君にピアス(脚本)
〇海辺
石川 はじめ「──フゥ」
明智 光「学校こないでずーっとここにいたの?」
石川 はじめ「砂に”大”って100回書いてみた」
明智 光「ふふ、ヘンなの」
石川 はじめ「何もできないから、死のうかなって 100回なぞったら、やめようと思えたよ」
明智 光「・・・はじめ、泣いていいんだよ」
石川 はじめ「なみだの代わりに砂を触るのかもね。 泣けないほど、弱いんだ」
明智 光「私、中学卒業したら髪染める 変わるんだ」
石川 はじめ「ぼくも強くなりたいな。自然に笑えるようになれたら、泣ける気がする」
明智 光「これ、着けてみて」
石川 はじめ「このピアスどうしたの」
明智 光「染めたら着けようと思ってたけど、貸す! 外しても自然に泣いて笑えるようになったら、返してよ」
石川 はじめ「──笑え、てる?」
明智 光「・・・泣けそう」
〇体育館の舞台
明智 光(はじめ、来てない。また体調が──?)
木下 信千代「ごぎがががぎご」
明智 光(すっごい変な人が退場していった)
〇保健室
石川 はじめ「ゴホッゴホッ はあ、はあ」
明智 光「具合、悪いの?」
石川 はじめ「来てくれたんだ クラスに馴染めそう?」
明智 光「私の心配はいいよ はじめこそ、入学式からこんな──」
石川 はじめ「中学みたいに、また学校来なくなると思ってる?」
石川 はじめ「さっきね、すごく変わった人に会ったんだ ああいう人がいるなら、学校も面白い気がしてきたよ」
明智 光「そ、そうなんだ、嬉しい・・・」
石川 はじめ「ありがと。ぼく、変われるかもしれない」
明智 光(何だろ、この気持ち 嬉しいはずなのに、はじめが知らない人になってしまいそうで、すごく──)
〇学校の廊下
明智 光(一週間経ったけど、はじめ、馴染めたかな・・・?)
明智 光「はじめ──」
木下 信千代「今から真剣な顔をして犬を棒で叩こうと思う。これは流石に泣くよね?」
石川 はじめ「すごく嫌だから泣く前に通報して君に涙は見せないよ」
木下 信千代「犬を犠牲にしてもだめなのか〜」
明智 光(──なんだか楽しそう 変わった人って、あの子?)
明智 光(全然、私以外の人とも仲良くやってるんだ)
明智 光(私にははじめが特別なのに、 はじめは私だけが特別じゃなくなってく。 きたないけど、嬉しいはずなのに、嫌だよ)
〇海岸線の道路
石川 はじめ「でね、顔に落書きしたら泣くと思ってるんだよ。おかしくって」
明智 光「そう」
石川 はじめ「どうかした? 最近、元気ないね」
明智 光「最近って、最近話してないよ」
石川 はじめ「下校時間合わないんだもん 学校で見かけた時とか、元気ないのかなって」
明智 光「木下さんだっけ、あの人とは関わらない方がいいんじゃない? 私は、嫌い」
石川 はじめ「学校の外ではあの人のこと忘れさせてよ・・・」
明智 光「ふーん。仲良くないんだ」
石川 はじめ「嫌われちゃってる。なぜか」
石川 はじめ「でも関わるかはぼくが決めるよ 折角だからあの子と仲良くなりたくて」
明智 光「楽しそうだね! 人気者らしいじゃん」
石川 はじめ「なに、怒ってんの・・・?」
明智 光「ごめん でも、もう帰るのとか、やめよ。それぞれ友達もできるし、彼女とかも」
石川 はじめ「どうして? 今までと一緒じゃだめなの?」
明智 光「私たちただの幼馴染だもん 私がいないとだめだと思ってたけどさ、」
石川 はじめ「ぼくは君のピアスのおかげで──」
明智 光「外せばいいよ、そんなもの」
〇田舎の学校
生徒「まさか教室から火が出るとは」
生徒「石川くん逃げ遅れた子を助けに行っちゃった 大丈夫かな・・・」
明智 光(はじめ──!!)
