消える探偵 前編(脚本)
〇スーパーの店内
霧子(きりこ)「あともう少しで仕事も終わりだし、今日は夜ごはん、何食べようかな〜」
霧子(きりこ)「ご飯炊いてなかったから、お弁当買っちゃおうかな」
霧子(きりこ)「そろそろ割引クーポン付けるはずだし」
霧子(きりこ)「あれ? こんな時間に小学生・・・」
霧子(きりこ)「・・・」
瑛人(えいと)「・・・」
霧子(きりこ)「難しい顔・・・お弁当で悩んでるの?」
霧子(きりこ)「ラスト一個のトンカツ弁当。 それ、割引クーポン付かないヤツなんだよね・・・」
霧子(きりこ)「私オトナだし、ここはこの子の将来のために、トンカツ弁当はあきらめて、唐揚げ弁当を買おう」
霧子(きりこ)「よし。任務完了」
〇スーパーマーケット
瑛人(えいと)「菜々!」
瑛人(えいと)「お弁当買ったから、帰ろうか」
菜々(なな)「わ~い!トンカツだ!!」
霧子(きりこ)「ちょっとゴメンね」
霧子(きりこ)「お兄ちゃん、そのマイバッグの中のお弁当、レジ通してないよね?」
瑛人(えいと)「・・・!」
菜々(なな)「にーに、このひと、こわい」
霧子(きりこ)「お姉ちゃん、このスーパーで万引きGメンってお仕事してるの」
瑛人(えいと)「・・・」
霧子(きりこ)「──何も話せないなら、事務所に来てもらうね」
〇事務所
店長「こんなちっちゃい子供が捕まるなんて、なんだか悲しい世の中ね」
霧子(きりこ)「本人が黙秘していて、家庭の手がかりは妹の衣服に書かれている名前だけなので、交番に通報しました」
店長「まったく、20時に子供2人で出歩いているのに、親は何してるのかしらね!!」
霧子(きりこ)「・・・放任主義か、仕事が忙しすぎて管理できないとか?」
店長「あら、霧子ちゃんゴメンなさいね!そろそろ退勤時間でしょ?」
霧子(きりこ)「警察が来るまでは、目撃者として居ます!」
店長「悪いわね〜カレシとデートだったんじゃないの?」
霧子(きりこ)「軽くセクハラだよ、店長」
霧子(きりこ)「私なんて・・・彼氏、居ませんし・・・」
店長「若いのに、勿体ないわね!アタシがもう少し若かったら、ゴハンに誘うのに!」
霧子(きりこ)「もぅ、しつこい。 早くこの場から消えたい・・・」
新(あらた)「お疲れさまです!私は北町交番勤務の飯島巡査です!!」
新(あらた)「妹の名前をもとに、近くの幼稚園で名簿を探してもらって、保護者の特定が出来ました」
新(あらた)「まだ出先とのことで、帰り次第迎えに来てもらう段取りになっています!」
新(あらた)「あれ?通報くれた目撃者って、霧子かよ」
霧子(きりこ)「何よ。私で悪い?」
菜々(なな)「えーん、えーん」
瑛人(えいと)「クソッ、余計なことしやがって・・・」
霧子(きりこ)「もしかして、妹ちゃん・・・お腹空いてるんじゃないかな?」
菜々(なな)「うん・・・」
霧子(きりこ)「私の唐揚げ弁当で良かったら、食べなよ」
菜々(なな)「なな、からあげ好き!」
瑛人(えいと)「奈々!」
菜々(なな)「にーにもたべよ。おいしいよ❤️」
瑛人(えいと)「キュルルル」
霧子(きりこ)「私の小さい頃も、いつまでも親が帰ってこなくて、お腹空かせてたの」
霧子(きりこ)「君たちのキモチ、少し分かるよ」
瑛人(えいと)「・・・食べるよ」
瑛人(えいと)「奈々、サラダも食べろよな!」
店長「霧子ちゃん、ホントに彼氏居ないのね・・・」
霧子(きりこ)「ちょっとー、警察官!目の前で事件だよ!! セクハラ親父を捕まえて!!」
〇事務所
由佳(ゆか)「うちの子供がご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした!」
由佳(ゆか)「瑛人、ごめんね。ママが忙しくしすぎたわ。一緒にお店の人に謝ろうね」
瑛人(えいと)「ごめんなさい・・・」
店長「いや、最近は共稼ぎの家庭も多いから、親の気を引きたくて盗みをする子供も居ますよ」
店長「まあ初犯だし、あまり叱らないでやってくださいね!」
由佳(ゆか)「ハイ・・・本当に、私が悪いので・・・お代はお支払いします」
新(あらた)「良かったですね、お母さん!店長のご厚意で、今回は事件としては扱いませんから」
霧子(きりこ)「優しいお母さんで良かった・・・」
由佳(ゆか)「さ、帰りましょう。菜々、おいで」
菜々(なな)「なな・・・おうちいや。 おかあさんと、スイート♥ミントみたい」
霧子(きりこ)「あ、私も好きよ、そのアニメ」
由佳(ゆか)「奈々、ワガママ言って、困らせないで。 ママとアニメ観たいなら、一緒に帰らないとね」
由佳(ゆか)「瑛人、奈々と手を繋いであげてね」
瑛人(えいと)「行くぞ、奈々」
店長「最近の母親は、若いし優しすぎるのよね!」
店長「昔、アタシがサツにパクられた時は、親父が怒鳴りこんできて、いきなりドロップキックよ!」
店長「頭に2針縫う怪我して、サツよりよっぽど怖かったわよ〜?」
