エピソード13(脚本)
〇岩山
メルザムの街を出て半日ほど歩くと、連なった山々の中腹に、巨大なトンネルの入り口が存在する。
入り口付近から奥まで続く線路は、機能するのか分からないほど錆が張りついている。
傍(かたわ)らにあるトロッコには、今は使われていないのであろう道具がいくつか乗せられているだけだった。
〇坑道
暗く先の見えないトンネルに入ってすぐ、アイリは腰に左手を当てて、右手の人差し指をエルルに向けた。
アイリ「絶対に無茶だけはしないこと。 いいわね?」
エルル「はいっ!」
結局、エルルの条件を飲んでクエストに連れていくことになったニルとアイリは、3人でテンガム鉱山へと来ていた。
先を行くニルとアイリの後ろを、今にも鼻歌でも歌いだしそうな足取りでエルルが続く。
鉱山内は薄暗く、所々に設置されているランプが主な光源となる。
隣り合うランプの間でゆらゆらと動く影で、エルルの浮かれている様子は、ニルとアイリにも容易に見て取れた。
ニルはエルルの影を横目に、アイリにひっそりと耳打ちする。
ニル「ねえアイリ・・・本当によかったの?」
アイリ「まあ、勝手な行動さえしなければ大丈夫だと思うわ。護衛の任務と同じよ」
アイリ「実際、名目上はそうだしね」
小声で返すアイリに、ニルはためらいがちに頷(うなず)いた。
今回、メイザスの目をかいくぐるために、ふたりはエルルの護衛という名目でこのテンガム鉱山へ来ていた。
鉱石採集の護衛としてならば、ギルドも不審に思わなかったようで、特に問題もなく来ることができた。
そして、メルザムを出たときからエルルはずっとこの調子である。
アイリが小さく息を吐く。
アイリ「まあ、実際にギアーズを目の前にすれば、色々と諦めもつくでしょ」
ニル「・・・そうかなあ」
ニルはアイリに遅れぬよう、頼りない光に照らされた線路の脇を進む。
すると、きょろきょろしながら楽しそうに歩いていたエルルが、「そういえば!」とふたりを振り向いた。
ニルのもとに駆(か)け寄り、背負っていた武器のひとつを差し出す。
エルル「これ、前に言っていたものです」
エルル「とりあえずなんですけど、使ってください」
エルルが差し出した剣に、ニルとアイリは目を見張る。
エルル「私が鍛えた剣です。おじいちゃんが作ったものには劣りますけど・・・」
アイリ「へえ・・・見事なものね」
アイリ「鍛冶の腕前は、もう一人前なんじゃない?」
エルル「えへへ・・・」
職人顔負けな出来栄えの剣を受け取り、ニルはランプの光に刀身をかざす。
手に馴染むグリップに、思わず感嘆の声が漏れた。
その様子を見てエルルは照れたように頬を緩める。
エルル「じゃあ行きましょう! 私、わくわくしてきました!」
ニルとアイリの横に並ぶように、エルルは軽快なステップで線路を歩いた。
〇坑道
それからしばらく何事もなく鉱山内の探索が続いた。
しかし、先頭を歩いていたアイリが突然歩みを止める。
アイリ「・・・ニル」
ニル「分かってるよ。 エルル、俺たちの間に」
周りを警戒するように見回し、間にエルルを挟む形でニルとアイリは背中合わせで立って武器を構えた。
進んでいた線路の脇道から、ラウルが次々と現れて3人を囲む。
他のラウルより体格のいい、ラウルたちのボス——ラウルガが、トンネル中に響き渡りそうなほどの声量で吠えた。
次の瞬間、ラウルたちが一斉に襲いかかってくる。
「!」
ニルとアイリは、それを避けながら迅速に反撃を仕掛ける。
ニル「っ、アイリ右!」
アイリ「ありがとう! っと、アンタも危ないわよ!」
お互いに気を配りながらも、ニルとアイリは見事な連携で次々にラウルを倒していった。
唸(うな)り声が小さくなるとともに数を減らすラウルに、ニルは剣を握りなおす。
ニル(よし、あと少し・・・)
しかし、ちらりと後ろを確認したニルは、ハッと息を呑んだ。
ニル(エルルがいない!?)
バっと周囲を見回すと、離れた場所でふたりが倒したラウルからパーツを回収するエルルの背中を見つけた。
アイリもそれに気づいたようで、目を見開いて叫ぶ。
アイリ「バカッ・・・」
すぐにエルルのそばに駆け寄ろうとするも、それよりも先にラウルガの爪が伸びていた。
しかし、小さな背中に襲いかかったはずのラウルガの爪は、虚しい音とともに空を切る。
エルルは素早く軽やかなステップで攻撃を避けて、自分に敵意を向けているラウルガを見上げた。
アイリが逃げるように指示する間もなく、エルルは軽々とハンマーを振り上げた。
軽い身振りとは対照的な、凄(すさ)まじい衝撃音とともに、勢いよく土煙があがる。
ニル「・・・へっ?」
視界が晴れ、ぺしゃんこになってしまったラウルガを目にし、ニルとアイリは大きく目を見開いた。
すぐさまエルルに駆け寄ろうとするも、まだ数匹のラウルが獰猛(どうもう)な牙を向けている。
ニルとアイリは頷いて、ひとまずラウルを一掃することに意識を集中させた。
静まりかえった洞窟からラウルたちの気配が消え、ふたりは剣を鞘(さや)に収めてエルルへと近づく。
巨大なハンマーを片手に首を傾(かし)げるエルルに、アイリは尋ねた。
アイリ「・・・これは、どういうこと?」
エルル「な、なんか倒せちゃいました・・・」
アイリ「アンタ、本当にコレクターじゃないの?」
エルル「違いますよ〜! ギアーズと戦うのも初めてです!」
嘘をついているわけではないようで、エルル自身も困惑した表情を浮かべている。
エルル「突然襲われてびっくりしました〜」
エルル「でも、うまく倒せてよかったです!」
アイリ「・・・ハンマー、ずいぶん使いこなしてたみたいだけど?」
エルル「あ、おじいちゃんにみっちり鍛冶を仕込まれたので、ハンマーの扱いは得意なんですよ」
「・・・・・・」
相変わらず無邪気なエルルに、ニルとアイリは言葉を失ってしまう。
明らかに、ハンマーの扱いに慣れている程度の話ではなかった。
いまだ疑問符を浮かべるふたりをよそに、エルルは笑顔でハンマーを背負いなおす。
エルル「よーし! 先を急ぎましょう!」
疑問を残しつつも、元気よく歩き始めるエルルに続いて、ニルとアイリも気を取り直して探索を再開した。
〇坑道
クエストの名目上で来ている以上、鉱石も手に入れなければならない。
目的の鉱石である「テンガタイト」は、このテンガム鉱山でしか採れない鉱石だ。
尖った硬いそれに毒性はなく、美しい銀色に光っているのが特徴である。
強度はあれど加工しやすく比較的軽い鉱石であるため、様々な装飾品や武器の柄などに重宝されている。
テンガタイトを望む者は多いが、鉱山の奥地へ向かわなければならないため、その希少価値は高めである。
アイリは、今まで何度か同じようなクエストを受けたことがあった。
そして今現在、そのときに向かった採掘場所を目指して3人は足を進めている。
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面白かったです。
いつも読んでます!
面白いお話をどうもありがとうございます。