〇山中の川
　　雄馬池で、人魚を探すミチオとナオキ。
　　しかし一向に見つからないまま、夜が明ける・・・。

〇山中の川
くだん「おい、ミチオよ」
金丸ミチオ「ん～？ はっ！ マズい！ うっかり眠って・・・」
くだん「人魚は見つからず終いか」
金丸ミチオ「どうしよう・・・」
浦上ナオキ「・・・ミチオくん・・・誰と話しているんですか？」
　　慌ててくだんをリュックに隠す。
金丸ミチオ「おお、おはよう！ 独り言だよ！」
浦上ナオキ「あれ？ あそこ、なんだか大勢でやってきましたよ」

〇山中の川
　　池の周囲には、撮影スタッフや町の住人達が集まっていた。
　　中には、『雄馬にようこそ！ 池の水、抜きまSHOW！』の大弾幕を掲げた人もいる。
スタッフ「では、撮影に参加していただける地元の方は、こちらへどうぞ！」
南雲チハル「雄馬町出身。南雲チハル、17歳。 ついに全国デビューね」
南雲チハル「行く末はモデルか、それとも女優か・・・」
スタッフ「これから、池の水を抜いていきます！」

〇山中の川
金丸ミチオ「マズい。撮影スタッフと参加者たちだ」
浦上ナオキ「あんなにたくさん。 みんな、TVに出たいんですねぇ」
金丸ミチオ「俺たちも、撮影に参加するしかないか・・・」

〇山中の川
　　二人は、水が抜かれて沼のようになった池に入り、網で探った。
金丸ミチオ「・・・人魚が誰かに見つかるようなことがあったら、打合せ通りにね」
浦上ナオキ「・・・了解ですよ。ミチオくん」
　　そこに撮影スタッフがやってきて、ナオキにカメラを向けた。
スタッフ「地元の中学生かい？ 池の底から、どんなものが見つかると思う？」
浦上ナオキ「はっ、はい！ 僕は人魚を見つけられるといいなぁと思っています！」
スタッフ「人魚？」
金丸ミチオ「あ～！ 人形！ 人形だよな！」
浦上ナオキ「ああ、そうです！ 人形！ 古いおもちゃが出てきたらなぁ・・・」

〇山中の川
南雲チハル「あ～もう。汚いなぁ！ カメラは向こうに行っちゃうし・・・」
南雲チハル「こんなにかわいい女子高生が泥の中にいるんだから、密着取材しなさいよね・・・」
　　顔をしかめながら網で泥をさらうチハル。
　　すると、網が何か大きなものに引っかかった。
？？？「ボォ～ッ！ ボォ～ッ！」
南雲チハル「!?」

〇山中の川
南雲チハル「きゃあぁぁっ！ 何なのよ、これ！」
金丸ミチオ「ナオキ！ 今の声って・・・」
浦上ナオキ「人魚!?」
金丸ミチオ「マズい！」

〇山中の川
　　泥に足を取られながらチハルに駆け寄るミチオとナオキ。
　　そこにいたのは、美しいイメージとはかけ離れた、醜い人面魚だった。
人魚「ボォ～！」
金丸ミチオ「!? こいつが人魚・・・想像してたのと違う・・・」
南雲チハル「こいつ何!? キモすぎっ！」
浦上ナオキ「わぁ～！ 人魚です！ 美しいっ！ 感激です！」
スタッフの声「ん!? 何か見つかったのかい!?」
金丸ミチオ「ナオキ！ 大変だ、スタッフの人が来る！」
浦上ナオキ「オッケー！ 僕が時間を稼ぎます！」

〇山中の川
浦上ナオキ「スタッフさん、こっちです！ こっちに変なものが！」
スタッフ「ん？ 何がいるんだい？」
　　ナオキは必死にスタッフを引っ張る。
浦上ナオキ「とにかく・・・とにかくすごいものが！ あっと驚く、すごいものが！」
スタッフ「・・・君、からかってる？」

〇山中の川
　　その隙に、ミチオは人魚を捕まえて持ち上げようとする。
金丸ミチオ「くっ・・・暴れるなよっ！ 助けたいんだっ！」
人魚「ボォー！」
南雲チハル「カメラは何してるのよ！ ヤバい魚がいるんだって！ こっちこっち！」

〇山中の川
スタッフ「あっちの方が面白そうだ」
浦上ナオキ「あっ！ ちょっと待ってぇ！」

〇山中の川
スタッフ「スクープかい!?」
金丸ミチオ「・・・あ～、もう仕方ない！ ナオキ！ プランBで！」
浦上ナオキ「・・・承知です！」
浦上ナオキ「すみませんね！ すみませんね！」
スタッフ「な!? やめないか、君！」
南雲チハル「ちょっと、あんた!? 私が映るチャンスなのに・・・」
金丸ミチオ「ごめん！ ちょっとどいて！」
　　ミチオに突き飛ばされ、チハルは顔面から沼に倒れこんだ。
南雲チハル「!?」
　　ナオキはすかさず、スタッフにタックルをかます。
スタッフ「何する!? やめろ！」
浦上ナオキ「やるからには・・・徹底的に！ さぁ、ミチオくん、お願いしますぅ！」
金丸ミチオ「ありがとう！」
　　ミチオは人魚をリュックに入れる。
くだん「おい！ この中に入れるのか！」
人魚「ボォ～！ ボォ～！」
くだん「くせぇ！」

〇山中の川
　　ミチオはリュックを背負うと、池から出て、自転車で走り出す・・・。
　　それを見たナオキは、小さくガッツポーズをした。
浦上ナオキ「やりましたね・・・！ ミチオくん」
スタッフ「なんなんだ!? 君たちは番組を台無しにする気か！」