夏を見送る帰り道

千才森は準備中

去りゆく夏の背を見送って(脚本)

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〇住宅地の坂道
みぃ「それこそ、ネリュが手芸をするなんて初耳なんだけど・・・」
ネリュ「へ? 私がするわけないじゃん」
みぃ「手芸しないのに手芸用品店に何の用があったの?」
  手芸店の場所を知ってるんだから、
  行ったことがあるんだと思ったんだけど。
ネリュ「あー・・・・・・。 去年の秋、手編みのマフラーが欲しいって言われちゃってさ」
  彼氏の話だ
ネリュ「私編めるわけないじゃん?」
ネリュ「で、後輩に編み物が得意な子がいるから、 その子に事情を話したら、」
ネリュ「”材料さえ揃えてもらえばマフラーだろうが手袋だろうが編みますよ~” って言われて」
  それで材料を買いに行ったらしい。
みぃ「・・・それでよかったの? 彼はネリュの手編みのマフラーが欲しかったんでしょ?」
ネリュ「マフラーなのか投網なのかわからないような物より、ちゃんと首に巻けるマフラーの方が嬉しいでしょ?」
  投網って。
ネリュ「男なんてそんなの大して気にしないって」
ネリュ「『女の子の手編み』ってだけでありがたがる生き物だし。 それの出来が良ければ誰が編んだかなんて二の次だから」
ネリュ「ま、付き合った事のないお子様には まだわかんないと思うけどね~」
  にやにやと頭をつついてくる指を払う。
みぃ「つっつかないでよ~。 だって、彼氏が自分以外の手編みのマフラーしてたら、嫌な気分になるものじゃないの?」
  普通はそうだと思う。
  それぐらいはお子様の私にだってわかるし。
ネリュ「え? 私は気にならないよ」
ネリュ「そりゃ私の知らない所で、リョータがみぃの手編みのマフラーをしてたら海に叩き落とすけど、」
ネリュ「”自分の彼氏”が”自分の彼女”の手編みのマフラーをしてても、私はなんにも思わないかな。 実際平気だったし」
みぃ「うー・・・・・・ん?」
  この難問が解けないのは、
  私がまだお子様だからなのかな?
  うんうん悩みながら歩いていた私は、
  ネリュの変化に気が付くのが遅くなった。
ネリュ「あう」
みぃ「どうしたの!?」
  ネリュは眉根を寄せて、
  それこそ漢字の難問を前にした
  留年生みたいな表情を浮かべていた。
ネリュ「ごめん、みぃ。 手伝って?」
  正直、
  こうなるような気はしてたんだ。

〇空
  手を出そうとして・・・
  足を止めるのが少し遅かったみたい。
  一歩、踏み出しすぎた私は
  ビルの間から差し込んでくる真っ赤な光を
  正面から浴びてしまう。
  眩しいぐらい、
  暖かな色。
  あんなにも真っ赤なら
  どれほど暖かいのだろう。
  きっとあの太陽が暑い夏を持って行ってしまったんだ。
  だからあんなにも赤い。
  そして、取り残された街は
  どんどん涼しくなってゆく。
  夕日の前を横切っていく赤トンボを追って
  視線を夏の後ろ姿から外した。

〇住宅地の坂道
みぃ「ほら」
  今度こそ手を出して、
  頭を押さえているネリュからカップを受け取る。
  カップを持った瞬間、
  背筋を駆け上がる緊張のような悪寒。
  カップの中身は3分の1ぐらい残っていた。
ネリュ「夏は終わっちゃったんだね」
  夏が一番好き!
  ネリュの口癖。
  夕日に目を細めて夏の名残を探すネリュは、ちょっと綺麗だった。
  女心と秋の空なんて言われるけど、
  私の心はあんなに真っ赤に染まれる事はあるのかな。
  あんなに暖かく色づいたりするのかな。
  夕日に黄昏れているネリュは、
  染まり方を知っている?
  聞いたら教えてくれるのかな?
  私だって女なんだし、
  明日にはこの心も
  ころころと変わっていると思う。
  それでも暖かい夕日に見とれて、
  ネリュの大人っぽい横顔にちょっとだけ見とれて・・・
  小さなさじを口へと運んだ。
  キーーーーーーーーーン。
  なに・・・・・・これ・・・・・・
  慌ててカップの側面をにらみ付ける。

〇空
  『迫り来る真夏に打ち勝て!
  業界初マイナス2度の衝撃 
  
   氷天下Ⅱ 』
  ・・・・・・・・・・・・。
「ネリュの・・・ばか」
「ん? みぃ、なにか言った?」
「ネリュの・・・」
「ばかーーーーーーー!!!!」
  キーーーーーーーーーン

〇空
  ・
  ・
  ・
  _ fin〆

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