アサギの決意(脚本)
〇本棚のある部屋
どっ
どうしよう・・・
助けに行かなきゃっ!!
でもあんな山奥どうやって!?
どうしよう
どうしよう
母さんに頼む・・・?
でも相手は若い男だ・・・
母さんまで襲われたら・・・
警察!!
とりあえず警察にこの映像を!!
ピコン──
パニクった頭で
ようやく警察に知らせる事を思いついた矢先
僕のパソコンに
カナコの携帯からメッセージが届いた
”お前がアサギだな?”
”警察に知らせたらこの女を殺す”
え!!
”家族はもちろん誰にも言うな”
”女の命はお前の行動次第だ”
”連絡を待て”
こんな状態の僕に『行動次第』とは
とんだ皮肉だ
あの男・・・
どこかで見たような・・・
〇本棚のある部屋
いくら何でも
何もしないで連絡を待つなんて出来ない
あの男が僕の事を
どれほど知っているかは不明だが
『行動次第』と言ってくる辺り
よく理解していないのでは・・・?
そもそも身代金目当てなのだとしたら
僕に連絡してくるのも理解し難い
僕は
はたから見れば起きてるのか
寝ているのかも分かりにくいし
部屋に来なければ
何をしてるか分からないだろう
かと言って
家族やカナコのご家族に伝えて
人の出入りが増えるのは危険かもしれない
友達に助けを求めよう・・・
〇サイバー空間
匿名性の高いSNSに
複数のアカウントを持っている
仮に誰かに連絡を取っても
犯人も流石に把握は出来ないだろう
複数の友人とゲームをする時に使う
ボイスチャットアプリを起動して
メッセージを打ち込む
to GTH
”助けて”
短い文書を入力するにも
人の倍は時間がかかる
彼は直ぐ返事してくれた
to 死神
”どうした?”
良かった
起きてた
ゆっくり
確実に
メッセージを入力する
もどかしい・・・
to GTH
”カナコが拐われた”
ピーピー
メッセージを打った瞬間
画面にエイジからの通話通知が来た
通話画面を開く
〇本棚のある部屋
エイジ「おい!アサギ! 冗談なら笑えないぞ!?」
スマホのインカメラからだろうか
画面いっぱいにエイジの顔が映る
エイジ「カナコちゃんが誘拐されたってことか!?」
僕もパソコンのカメラを起動している
視線を上下に動かす
うまく喋れない僕は
エイジとルールを決めて会話をしている
YESは視線を上下に
NOは目を閉じる
どちらでも無い
他の選択肢の場合は目線を左右に動かす
エイジ「え・・・マジかよ!! 警察は?家族には伝えたのか!?」
目を閉じる
エイジ「え・・・ なんで・・・?」
エイジ「犯人から連絡するなって言われたのか?」
目線を上下に
エイジ「画面越しならバレないと踏んで 連絡してきたのか?」
目線を上下に
エイジ「マジか・・・」
エイジ「俺がお前の家に行ったら危険か?」
目線を左右に
エイジ「そんなの分からないよな・・・ 悪い・・・」
目線を上下に
to GTH
”ドラレコ録画ある”
エイジ「カナコちゃんの車で移動してたのか!! 動画送れるか!?見てみる!!」
チャット画面で
エイジに見えるように動画を再生する
エイジは運転出来るから場所が分かるかも
エイジ「うわ・・・ほんとだ・・・ ヤバ・・・」
エイジ「アレ・・・ コイツ・・・」
エイジ「キヨシじゃね?」
え?
〇住宅街の道
どうして気づかなかったのだろう・・・
あの黒尽くめの男は
同級生のキヨシ君だ・・・