雄馬町の怪

平家星

#2 人面牛くだん②(脚本)

雄馬町の怪

平家星

今すぐ読む

雄馬町の怪
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇黒
  人間の言葉を話す、奇天烈な生物と出会い、家に連れ帰ったミチオ。
  さて、その後・・・。

〇L字キッチン
  くだんは冷蔵庫の扉を開けて、中を漁っていた。
金丸ミチオ(あ~、なんだこの状況・・・こいつ、何なんだ・・・?)
くだん「涼しい箱・・・冷蔵庫というのか。 ・・・これ、何だ?」
金丸ミチオ「魚肉ソーセージだよ」
くだん「ほう。この飲み物は?」
金丸ミチオ「それはコーヒー」
くだん「・・・ひどい味だ、いらん」
金丸ミチオ「投げるなよ!」
くだん「・・・む!?」
金丸ミチオ「・・・ん? 今度は何?」
くだん「こっちは、とてもオイシイ・・・」
金丸ミチオ「・・・豆乳だよ」
くだん「トウニュウ、気に入った。もう一本!」
  ミチオは携帯を取り出すと、豆乳に夢中になっているくだんに向けた。
くだん「ん? 何をしている?」
金丸ミチオ「写真。一枚撮らせてもらうよ」
  カシャ
金丸ミチオ「豆乳に夢中な謎の生物・・・。これはバズるぞ」
くだん「バズる? なんだそれは?」
金丸ミチオ「珍しい写真だから、みんなに見せれば人気者になれるってことだよ」
くだん「ほう。俺の姿を世間に広めようと?」
くだん「・・・昔にも、同じことをして、異常者扱いされた奴がいたな」
  くだんはそう言ってニヤリと笑う。
金丸ミチオ「え?」
くだん「写真を撮った後、俺が姿を消したもんだから、『嘘つき』と大勢の人間に攻め立てられた・・・」
金丸ミチオ「なんだよそれ・・・」
くだん「大衆は、そう簡単に俺の存在を認めないということだ」
くだん「頭がおかしいと思われてもいいなら、勝手にすればいい」
金丸ミチオ「・・・や、やめとくよ」
  くだんは冷蔵庫の中身をどんどん外に放り出し、さらに奥を探り始める。
金丸ミチオ「荒すなって!」

〇田舎道
  日が沈んでから、ミチオはくだんをカバンに入れて外に出た。
くだん「どこへ行く気だ?」
金丸ミチオ「どこへって、もといた所に返しに行くんだよ」
金丸ミチオ「お前みたいな不気味なやつとは、関わりあいたくない」
金丸ミチオ「・・・それに、うちはペット飼えないんだ」
くだん「飼う? ふざけるな! 敬え! もてなせ!」
金丸ミチオ「飯は食わせたんだから、もう充分だろ」
金丸ミチオ「・・・写真も投稿できないんじゃ、もうお前に用はないよ」
くだん「・・・俺の予言が気にならないのか? 放っておけば、必ず現実になるぞ」
金丸ミチオ「『この町から誰かが消える』って? 予言とか言われてもさ、現実感ないって」
くだん「・・・俺は今まで、時代を超えて何度も生まれ落ちてきた」
くだん「どの人間も、俺の不吉な予言を聞けば、それを回避しようと必死で走り回っていたぞ」
金丸ミチオ「そういうのはさ、信じる人に言ってよ」

〇洞窟の深部
金丸ミチオ「じゃあ、せいぜい頑張って・・・」
くだん「冷たいやつめ。・・・ん?」
くだん「見えるぞ。 誰かが消える瞬間が、断片的に・・・」
くだん「そこには、郵便ポストが・・・」
金丸ミチオ「気を引こうとしても無駄! 俺は行くよ」
  ミチオはくだんを残したまま、その場を後にした。

〇おしゃれなリビングダイニング
  帰宅後、ソファに寝転がってテレビを見ていると、リビングの電話が鳴った。
金丸ミチオ「はい、もしもし」
カナの母の声「もしもし、ミチオくん?」
金丸ミチオ「ああ、カナちゃんのお母さん」
カナの母の声「カナがね、家に帰ってなくて。 お宅にお邪魔してない?」
金丸ミチオ「いえ・・・。学校から帰るときには、会いましたけど・・・」
カナの母の声「いつもなら帰ってる時間だから、心配になって」
金丸ミチオ(まさか、そんなことは・・・)

〇田園風景
くだん「モタモタしやがって。 どうせ、来るだろうと思っていた」
金丸ミチオ「・・・ポストが見えたんだな? じゃあ、こっちだと思うんだけど・・・」
  くだんをカバンに入れて、あぜ道を走っていくミチオ。
  そのとき、視線の先に人影が見えた。
北条カナ「~♪」
  それは楽しそうに歩いているカナだった。
  ミチオはほっと胸をなでおろす。
金丸ミチオ「・・・カナちゃん」
  カナに大きく手を振る。
金丸ミチオ「カナちゃん!」
北条カナ「あっ! ししょ~!」
  カナが手を振り返した、そのときだった。
  ──彼女の背後に、巨大な人影が現れた。
金丸ミチオ「!?」

〇黒
  スーツを身を纏った巨大な人影。
  異常に長い手足に、奇妙な佇まい。
  その身長は3mを超えている。
  そして、のっぺらぼうのように顔がなかった。

〇田園風景
金丸ミチオ「な・・・なんなんだ・・・あれは」
???「・・・・・・」
金丸ミチオ「カ・・・カナちゃん・・・うしろ」
  恐怖に足がガクガクと震える。
  巨大な怪人の長い両腕が、背後からカナに迫った。
金丸ミチオ「に・・・にげて・・・」
北条カナ「?」
???「・・・・・・」
  次の瞬間──怪人の腕がカナを抱きしめ、彼女の小さな体を持ち上げた。
北条カナ「きゃぁぁ!」
  怪人はカナを担いただまま走り出す。
北条カナ「ししょう! 助けてぇ!」
金丸ミチオ「待って!」

〇森の中
  カナを担いだ怪人は、薄暗い森の中に消えていった。
  ミチオが駆けてきたときには既に、怪人の気配も、カナの気配もなかった。
金丸ミチオ「おい! カナちゃん! どこにいる!」
  森は静けさに包まれている。
金丸ミチオ「カナちゃん・・・」
  足元に何かが転がっていることに気が付いた。
金丸ミチオ「これ・・・」
  それは、カナが作ったであろう、つたないマスコットの人形だった。
  ミチオを模していて、背中には『ししょう』と縫ってある。

〇田園風景
北条カナ「・・・あのね、もうすぐ完成しそうなんだけど、実は渡したいものが・・・」

〇森の中
金丸ミチオ「・・・俺に、これを渡そうとして・・・」
くだん「この町から、一人消えたな。 何者なんだ、あいつは」
金丸ミチオ「・・・予言を信じて、すぐに探しに出ていれば、こんなことには・・・」
金丸ミチオ「俺だけがカナちゃんを守ってやれたはずなのに・・・」
くだん「なぁ、人間よ。 感傷に浸ってるとこ悪いが・・・」
金丸ミチオ「・・・・・・」
くだん「俺がこの世に生まれてきたんだ。 これは、始まりに過ぎないぜ」

次のエピソード:#3 連れ去られた少女

成分キーワード

ページTOPへ