夏を見送る帰り道

千才森は準備中

くまったくま~(脚本)

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〇住宅地の坂道
  一緒に行こうって言うから
  てっきり電車だと思ってたけど、
  ネリュは自転車で登校してたらしい。
ネリュ「美容と健康のため~」
  理由を聞いたらそんな答えが返ってきた。
  ネリュの押す自転車が、時折キィキィと音を立てる。
みぃ「後ろ乗っけて?」
ネリュ「逆走したいの?」
  隣町には坂を登らなければならない。
  近くて遠い隣町。

〇住宅地の坂道
  ありがとうね~
  こぢんまりとしたお店を出た時には、
  もう空の色が変わっていた。
ネリュ「みぃって手芸とかやるんだ?」
  自転車のカゴに入れた
  ふわふわもこもこ の毛玉や生地を
  ポフポフ叩きながらネリュが聞いてきた。
みぃ「ううん。 ほとんどやったことないよ」
ネリュ「一念発起?」
みぃ「う~ん、近いかな」
みぃ「この間の学校祭で手芸部の前を通ったんだ。 部室の前に作品が展示してあったんだけど、」
みぃ「その中に『熊っ拓真』って ぬいぐるみがあったの」
ネリュ「え? ゴメン、名前なに?」
みぃ「くまったくま」
ネリュ「・・・・・・困ってたの?」
みぃ「うん」

〇学校の廊下
  高さ40センチはありそうな
  大きな熊のぬいぐるみが、
  丸めた拳をおとがいに当てて
  小首を傾げて困っていたのだ。
  その愛らしい表情に、
  私の心も困ってしまった。
  つぶらなプラスチックの瞳は
  困ってますよ~ と私に訴えかけ、
  答えを出せなかった私は
  30分くらいその場にいたと思う。
  作者は『拓真』になっていた。
  男子だろうか?
  でも、創作者の名前は自由に決められるみたいだから名前から性別はわからない。
  隣に展示されてた作者の名前は
  『ゴブリン』だったし。
  もはや人間かどうかも怪しい・・・。

〇住宅地の坂道
みぃ「それに惹かれて手芸部に入りたいなって」
ネリュ「へー、いいじゃん。 入っちゃえ入っちゃえ」
ネリュ「あれ? 手芸部って材料自費なの?」
みぃ「そうじゃないんだけど・・・ あ、まだ知らないんだけど、入る前に練習したいなって思って」
ネリュ「入る前に練習するの? 普通入ってから練習する物なんじゃないの? そうゆうのって」
みぃ「えー、どうだろ」
  そうゆう人もいると思うけど、私は恐がりなのだ。
  恥をかくのが大の苦手なのだ。
  笑われるのが怖いのだ。
  トラウマだって消えてはいないのだ。
  ちょっとナーバスになってしまった私の頭をポンと叩くネリュ。
ネリュ「まー、好きにしたらいいと思うよ? 時間はいっぱいあるんだしさ」
  そう、時間はいっぱいある。
  焦る必要なんて無い。
ネリュ「あ、ちょっと待って」
  タタタっと道路の反対側に走り、
  コンビニに入っていったネリュは
  手に小さな紙の容器を手にして戻ってきた。
ネリュ「じゃーん!」
  効果音と共に差し出された手には、
  すでに上蓋が剥がされているカップアイス。
みぃ「もう夏は終わりそうだよ?」
ネリュ「だから、じゃん?」
  そういうものなのかな?
  私の不審そうな目は、物欲しそうな目に見えてたみたい。
  
  小さな木のさじですくい取られたアイスが目の前に差し出された。
ネリュ「あ~ん」
みぃ「いらないって」
  お腹冷えちゃうから。
  それに、恥ずかしいよ。
  さじはネリュの口が咥えていった。

次のエピソード:去りゆく夏の背を見送って

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