可愛いきみに旅はさせない

榎本しおり

読切(脚本)

可愛いきみに旅はさせない

榎本しおり

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〇マンションの共用廊下
  『ピンポーン ピンポーン』
遠野 雫(絶対まだ寝てる・・・・・・)

〇汚い一人部屋
遠野 雫「春史! まだ寝てるの・・・・・・って、相変わらず散らかってる」
古賀 春史(・・・・・・ぐぅ・・・・・・すぅ)
遠野 雫「もう、今日は掃除の日でしょ!」
  雫が、春史のタオルケットを勢いよく奪いとる。
古賀 春史「・・・・・・んん、もうちょっと寝かせて」
遠野 雫「だめ! もうお昼過ぎなんだから!」
古賀 春史「きびしいなぁ」
古賀 春史「そうだ。 雫も一緒に布団に入ってもう少し寝ちゃおうよ」
遠野 雫「なに言ってるの! だめに決まってるでしょ!」
古賀 春史「えぇ、よく雫の昼寝に付き合って一緒に寝てたのに」
遠野 雫「それは私が小さい頃の話!」
  雫の顔をじっと見上げ、春史はくすりと笑う。
古賀 春史「昔はあんなに泣き虫で甘えん坊だったのになぁ」
遠野 雫「何年も前のこと言わないでよ・・・・・・」
古賀 春史「昔みたいにハルお兄ちゃんって呼んでくれないの?」
遠野 雫「言わないよ!」
遠野 雫(いつまでたっても子ども扱いするんだから・・・・・・)
古賀 春史「ふふ、ほっぺ赤い。 怒っちゃった? 機嫌なおしのハグしてあげようか」
遠野 雫「怒ってないし、それも昔の話! もう、起きたなら掃除するよ」
古賀 春史「わかった、わかった」

〇部屋の前
古賀 春史「ふぅ、終わった」
遠野 雫「うん。 だいぶ綺麗になったね」
古賀 春史「助かったよ。 いつもありがとう」
  春史が、雫の頭をなでる。
遠野 雫「まったく・・・・・・ 外では結構なんでも器用にできるのに、どうして家の中ではズボラなの?」
古賀 春史「んー、雫が来てくれるからかな」
遠野 雫「・・・・・・」
古賀 春史「あ、いま足蹴ったでしょ。ひどい」

〇大きいショッピングモール
  ─ショッピングモール─
古賀 春史「日曜日だからどこも賑やかだなぁ」
遠野 雫「うん。 人が多いね」
古賀 春史「迷子にならないようにしないと」
遠野 雫「なんで私のこと見ながら言うの・・・・・・」
古賀 春史「雫って気になるものを見つけたら、いつの間にか俺の前からいなくなっちゃうから」
遠野 雫「だからそれも昔の話・・・・・・」
遠野 雫(もう二十歳なのに、春史には何歳にみえてるのかな)
古賀 春史「・・・・・・」
古賀 春史「じゃあ、もう手は繋がないの?」
遠野 雫(いつもみたいに、私が怒って断ると思っている顔だ)
  悪戯っ子のような笑みを浮かべている春史に、腹が立った雫は手をにぎる。
古賀 春史「・・・・・・っ!」
遠野 雫「・・・・・・?」
古賀 春史「ほ、本当に繋いでくれるんだ・・・・・・」
遠野 雫「・・・・・・やっぱいい!」
古賀 春史「ちょっとなんで離そうとするの!」
遠野 雫「なんでもいいから離すのっ」
古賀 春史「えぇー・・・・・・」
遠野 雫(あんな顔すると思ってなかった・・・・・・)

〇テーブル席
古賀 春史「美味しかった?」
遠野 雫「うん! ここずっと来てみたかったの」
古賀 春史「ねぇ、さっきみたいな可愛いこと俺以外の前であんまりしちゃダメだよ」
遠野 雫「どうして?」
古賀 春史「ど、どうしてって・・・・・・どうしても」
遠野 雫「また子ども扱い?」
古賀 春史「え、違うよ。 子ども扱いなんてしてないよ」
遠野 雫「でもいつもしてくるじゃない」
古賀 春史「それは・・・・・・そうかもしれないけど」
  春史の後ろで、カップルが手を繋ぎながら歩いていくのが見えた。
遠野 雫(私は、あの二人とは違う。 春史は私をいつまでも幼い子どもだと思ってる)
古賀 春史「雫?」
遠野 雫「私は、春史のなに?」
古賀 春史「急にどうしたの?」
遠野 雫「ずっと聞きたかったの。 私は春史にとって幼い子どもなの?」
古賀 春史「・・・・・・ここで話すのはやめよう」
遠野 雫「・・・・・・ごめん」
古賀 春史「とりあえず帰ろうか」

