」
滝沢晶「そうでしたか」
  すんなりと納得して、滝沢くんは
  いそいそと帰り支度をはじめる。

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