EP4 ヘルメスの過去(脚本)
〇中世の街並み
城塞都市ウルプス
ソフィア「うう・・・・・・」
ヘルメス「ん? ソフィではないか、奇遇だな」
ソフィア「ヘルメスぅ・・・・・・」
ヘルメス「ど、どうした? えらく疲れているようだが・・・・・・」
ソフィア「んもー・・・・・・ 事件が解決しなくて、困ってたのぉ・・・・・・」
ヘルメス「そりゃご苦労な事だ・・・・・・」
ヘルメス「ギルドに依頼はなかったと思うが・・・・・・」
ソフィア「経費削減だってさ」
ソフィア「興信ギルドへの依頼料、情報提供、成功報酬・・・・・・ 馬鹿んなんないのよ・・・・・・」
ヘルメス「成程・・・・・・」
ヘルメス「どうでも良いが、さっきから何を飲んでいるのだ?」
ソフィア「ああ、コレ?」
ソフィア「新発売のポーション。クリティカル・ソーダ味」
ヘルメス「そんなのがあるのか・・・・・・」
ソフィア「だって普通のポーションって不味いじゃん?」
ヘルメス「儂は結構好きなんだが・・・・・・」
ソフィア「美味しくないとHPだって回復しないわよ〜・・・・・・」
ヘルメス「・・・・・・」
ヘルメス「この近くに儂のアトリエがある」
ヘルメス「休憩がてら、ちょっと寄っていかんか?」
ソフィア「へ?」
ヘルメス「儂の本業は錬金術師だぞ?」
ヘルメス「ポーションどころか、エリクサーでも作れる」
ソフィア「え? マジ?」
ヘルメス「まぢ」
ソフィア「んじゃぁ〜、甘えちゃおっかなぁ・・・・・・」
ソフィア「てか珍しいわね。アンタがそんな事言い出すの」
ヘルメス「そうか?」
ヘルメス「まあ先日は身内が迷惑を掛けてしまったからな」
ヘルメス「その謝罪も兼ねて、というか」
ソフィア「ああ、あの妹さん・・・・・・」
ソフィア「別にアンタが悪いワケじゃないでしょ」
ヘルメス「・・・・・・嫌なら別に構わん」
ソフィア(もしかして、結構気にしてる?)
ソフィア「・・・・・・寄ってく」
〇屋敷の書斎
ヘルメス「入ってくれ」
ソフィア「わ。凄いトコ住んでるのね・・・・・・」
ソフィア「アンタがおカネに困ってる理由がわかったわ」
ヘルメス「誤解するなよ。部屋を借りたら、本が付いてきたのだ」
ヘルメス「だから決して本とか書籍とか読み物とか文書を買いすぎている訳では・・・・・・」
ソフィア「私の推理によると、他の部屋はもっとスゴい事になっているわね」
ヘルメス「いやいや。本という物質はな、一度書架から出ると、元には戻りにくいという性質があってだな・・・・・・」
ソフィア「・・・・・・」
ヘルメス「適当に寛いでおいてくれ」
ヘルメス「エリクサーだけじゃ何だ。茶菓子でも用意しよう」
ソフィア「ふふっ・・・・・・」
〇屋敷の書斎
ソフィア「ぷはーっ! 美味しかったぁ!!」
ソフィア「すっかり回復しちゃった」
ヘルメス「それは何より」
ヘルメス「これで迷惑の全てを精算したとは思えんが、取り敢えず・・・・・・」
ソフィア「もう一回言うけど、妹さんの事はアンタのせいじゃないって」
ヘルメス「しかしな・・・・・・」
ソフィア「・・・・・・」
ソフィア「ねぇ、聞いて良い?」
ヘルメス「イリスの事か?」
ソフィア「それも含めて、アンタの事も」
ヘルメス「・・・・・・」
ソフィア「言いたくないなら無理に、とは言わないけど・・・・・・」
ヘルメス「・・・・・・」
ヘルメス「いや・・・・・・」
ヘルメス「良いだろう。聞いてくれ」
ヘルメス「いや。聞いてほしい」
ソフィア「うん」
ヘルメス「儂がホムンクルスというのは話したか?」
ソフィア「直接は聞いてない」
ソフィア「でも人間じゃあないんだろうなー、とは思ってる」
ヘルメス「随分昔の話だ・・・・・・」
ヘルメス「勇者によって魔王が倒された後・・・・・・」
ヘルメス「儂はある錬金術師によって造られた・・・・・・」
〇ピラミッド
xxx年前
ヴァン「はぁ・・・・・・」
街人「お疲れ様」
街人「お疲れ〜」
ヴァン「・・・・・・」
ヴァン(やれやれ・・・・・・)
ヴァン(魔王が倒されて平和になったっていうのに・・・・・・)
ヴァン(毎日毎日・・・・・・ 仕事仕事・・・・・・)
ヴァン(みんな仕事に忙殺されてる・・・・・・)
ヴァン(それはそれで良い事なのかもしれないが、平和って何だろうな?)