〇住宅街の道
  気まずい空気のまま、二人は帰路につく。
古賀 春史「はい、荷物。 今日は掃除手伝ってくれて改めてありがとう」
遠野 雫「ううん、こちらこそ・・・・・・」
古賀 春史「・・・・・・」
遠野 雫(あ、また頭なでられる)
遠野 雫「え・・・・・・?」
古賀 春史「機嫌なおしのハグ」
古賀 春史「・・・・・・っていうのは冗談。 子ども扱いしてごめんね」
遠野 雫「・・・・・・」
古賀 春史「可愛くてついさ、構いたくなっちゃって。 あ、可愛いっていうのは子ども扱いしてるわけではなくて・・・・・・うーん、難しいな」
遠野 雫「私のこと、昔と変わらない子どもだと思ってるわけじゃないの?」
古賀 春史「うん、大きくなってから子どもだと思ったことは一度もないよ」
遠野 雫「じゃあ、なんであんなに子ども扱いするの?」
古賀 春史「今の関係を壊したくなかったからかな。雫にとって俺は、近所のお兄ちゃんだから・・・・・・」
古賀 春史「お兄ちゃんみたいに思っていた人から好意を寄せられたら・・・・・・その、困らせてしまうと思ったんだ」
古賀 春史「それに、雫にはきょうだいがいないでしょ?」
遠野 雫「うん」
古賀 春史「雫が俺を本当のお兄ちゃんみたいに思っているって、雫のお母さんからよく聞いていたから・・・・・・なおさらね」
古賀 春史「でも気持ちは変わらなくて、まっすぐ好きだって伝えられなくても、つい可愛がりたくなっちゃって」
古賀 春史「そうしたら昔みたいに子ども扱いしちゃった」
遠野 雫「そうだったんだ・・・・・・」
古賀 春史「ごめんね。 俺の勝手な気持ちのせいで雫に嫌な思いさせた」
遠野 雫「ううん。 ・・・・・・たしかに子ども扱いは嫌だけど」
古賀 春史「けど?」
遠野 雫「好かれるのは嫌じゃないよ」
古賀 春史「ほんと?」
遠野 雫「うん」
古賀 春史「もうお兄ちゃんでいなくていい?」
遠野 雫「いいよ。だからもう、」
古賀 春史「もう二度と子ども扱いはしない」
古賀 春史「ははは、かぶっちゃった」
遠野 雫「ふふっ」
古賀 春史「ねぇ、雫」
遠野 雫「なに?」
古賀 春史「俺、さんざん雫を子ども扱いしてきたけどさ」
遠野 雫「うん?」
古賀 春史「俺のほうがよっぽど子どもだよね。 部屋の片づけとかもできないし、色々と不器用だし」
遠野 雫「そうだねー。 私よりずっと子どもみたい!」
古賀 春史「うぅ・・・・・・」
遠野 雫「でも、そういうところが好きだよ」
古賀 春史「しずくぅー!!」
遠野 雫「ちょっと重たいから! 急に抱きつかないで!」
古賀 春史「・・・・・・夢じゃないんだ」
遠野 雫「なんか言った?」
古賀 春史「なんでもない! 早く帰らないと夕飯にありつけないよ」
古賀 春史「あ、今のは子ども扱いじゃないからね!」
遠野 雫「もう、わかってるって」

コメント

  • ついにはじまってしまったんですね。彼にとってもずっと超えたかった一線でしょう。好きっていうことばひとつとっても、友達として好き、家族として好き、異性として好き、いろいろあるから見極めって難しいんですよね。

  • 幼なじみのお兄ちゃんって、たしかにずっと「お兄ちゃん」で、恋心を意識してしまうと、関係が壊れてしまいそうで、躊躇してしまう気持ちはわかります。
    でも、それを乗り越えた二人にキュンしました!
    ラストのところが特に好きです。

  • 幼馴染の恋愛って、小さい頃の運命というか、したくてできるものではないから、すごく憧れます。これから2人の関係がどんなふうに変化していくのか楽しみですね。

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