新(あらた)「そんな父親だったからオネエになったのかな?」
〇スーパーマーケット
新「霧子!」
新(あらた)「家まで送るか?」
霧子(きりこ)「パトカーで? 嫌よ。近所の人に何言われるか・・・」
新(あらた)「じゃ、歩きながら話そう」
〇線路沿いの道
霧子(きりこ)「高校以来ね」
新(あらた)「叔父さんと叔母さんは元気?相変わらず忙しいの?」
霧子(きりこ)「ええ。世界を股にかけるスパイ夫婦だもの」
霧子(きりこ)「成人した一人娘なんて、気にならないと思う」
新(あらた)「なあ、霧子。お前、警察官採用試験受ける気ない?」
霧子(きりこ)「何よ、唐突に!?」
新(あらた)「昔から言ってるけど、お前の才能が勿体無いって。 万引きGメンなんて、正雇用じゃなければ時給だろ?」
新(あらた)「まだ若いんだから、もっとやりがいのある仕事しろよー」
新(あらた)「ほら、パンフレット見ておいてくれよな。 渡しておくぞ」
霧子(きりこ)「私なんて・・・ムリに決まってる」
新(あらた)「じゃ、俺のケータイ番号変わってないから、何かあったら連絡くれ」
新(あらた)「交番でもいいぞ!」
霧子(きりこ)「相変わらず、ひとのハナシ聞いてないヤツ・・・変わってないわね」
霧子(きりこ)「でも、変わってなくて良かったな」
〇スーパーマーケット
霧子(きりこ)「今日は雨か。天気予報どおりね」
霧子(きりこ)「でも、せっかく要らない服持ってきたから、リサイクルボックスに寄ってから帰ろう」
霧子(きりこ)「ふー。ゴミにするのも、お金かかるからね。スーパーのリサイクルボックスって、助かるわ」
霧子(きりこ)「あ、誰か間違えてる」
霧子(きりこ)「服のボックスにお菓子の缶入れたらダメよ~」
霧子(きりこ)「入れ直してあげるね」
霧子(きりこ)「ああっ!」
霧子(きりこ)「!?」
霧子(きりこ)「視え・・・ちゃった」
霧子(きりこ)「しかも、死体の手。ど、どーしよ」
私の使えない特殊能力
──それは・・・
触れたモノを透視する能力。
霧子(きりこ)「け、ケーサツ!あっ、そうだ!新に連絡!!」
私はまだ、この時は気づいていなかった。
まさか、あんな事件に巻き込まれるなんて
〇綺麗な会議室
鮫島警部補(さめじま)「だから、君はなぜこの缶に人の手があることに気づけたの?」
霧子(きりこ)「ええっと・・・あの、缶を持った時に・・・なんとなく・・・じゃダメですか?」
鮫島警部補(さめじま)「警察が開けるまで、開けられた形跡は無いんだ。 ということは、君は遺体があることを知っていたんだな?」
霧子(きりこ)「い、言いがかりです!持つまでは、私にも分からなかったんです!」
鮫島警部補(さめじま)「持って、遺体の一部が入っていることが分かったから、通報したと?」
霧子(きりこ)「・・・はい」
鮫島警部補(さめじま)「怪しすぎるだろう!!」
霧子(きりこ)「ぴえん!」
〇豪華なベッドルーム
霧子(きりこ)「つかれたあ〜!」
霧子(きりこ)「ホントに透視なんて特殊能力、あっても無駄どころか、今日はピンチになっちゃった」
霧子(きりこ)「何で私は、透明人間の出来損ないに生まれてきちゃったのかな・・・」
霧子(きりこ)「新が迎えに来てくれなかったら、まだ警察署で怖い尋問されていたかもしれないわ!」
霧子(きりこ)「もしもし新?今日はありがと。 あと──」
霧子(きりこ)「帰りに泣きついちゃって、ゴメン」
霧子(きりこ)「え?リサイクルボックスの監視カメラに犯人?」
霧子(きりこ)「良かった〜!もう、私は疑われないよね」
〇店の事務室
新(あらた)「それがさ、その遺体の一部が入っていた缶を捨てていた犯人が・・・」
新(あらた)「霧子も知ってる人なんだ」
〇綺麗な会議室
瑛人(えいと)「・・・」
鮫島警部補(さめじま)「黙ってちゃー分からないぞ、坊主。 なんであの缶をリサイクルボックスに入れたんだ?」
瑛人(えいと)「・・・」
瑛人(えいと)「万引きGメンのお姉ちゃんを呼んで!」
瑛人(えいと)「そしたら・・・話す」
由佳(ゆか)「瑛人!?」
鮫島警部補(さめじま)「やはり、あのオンナ・・・この件と関係があるんだな?」
鮫島警部補(さめじま)「俺の刑事勘は騙せないぜ! 絶対に捕まえてやるからな!!」
〇黒
中編に続く
ヘビーなテーマですが、霧子ちゃんや新くんたちのキャラの健やかさや可愛さで、陰鬱にならずに楽しく読んでいます。霧子ちゃんの特殊能力が事件とどう関わっていくのか楽しみになりますね!
登場人物が個性豊かでキャラクターのバックボーンもしっかりしているので、物語に引き込まれてしまいました。瑛人、菜々兄妹の件は読んでいて悲しくなってしまいました……
男の子がしっかりしてて、よけいにかわいそうになってくるんですよね。
家庭環境は選べませんから。
彼女の仕事としても、ちょっと辛いですよね。