街人「ああ、ヴァンじゃないか・・・・・・」
街人「またこの間のポーション頼むよ」
ヴァン「あいよ」
街人「ねぇ、ヴァン。この間のミイラ取りの犯人なんだけどさ・・・・・・」
ヴァン「調べとく」
ヴァン「ふぅ・・・・・・」
〇古書店
ヴァン「ただいま」
ヘルメス「おかえりなさい。ご主人」
ヴァン「どうだい? イリスの調子は?」
ヘルメス「うむ。滞りない」
ヴァン「良い子にしていたかい? イリス?」
イリス「うん。お兄ちゃんにも、いっぱいイイコ、イイコしてもらった」
ヴァン「そうか・・・・・・」
ヴァン「ヘルメス。イリスはお前と違って学習型のホムンクルスだ」
ヴァン「教えれば教えただけ成長する」
ヘルメス「理解している」
ヴァン「或る程度の知能に達するまでは大変だと思うが、頼んだぞ」
ヘルメス「わかっている。馬鹿な子ほど何とやら、だ」
イリス「イリス、ばかじゃないもん!」
ヘルメス「わかっておるよ」
ヴァン「ふふふ・・・・・・」
〇古書店
ヘルメス「やっと眠ってくれた」
ヴァン「そうか・・・・・・ 本当にすまないな」
ヴァン「ヘルメスには苦労をかけてばかりだ」
ヘルメス「いや。イリスが仕事をこなせるようになれば、儂もご主人を手伝える」
ヴァン「うん・・・・・・ そうだな・・・・・・」
ヘルメス「・・・・・・」
ヘルメス「ご主人、疲れているな」
ヴァン「そうだな。このところ引っ切り無しに仕事が舞い込んでくる」
ヴァン「浮気の調査、ポーションの作成、迷い猫探し、ミイラ取り犯人の特定・・・・・・」
ヘルメス「錬金術師というより便利屋だ」
ヴァン「そうだな」
ヴァン「しかし勇者が魔王を倒し、世の中は平和になった」
ヴァン「戦いに必要のなくなった業種が、生活の中に溶け込んだだけさ」
ヴァン「平時に於ける錬金術師の役割は便利屋なのさ」
ヘルメス「それにしてもスパイみたいな事までしなくても・・・・・・」
ヴァン「何かと有用なスキルだからな」
ヴァン「素材探しで鍛えた忍耐と観察眼・・・・・・」
ヴァン「調合に必要な幅広い知識と閃き・・・・・・」
ヴァン「実験で生み出される数々の発明品・・・・・・」
ヴァン「探偵をするには丁度良いのさ」
ヘルメス「探偵錬金術師・・・・・・」
ヴァン「いずれはヘルメスに引き継いでもらうよ」
ヴァン「その後はイリスだ」
ヘルメス「で、ご主人は引退、のんびり隠居生活か?」
ヴァン「失礼な奴だな」
ヘルメス「そいつは失敬した」
ヴァン「引き籠もって実験三昧に決まっているだろう?」
ヘルメス「実験のテーマは?」
ヴァン「そうだな・・・・・・」
ヴァン「獲得形質の遺伝、かな?」
ヘルメス「随分難しいな・・・・・・」
ヴァン「実は試作品を作っていたんだ」
ヘルメス「あれか・・・・・・」
ヴァン「そう・・・・・・」
ヴァン「第三のホムンクルス・・・・・・」
ヴァン「トリスメギストスだ・・・・・・」
〇神殿の広間
ヘルメス「犯人は・・・・・・ うぬだな」
街人「う、うわああ・・・・・・」
街人「仕方なかったのよ・・・・・・」
街人「だって・・・・・・ あの人が・・・・・・」
イリス「お兄ちゃんスゴい! カッコ良かった!」
ヘルメス「イリス。次はお主の番だ」
ヘルメス「次の事件は一人で解決してみよ」
イリス「できるかなぁ・・・・・・」
ヘルメス「出来る限りの事は教えたつもりだ」
ヘルメス「成長型のお主なら、経験を積めば儂を超えられると確信している」
イリス「お兄ちゃんはどうするの?」
ヘルメス「猫探しの依頼が溜まっている」
イリス「・・・・・・」
ヘルメス「そう心配するな」
ヘルメス「困った事があれば手は貸してやる」
イリス「うん!」
〇古書店
数年後
ヴァン「イリスはもう良いのか?」
ヘルメス「服を着せてやってら、張り切って出ていったよ」
