読切(脚本)
〇化学研究室
私「もう!!またこんなに部屋散らかして!!先生に怒られるよ」
山之内和也「ああ、君か。すまない。片付けておいてくれないか?今手が離せない」
山之内和也「もうすぐこの数式が解けるきっかけが掴めるかもしれないんだ」
私「全く・・・。ほんと数学バカなんだから」
私「それで?何やってるのよ」
山之内和也「ヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題を解いてるんだ。さすがに難しいな」
私「ミレニアム懸賞問題?できるわけないじゃない。100万ドルの懸賞金がかけられてる未解決問題でしょ」
山之内和也「何かが見えそうなんだ」
私「何時間くらいやってるの?」
山之内和也「今何時?」
私「18時よ」
山之内和也「そうか・・・。12時間か」
私「朝の6時からやってるの!?」
山之内和也「ああ」
私「どんだけ数学好きなのよ」
山之内和也「はぁ、ダメだ。集中力が続かない」
私「珈琲入れようか?ちょっと休憩したら?」
山之内和也「ああ、頼むよ」
彼は山之内和也。私と同じ大学の同じゼミに所属するイケメン。
・・・だが生粋の数学バカだ。
彼とは高校時代も同じクラスだった。私は彼に一目惚れし、必死に数学を勉強して彼と同じ学部に通っている。
私「はい、珈琲」
山之内和也「ああ、ありがとう」
研究室の中で二人で珈琲を飲む。いつもの光景だ。
私「あーあ、オシャレなカフェで飲めてたら最高なのにな。なんで研究室なのよ」
山之内和也「いいじゃないか。ここが落ち着く」
私「あんたはね。私は落ち着かないわよ」
山之内和也「ちょっと小腹が空いてきな」
私「昼ごはんは?」
山之内和也「問題を解いていたら食べるのをすっかり忘れていたよ」
私「ほんと数学バカね。どうせそんな事だろうと思って、牛丼買ってきたわよ」
山之内和也「君は気が利くね」
私「あっ、奢らないからね。お金はちゃんと払いなさいよ?」
山之内和也「ああ、わかってる」
私「食べたらまた続きやるの?」
山之内和也「ああ。どうせマンションで一人暮らしだからね。遅くなっても誰も心配しないさ」
私「ちゃんと規則正しい生活しないと体壊しても知らないわよ」
山之内和也「わかってる」
私「全然わかってないわよ」
私「・・・あんたが倒れたら心配しちゃうでしょ」
山之内和也「ん?今なんて?」
私「べ、別に。なんでもない」
山之内和也「ありがとう」
私「ちょっと!!聞こえてんじゃない!!何聞き返してんのよ!!」
山之内和也「・・・君は僕にとって素数みたいな存在だよ」
私「は?素数?いきなり何言ってんのよ。また数学の話して」
数学にしか興味のない彼が私に言ったその言葉は、どういう意味なのか分からず、私はぽかんとしていた。
山之内和也「素数とは、1とその数自身でしか割り切れない数字の事だ。例えば7とか11とか13とか」
山之内和也「素数には規則性がなく、多くの学者達も規則性がないかと研究を重ねてきたが、結局今だに解明されていない数学の謎なんだよ」
私「謎?あたしが謎だって言いたいの?」
山之内和也「君は何を考えているのか分からないからね」
山之内和也「素数はRSA暗号に使われている。それは知っているかい?」
私「RSA暗号?何それ」
山之内和也「素数と素数の積で作られた主に金融機関で用いられる公開鍵の暗号さ」
私「でもそれってブルートフォース攻撃を使ったらいつか破れたりしないの?」
山之内和也「はははっ。ブルートフォース攻撃なんてしていれば一生終わらないさ。どんな優秀なスーパーコンピューターを使ってもね」
山之内和也「RSA暗号ってのは、非常によくできた優秀な暗号なんだよ」
私「で、私が素数ってどういう意味なの?」
山之内和也「つまり君が特別な存在って意味さ」
私「特別な存在?」
山之内和也「比喩的な言い回しだよ。つまり僕は君が好きって事さ」
私「・・・えっ?」
山之内和也「僕が数学と同じくらい夢中になってるのは、君なのさ」
山之内和也「どうしても数学と君の事が頭から離れない。僕は君に夢中なんだ。なぜだろうね。この気持ちはどんな公式を使っても解けない」
山之内和也「恋愛公式ってのがあるなら知りたいね」
私「れんあ・・・い?こうしき・・・?」
山之内和也「つまり・・・」
山之内和也「君に僕の素数な彼女になって欲しい」
私「ぷっ・・・あはは。何それ。告白?」
山之内和也「一応そのつもりさ」
山之内和也「かの天才物理学者、アインシュタインが娘に残した最後の手紙は知ってるかい?」
私「知らないわ」
山之内和也「この宇宙的な力は「愛」だ。愛は光だ。愛は引力だ。愛は力だ。愛こそが存在する最大の力であるという結論に至った、と」
山之内和也「私はお前を愛している。お前のお陰で私が究極の答えに到達した。そう書いたんだ」
山之内和也「僕は君の愛を感じた。そして僕は君への愛を感じた」
私「おかしな告白。告白にアインシュタインの事出してきたり、ほんと理系バカなんだから」
山之内和也「君は僕にとって素数みたいな存在だよ。数学に例えたロマンチックな告白だと思わない?」
私「全く」
山之内和也「んー、そうか。告白するのって難しいな」
数学バカで不器用な彼が、彼なりに一生懸命言葉を考えて言ってくれたのだと思うと
なんだか彼がとても可愛く見えた。
私「いいよ。その気持ち受け取ってあげる」
山之内和也「ありがとう。大好きだ」
私「・・・なっ!?その顔で直球な台詞はズルい。ちょっとドキッとしたじゃない」
山之内和也「顔赤いよ。熱でもあるの?」
私「な、ないわよ!!」
彼は私におでこをピタリとくっつけて熱を測った後──
そっと私にキスをした。
ロマンチックでもなんでもないけれど、“数学バカ”な彼なりの必死な愛の言葉だったのかなぁ、と。(彼的にはロマンチックだったのかも知れませんね……)
そんな彼を理解しているヒロインだからこその、少しバカにしたようなやり取りがとても愛しく感じました。
付き合っても空気感の変わらない素敵な二人になるだろうなぁ。お幸せに(^^)
数学はほぼ理解できませんでしたが(笑)、お互いのの相手を思う気持ちは伝わりました。ひたすら数学の知識を話し続けながら、一番大切なことはストレートに…この告白にはぐっときますね。
和也は思考回路から何から数学漬けの生粋の数学バカですね。そのためか、逆に世間一般の恋愛駆け引きやテクニックもなく、直球で来るので、かえってイイって思ってしまいました。こんな恋愛表現も素敵ですね。