わたしのもふもふバイト生活

久望 蜜

2.とあるバイトの日常(脚本)

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〇シックなカフェ
  ここは動物喫茶もふもふ。
  一見すると、ただの動物とふれあれる喫茶店だ。しかし──
男性客「『まるでキュウリのようなツヤ! カッパの皿専用保湿クリーム』ください」
カズミ「はい、少々お待ちください」
  実は、ここは魔術関連の道具を幅広く扱う店なのだ。
  ここの動物たちも、商品の一部。
  彼らは使い魔と呼ばれる存在であり、食べものの代わりに魔力をエネルギー源とする。
  しかも、店に来た客から魔力を吸いとっているというのだから、悪質だ。
カズミ「またのご利用をお待ちしております」
オーナー「カズミちゃんは手際がいいから、えらい助かるわ。 何だかんだ順応力も高いし」
カズミ「いえ、最初はもちろん驚きましたよ? カッパって魔術の範疇なのかとか・・・・・・」
オーナー「普通、カッパの存在自体に驚くと思うんやけどな・・・・・・。 ホンマ、カズミちゃんを雇って正解やったわ」
カズミ「でもオーナー、わたしの給料を人件費ではなくエサ代として計上してましたよね? 店の帳簿で」
オーナー「そうやったっけ? 直しとかんとなあ」
カズミ「全くもう・・・・・・」
セイ「でも、オーナーがカズミちゃんを一目置いているのは本当だピー」
ハル「あら、カズミちゃんだって、オーナーのことを憎からず思っているピヨ」
カズミ「そ、そんなんじゃないって!」
セイ「告白すればいいのにピー。 そうすれば、いくらあの鈍いオーナーでも──」
オーナー「無駄話ばかりしていると、焼き鳥にしますよ?」
セイ「ピッ!」
オーナー「カズミさんは、あちらのテーブルの片付けをお願いします」
カズミ「あ、はい・・・・・・」
カズミ(怖っ)

〇シックなカフェ
「いってー!!」
カズミ「ど、どうされました、お客様?」
クレーマー「どうもこうもねぇよ! このネコが、俺の手を引っかきやがったんだ!」
カズミ「シズカ、何があったの?」
シズカ「違うニャ! このオヤジが急にアタシの手を掴んで、自分で引っかいたニャ!」
カズミ「お客様、シズカに何かされましたか?」
クレーマー「俺が悪いとでもいうのかよ!? いいから、さっさと慰謝料をよこせ!」
カズミ「でも、この子は何もしないのに、人を引っかくような子じゃありません!」
クレーマー「何だと!」
  クレーマーの手が、わたしに伸びてきた。
オーナー「申し訳ございません、お客様!」
カズミ「オーナー・・・・・・」
カズミ(もしかして今、庇ってくれた?)
オーナー「当店からのお詫びのハーブティーです。 今日のお代は結構ですから、こちらを飲んでひとまず落ちついてください」
クレーマー「何だ、話がわかるじゃねぇか」
  ゴクリ。
クレーマー「でも、まだ慰謝料の話は終わってねぇぞ」
クレーマー「俺がわざわざ、そのネコの爪で自分を引っかいて傷をつけたんだから、がっぽり貰わないとな・・・・・・ん?」
オーナー「おや、ご自分で引っかいたのですか?」
クレーマー「ああ、そうだ! ・・・・・・ちょっと待て、俺はさっきから何をいって・・・・・・」
女性客「何、あの客?」
常連客「迷惑よ」
クレーマー「チッ、今回はこの茶で我慢してやる! もう二度と来るか、こんな店!」

〇シックなカフェ
  閉店後。
カズミ「オーナー、昼間のクレーマー客に何を飲ませたんですか?」
オーナー「ああ、気づいてもうた? 即効性の自白剤を少々混ぜただけやから、大したことはしてへんよ」
カズミ「自白剤!?」
オーナー「大丈夫。市販のやなくて魔術で調合したものやから、証拠は残らへん」
カズミ「ちっとも大丈夫じゃない気がするんですが・・・・・・」
オーナー「ウチの店にクレームをつけようとしたんや。 これくらいですめば、軽いもんやろ」
オーナー「それより、ああいう客がいたら、僕に早めに代わってくれてええから。ケンカになる前に」
カズミ「すみません・・・・・・」
オーナー「まあでも、ケガがなくてよかったわ。 使い魔どものために怒ってくれて、ありがとおな」
  わたしの頭に、ポンと手をおく。
  しかし、その手をどけると、セイがいた。
オーナー「カズミちゃんは危なっかしいから、使い魔をつけとくわ。 これからはセイが監視役――じゃなくて、店との連絡役や」
カズミ「今、監視役っていいました?」
オーナー「気のせいや」
カズミ(何か、どんどん逃げだせなくなっているような・・・・・・)
カズミ「まあいいや。よろしく、セイ」
  わたしのもふもふバイト生活は、まだまだ続きそうだ。

次のエピソード:1.バイトを始めた理由

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