ヴァン「そうか・・・・・・ ようやく一区切りだな」
ヴァン「はー・・・・・・ 長かった・・・・・・」
ヘルメス「ご主人。ご苦労だった」
ヴァン「・・・・・・」
ヴァン「ヘルメス。もう一人の私よ・・・・・・」
ヘルメス「うむ」
ヴァン「お前は私の生き写しとして作った」
ヴァン「成長型のイリスと違って、言わば本能型といえる」
ヴァン「だから基本的に成長する事が出来ない」
ヘルメス「承知している」
ヴァン「だからと言って、決してお前を愛していない訳じゃないんだ」
ヘルメス「それも承知している」
ヴァン「共に生き、出来れば共に滅したいと考えている」
ヴァン「・・・・・・勝手かな?」
ヘルメス「いや。ご主人がお望みとあらば」
ヴァン「だが、同時に生きていってほしいとも思っているんだ」
ヘルメス「死んでも尚、生きる? アンデットにでもなれと?」
ヴァン「そうじゃない」
ヴァン「もしも死ねない理由が出来た時は、あれを使ってほしい」
ヘルメス「死ねない理由って・・・・・・」
ヴァン「本能型のヘルメスをベースに、イリスの成長要素も含めてある」
ヘルメス「トリスメギストス・・・・・・ だったか?」
ヴァン「ああ。獲得形質の遺伝については、以前教えたな?」
ヘルメス「ああ。問題ない」
ヴァン「じゃあ、その時が来たら宜しく頼む」
ヘルメス「その時とは・・・・・・」
ヴァン「単純な話さ。ホムンクルスは基本的に不老不死」
ヴァン「だが人間の私には寿命がある」
ヴァン「私に関して何か心残りがあった時は、こいつを使って、それを全うしてくれ」
ヘルメス「・・・・・・承知した」
ヴァン「ありがとう」
ヘルメス「ところで、ご主人・・・・・・ 以前から聞きたかったのだが・・・・・・」
ヴァン「うん?」
ヘルメス「儂はご主人の生き写しなのだろう?」
ヴァン「ああ」
ヘルメス「身体が無性、両性具有なのはホムンクルスだからわかるのだが・・・・・・」
ヘルメス「何故、性格が男なのだ?」
ヴァン「ふむ。それはだな・・・・・・」
ヘルメス「それは?」
ヴァン「私の趣味だ」
ヘルメス「儂の性格はご主人の趣味なのか・・・・・・」
ヴァン「中性的なイケメンに奉仕してもらいたかった、という崇高な理念だ」
ヘルメス「お、おう・・・・・・」
〇屋敷の書斎
ソフィア「アンタのご主人、随分変わり者ねぇ」
ヘルメス「・・・・・・はっきり言うでない」
ソフィア「んで? 今の話だと、アンタはデカいままじゃない?」
ソフィア「今の身体になったのは何で? ホムンクルスって、ちっこくなれるの?」
ヘルメス「それは・・・・・・」
ヘルメス「ご主人が亡くなった後だ」
ソフィア「亡くなった・・・・・・?」
ヘルメス「殺されたのだ」
ヘルメス「恐らく・・・・・・ イリスにな」
〇古書店
ヘルメス「ただいま」
ヘルメス「ご主人?」
ヘルメス「猫探しの依頼の件なんだが・・・・・・」
ヘルメス「ご主人?」
ヘルメス「・・・・・・!?」
ヴァン「・・・・・・」
ヘルメス「ご主人!」
ヴァン「・・・・・・ヘル、メス・・・・・・ か?」
ヘルメス「ご主人! 何があった?」
ヴァン「どうやら・・・・・・ とん、でもない事・・・・・・」
ヘルメス「待ってくれ! 喋らないで!」
ヘルメス「今エリクサーを!」
ヴァン「イリスを・・・・・・ イリスが・・・・・・」
ヴァン「・・・・・・」
ヘルメス「ご主人?」
ヴァン「・・・・・・」
ヘルメス「ご主人っ!」
ヘルメス「返事を・・・・・・ してくれ・・・・・・」
ヘルメス「嗚呼・・・・・・」
ヘルメス「・・・・・・」
ヘルメス「イリスが・・・・・・」
ヘルメス「イリス・・・・・・ お前の仕業なのか・・・・・・」
〇屋敷の書斎
ヘルメス「儂が旅をしている理由・・・・・・」
