改造途中人間チュート

栗山勝行

第10話 『誰かを守れる自分に』(脚本)

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〇海岸線の道路
  夏合宿で山田の別荘を訪れていた探偵部は台風の接近を知り、1日早く切り上げることにした。
  ニュースの天気図を見る限り、それほど焦る必要もないように思えたのだが
  為定があまりに急かすので、宙斗たちは荷物をまとめて、為定の車に乗り込んだ。

〇車内
三輪燈和「あれ、先生は?」
班馬宙斗「誰かに電話してるっぽい」
三輪燈和「え~っ、誰だろ~? 彼女さんかな~?」
班馬宙斗(それは考えてなかった。・・・盗み聞きはよくないけど、これも訓練だ)
  宙斗は精神を集中して、窓の外の為定の声に耳を澄ました。
為定京二「ああ、大至急だ。 思い過ごしだといいんだが・・・」
  そう言って為定は電話を切った。
  話し相手の声までは拾えなかった。
班馬宙斗(すごく深刻そうな声だったな。少なくとも恋人同士の浮ついた会話ではなさそうだ)
為定京二「待たせてすまない」
三輪燈和「誰に電話してたんですか~? やっぱり、彼女さんとか~?」
為定京二「そんないいモンじゃないよ」
  為定はシートベルトを締めてエンジンを掛けた。
為定京二「さあ、急ごうか。 少し雲行きが怪しくなってきた・・・」

〇開けた高速道路
  高速は夏休みにしては空いていた。
  途中、大きな渋滞に巻き込まれることもなく、学校まで後半分という距離まで来た。

〇車内
来明電奈「そろそろ、どこかで休憩を入れた方が良いと思うんだが・・・」
三輪燈和「ですねー。私もそろそろお花摘みに・・・」
山田「途中で花を摘んで、土産代わりか? 安上がりだな」
為定京二「山田・・・いや、堂明寺──」
山田「山田です」
為定京二「お花摘みとは、トイレの暗喩だ。そこにツッコむとデリカシーのない男だと思われるぞ」
班馬宙斗(そうなのか。知らなかった・・・)
三輪燈和「せっかく隠したものを説明するのも、デリカシーのない行為ですよ、先生」
為定京二「そうだな、すまない。・・・とりあえず次のPAで一度休憩を入れよう」
為定京二「少し急ぎすぎたようだ」
  為定がそう言って、車線変更しようとした瞬間、前方で白い煙が上がった。
来明電奈「事故か?」
  為定は、事故に巻き込まれないように後ろを確認しながら、少し減速した。
  前方に数台の車が煙を上げて横転しているのが見える。
  横転した車の側には、巨大な馬のような生物がいた。
班馬宙斗(高速道路に・・・馬? いや、あれは・・・!)
為定京二「思い過ごしじゃなかったか・・・」
  為定はそう小さくつぶやきながら、ブレーキを踏み、ハンドルを切りながらサイドブレーキを引いた。
  車体後部が大きく滑り、180度反転する。
  為定はそのままアクセルを踏んだ。
  タイヤがキュルキュルと音を立て、数回空転する。
為定京二「逃げるぞ、捕まれ!」
山田「待て、ここは高速だぞ? 逆走するのは自殺行為だ!」
為定京二「逃げなければ、待ってるのは他殺行為だ」
来明電奈「『ZOD』・・・!」
班馬宙斗「停めてください、先生!」
為定京二「どうした、班馬!」
  為定はアクセルを緩め、車を停めた。
班馬宙斗「子供の・・・女の子の声がしました。 あの横転した車の中のどこかから・・・!」
為定京二「気のせいだろう。あの場所からここまで何十m離れてると思ってるんだ?」
班馬宙斗「気のせいじゃありません! 聴こえるんです、僕には」
為定京二「・・・この間のことを忘れたのか?」
  為定の言葉が宙斗の悪夢を呼び覚ました。
  両目のない男、宙を舞う電奈。
  あの光景を忘れられるわけがない。
班馬宙斗「忘れてません。 忘れられないから、僕はここで降ります」
  宙斗はシートベルトを外し、後部座席のドアを開けた。
班馬宙斗「誰かを守れる自分になりたいんです」

〇開けた高速道路
  為定の車を降りて、振り返った。
  奮い立たせた心を吹き飛ばすように一台の車が爆発、炎上した。
  馬と思われた生物は、上半身人間、上半身馬の半人半馬だった。
  後ろで炎が上がっているため、顔がよく見えないが、その目は確実にこちらを見据えていた。
来明電奈「呑まれるな。 深呼吸をして、落ち着いていこう」
  電奈の右手が、背中に優しく触れた。
班馬宙斗「先輩・・・」
来明電奈「誰かを守りたい気持ちは私も一緒だ」
来明電奈「わかっている。 目的は復讐じゃない。人命救助だろ?」
  宙斗は大きく人工肺に酸素を取り込み、精神を集中させた。
班馬宙斗「女の子がいるのは、右の白い車の中です」
班馬宙斗「僕があいつの注意を引くんで、その間に女の子を助けてください」
来明電奈「わかった」
為定京二「班馬、やつの弱点は小回りがきかないことだ。左右に振り回せ」
  いつの間にか、為定も車外に出ていた。
班馬宙斗「先生・・・?」
班馬宙斗(何でそんなことを知ってるんだろう・・・)
為定京二「止まったら死ぬと思え。気をつけろよ」
班馬宙斗「はい」
班馬宙斗(動き続けろっていう意味で言ったんだろうけど、確かに、止まったら(オーバーヒート)命取りだ)
  宙斗は、大きく深呼吸した。
  熱の籠もった体内の空気を排出し、夕方の生温い空気と交換する。
班馬宙斗「よし・・・」
  宙斗は半人半馬の前に立った。

〇開けた高速道路
班馬宙斗(とにかく先輩のために時間を稼ごう。 なるべく刺激しないよう、冷静に・・・)
班馬宙斗「『ZOD』の改造人間か?」
???「ああ。私の名は馬獣神ホースだ」
班馬宙斗「・・・何でこんなことするんですか?」
馬獣神ホース「私は危険な煽り運転を繰り返す馬鹿に鉄槌を下しただけだ」
馬獣神ホース「車は銃と同じ。簡単に人を殺せる道具だ」
馬獣神ホース「やつらは、その自覚もないままに他人に銃口を向け、時に発砲する」
馬獣神ホース「法が下せる罰は、せいぜい免停程度だ。 やつらは無自覚に人を殺すまで繰り返す」
馬獣神ホース「だから、人を殺す前に私が処分してやるんだ」
馬獣神ホース「我欲を抑えられない人間は、淘汰されるべき害悪でしかない」
班馬宙斗「ここに転がっている車、全てが煽り運転をしたんですか?」
馬獣神ホース「・・・いや、私から逃げようとした馬鹿に巻き込まれた被害者もいる。可哀想に・・・」

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