〇学校の廊下
石川 はじめ「何やってるの早く逃げなきゃ!!」
明智 光「危ないよ・・・」
石川 はじめ「さあ、手を取って」
石川 はじめ「あ、光 逃げて。速く!」
明智 光「わ、私も手伝う!」
石川 はじめ「いいの・・・?」
明智 光「嫌だよ! でも、仕方ないじゃん」
明智 光「はじめのこと、助けたいもん」
〇大きい病院の廊下
明智 光(身体弱いのに無理して、入院しちゃって──)
明智 光「ばかだなあ私」
明智 光(そんなはじめのお見舞いなんて。 酷いこと言っちゃったし喜ぶわけないけど、誕生日だし)
〇病室のベッド
石川 はじめ「久しぶり」
明智 光「起こした?」
石川 はじめ「大丈夫、もうすぐクラスの人たちが来てくれる時間だから」
明智 光「人付き合い、得意になったね」
石川 はじめ「ピアスのおかげ。あとは多分──」
明智 光「助けるくらい、大切な子のおかげだね」
石川 はじめ「大切・・・」
明智 光「それで、身体は?」
石川 はじめ「問題ないよ!」
石川 はじめ「母さんは自分のせいだなんて言いだすから。 寝てなんていられない・・・」
明智 光「そうだったね、そうだよ。 大したことなくて、本当によかった」
石川 はじめ「心配かけてばっかりで、ごめん── この前も、ぼくのために言ってくれてたんだよね」
明智 光「私こそ、ごめん! はじめが明るくなることは嬉しいのに、離れていっちゃいそうで──」
明智 光「──もうクラスの人たち来ちゃうね 退院したら、あの浜辺で待ってる」
石川 はじめ「あの! ぼくは変わるけど、ぼくらはずっと変わらないから──君のこと、大切だから!」
〇大きい病院の廊下
明智 光(プレゼント渡すの忘れてた)
木下 信千代「うおおおおお」
カラ──
〇病室のベッド
石川 はじめ「ふふっ食べきれない」
明智 光(ピアス、外してる── ああ。あの人の前では・・・)
〇海辺
明智 光「着けてきたんだね、ピアス」
石川 はじめ「ぼくの御守りだったから」
明智 光「”だった”ってことは・・・」
石川 はじめ「うん、ぼく、泣けたんだ」
石川 はじめ「だから、返すよ」
明智 光「もう、大丈夫になったんだね 泣けるように、笑えるように」
石川 はじめ「ありがとう」
明智 光「はじめが安心できる場所が、あの人の隣ってことだよね。私じゃ、なくて」
石川 はじめ「──っ」
明智 光「言わなくていいよ」
石川 はじめ「ぼくが泣かないでいられたのも、泣けるようになったのも、君のおかげだから だからほんとに」
石川 はじめ「ありがとう」
明智 光「また欲しいって言っても、ピアスあげないからね」
石川 はじめ「うん── 帰ろ」
明智 光「あ、私、まだ海見てようかな」
明智 光「ほら、課題で、調べなきゃ」
石川 はじめ「そう、なんだ」
石川 はじめ「ありがとう。今まで」
しゃがむ、ていうかうずくまる
砂をきゅっと握る
明智 光(投げつけようか)
振りかぶる
明智 光(言えなかった気持ちばかりだけど はじめの幸せは嬉しくて、うれしくて)
下ろした手から、こぼれる砂
明智 光(なみだも砂も、こぼれてく 波がくれば、なくなっちゃうんだ)
明智 光(私は忘れないよ。 投げられなかったこの一握りの砂を)
〇海岸線の道路
石川 はじめ「ぼくも忘れはしないよ 忘れられないよ」
木下さんが好きすぎる。こういう変人大好き。彼女の視点も読んでみたい……と思ったら本当にあったので読んできます!
何がきっかけで自分が変わるのかはわかりません。
でも自分で変わろうと思わない限り変わりませんよね。
私も自分を変えなきゃな、意志強く。変わりたいです。
切ない終わり方でしたが、これはこれでいいような気がしました。
変わっていく彼と、変わらない二人。
変わらないってことは「ずっと友達」ってことですもんね。