ヘルメス「それはご主人を殺したであろうイリスを見つける事・・・・・・」
ソフィア「・・・・・・なんかゴメン」
ソフィア「辛い話させちゃった」
ヘルメス「構わんさ」
ヘルメス「だが話はそう簡単ではなかった」
ヘルメス「どうやら相当な悪知恵を持つまでに成長したあやつを見つけるのは困難を極めた」
ヘルメス「見つけるには至らず、儂も随分歳を取ってしまった」
ソフィア「歳を取ったって・・・・・・ 何歳くらい?」
ヘルメス「ん・・・・・・」
ヘルメス「・・・・・・忘れた」
ヘルメス「多分、百歳か二百歳くらい?」
ソフィア「一世紀は誤差の範囲じゃないと思うけど」
ヘルメス「仕方なかろう。不老不死あるあるだ」
ソフィア「共感できねぇ・・・・・・」
ヘルメス「まあ、兎も角、このままでは駄目だと思い、今の身体に乗り換える事にしたのだ」
ソフィア「ああ、それでやっと繋がるのね」
ソフィア「でも乗り換えるって? どうやるの?」
ヘルメス「ご主人が最後に残した仮説、獲得形質の遺伝」
ヘルメス「これをパンゲネシス理論という」
ヘルメス「儂にはジェミュールという細胞があり、」
ヘルメス「これを通じて、獲得形質、即ち、記憶や技術などを遺伝させる事ができる」
ヘルメス「一般的には賢者の石と呼ばれているものだ」
ソフィア「ああ、聞いた事あるわ」
ソフィア「成程。記憶はそのままで、身体だけ入れ替える」
ソフィア「そっか。不老不死ってそういう意味なのか」
ソフィア「具体的にはどうやるの?」
ヘルメス「え? いや、その〜・・・・・・」
ヘルメス「何というか・・・・・・ ごにょごにょ・・・・・・」
ソフィア「ん? どうしたの急に・・・・・・」
ヘルメス「えっと・・・・・・ ああ・・・・・・」
ソフィア「へ?」
ヘルメス「東の大陸の方では『房中術』などと呼ばれていてな・・・・・・」
ソフィア「ぼーちゅーじゅつ?」
ソフィア「なにそれ?」
ヘルメス「その・・・・・・ 雄しべと雌しべが・・・・・・」
〇古書店
ヘルメス「・・・・・・」
ヘルメス「こは偽りなき真実にして確実にして極めて真正也」
ヘルメス「唯一なるものの奇跡の成就にあたり下なるものは上なるものの如く、上なるものは下なるものの如し」
ヘルメス「万物が一者の考察によってあるが如く、万物はこの一者より適応によりて生ぜしものなり」
ヘルメス「優れるものと劣れるもの、そのチカラを二つながら受け入れん」
ヘルメス「かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、故に暗きものは全て汝より飛び去らん」
ヘルメス「かくて世界は創造されり」
ヘルメス「かくて、世界智の三部分を有するが故に、ヘルメス・トリスメギストスとよばれけり」
ヘルメス「・・・・・・」
ヘルメス「太陽の働きにつきて我が述べたる事に欠けたる事なし・・・・・・」
うわあ〜!神回キタ〜ッ!!
ヘルメスがソフィアちゃんにはもう、かなり心を許している様子でホッコリします。
しかし、自身がホムンクルスというだけではなく、特別な錬金術の賜物だったとは…。
イリスとヴァンの間に何があったのか、めちゃくちゃ気になります。
あと、房中術を説明するのに困っているヘルメスに、ニヤニヤしてしまいました😁
う~む、細部まで行き届いたファンタジー成分、軽妙なセリフ…やはり素晴らしい!さすがの一言です!✨👏
このシリーズ読むと、昔はRPG等大好きだったのに次第にファンタジー離れした自分に対する反省しきりです…😇
純粋無垢っぽかったイリスがご主人を…!?真相が気になりますねぇ!
ヴァン殺人の犯人は果たして裏があるのかないのか
続きが気になりますなぁ
そして錬金術師はどんな世でも便利屋扱いされてしまうのは世の常なのでしょうが、それにしてもヴァンはこきつかわれすぎですね笑