改造途中人間チュート

栗山勝行

第15話 『学園祭』(脚本)

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〇学校の屋上
  学園祭の季節が訪れた。
  去年の宙斗は、クラスの出し物にただ惰性で参加していただけだった。
  だが、今年は違う。
  探偵部の活動があったからだ。
班馬宙斗「あの行列を見た時は焦ったよ・・・」
  探偵部の出し物は『なんでも相談所』だった。
  「一人5分、誰のどんな相談にも乗る」
斐阿吉良「あれじゃ、アイドルの握手会だね」
  行列の大半は、電奈目当ての客だった。
  質問内容のほとんどは、電奈の個人情報についてだ。
  好物は何なのか、何をあげたら喜ぶか、好みのタイプは?
班馬宙斗「いつもだったら恐れ多くて聞けないことも、今日はブースがあるからな」
  お客が悩み事を話しやすくなるように、それぞれのブースは、顔が見えないようになっていた。
  しかも、ご丁寧にスマホのアプリを使った音声変換装置まで完備している。
  当然ながら生徒の大半は、電奈のブースに並んでいた。
班馬宙斗「予想してないわけじゃなかったけど、ここまで凄いとは思わなかったよ」
班馬宙斗「ほら、先輩は人気あるけど、どこか近寄りがたい雰囲気があるっていうか」
班馬宙斗(僕達の前で涙を見せて以来、表情が柔らかくなった気がしていた)
班馬宙斗(そう思っていたのは、自分だけじゃなかったんだな)
班馬宙斗(・・・嬉しいような、寂しいような)
斐阿吉良「意外と三輪さんの列も人気あったね」
班馬宙斗「まあ、あの子に関しては、完全に専門分野だからね・・・」
  電奈の次に人気なのは燈和のブースだった。
  相談内容は主に霊障について。
  いわゆるオカルト関係だ。
斐阿吉良「それだけじゃなくて、けっこう男子の隠れファンも多いらしいよ」
班馬宙斗「そうなんだ・・・」
班馬宙斗(でも、一番意外だったのは・・・)
斐阿吉良「山田くんも凄い人だったんだね」
  燈和の次に人気だったのは、山田だった。
  堂明寺の御曹司であることがバレた訳ではない。
  山田への相談内容は、主に勉強全般。
  彼は全国模試で一位常連の秀才だった。
班馬宙斗「ああ見えて、相当のハイスペック男子なんだよな、あいつ・・・」
  電奈が側にいることで霞んではいるが、頭脳明晰、運動神経抜群の完璧人間だ。
班馬宙斗(生粋の変態という最大の欠点さえなければ、違った人生もあっただろう)
班馬宙斗(「そんな人生クソくらえだ」と本人は言うだろうけど・・・)
班馬宙斗「結局、探偵部一の凡人は僕ってことか」
班馬宙斗(こう見えて改造途中人間なんだけど)
斐阿吉良「・・・ボクを忘れてるよ」
斐阿吉良「まあ、転入生のボクに相談する人なんて、いないだろうとは思っていたけどね」
  宙斗と阿吉良のブースに並んだ人間は、ほとんどいなかった。
  あまりに暇だった2人は、自由時間を与えられ、それさえも持て余して、今は屋上で佇んでいた。
班馬宙斗「探偵部が活気づくような依頼が舞い込んでくると思ってたんだけどなぁ・・・」
斐阿吉良「最近は、探偵部らしいこと何もやってないって言ってたよね?」
班馬宙斗「ごめん・・・。せっかく入部してもらったのに、「何やってんだこの部活」って感じだよね?」
  2学期に入ってから、探偵部員達は『ZOD』という単語を口に出さないようになっていた。
  事情を知らない阿吉良に気を遣ったせいでもある。
  真城や為定に「もう関わらない方がいい」と言われたことも大きい。
  だが、一番の理由はきっと「無力感」だ。
班馬宙斗「実は、夏休みに皆が自信を失くすような出来事があってね──」
  目の前で、部員一人の腕が飛ばされた恐怖。その時に何もできなかった自分の無力さ。
  合宿で成長したと思っていた自分達は、思ってた以上に、無知で幼く、浅はかだった。
班馬宙斗「だから、皆が自信を取り戻すには、何かをしなきゃ始まらないって思ったんだ」
班馬宙斗「それで、今回の企画を提案したんだけど、僕に来た相談内容は──」
班馬宙斗「電奈先輩の列に並ぶのを諦めた子の「電奈先輩ってどんな人ですか?」っていう質問」
班馬宙斗「あとは、どんな出し物か見に来ただけのひやかしが数件だよ」
班馬宙斗「企画倒れって言われても、しょうがない」
斐阿吉良「まだ、わかんないよ」
斐阿吉良「皆のところには、既に依頼が殺到してるかもしれないし──」
斐阿吉良「宙斗くんのところにだって、これから依頼が舞い込むかもしれないだろ?」
班馬宙斗「そうかな・・・?」
斐阿吉良「何もなかったとしても、ボクはやってよかったと思うよ、この企画」
班馬宙斗「本当に?」
斐阿吉良「うん。宙斗くんのブースよりも相談者が少ないボクが言うんだから、まちがいないって」
班馬宙斗「説得力ないなあ・・・」
斐阿吉良「本当だって。ボクは楽しんでるよ」
斐阿吉良「こういう学生っぽいこととは、ずっと無縁だったから探偵部に入ってからの毎日が楽しくて仕方ないんだ」
班馬宙斗「そっか。それなら、誘った甲斐があったね」
斐阿吉良「そんなことより、そろそろ戻らないと、他の皆が休憩とれないんじゃない?」
班馬宙斗「そうだった!」
斐阿吉良「あ! ごめん、電話だ。先に戻ってて」
班馬宙斗「わかった!」
  宙斗の階段を降りる足音を確認してから、阿吉良はスマホに耳を当てた。
斐阿吉良「・・・はい。見つけました。 ・・・はい・・・必ず」
  電話を切ると同時に、阿吉良は大きく息を吸った。
斐阿吉良「宙斗くん、嘘じゃないよ」
斐阿吉良「探偵部に入ってからの毎日は、ボクにとってかげがえのない、宝物だ」

〇教室
来明電奈「宙斗くん、お帰り」
班馬宙斗「すみません。ゆっくりして来ちゃいました」
来明電奈「阿吉良くんは?」
班馬宙斗「ああ、電話がかかってきたみたいで。 すぐに戻ると思います」
来明電奈「では、三輪くんと山田に休憩を告げて、自分のブースに戻ってくれ」
班馬宙斗「先輩は?」
来明電奈「2人が戻ってきたら、折を見てな」

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