第8話 『無力』(脚本)
〇学校の屋上
???「班馬、またサボりか?」
班馬宙斗「為定先生・・・」
彼の名は、為定京二(ためさだ きょうじ)。
来明電奈に探偵部の顧問を押しつけられた新任教師である。
彼もいきなり、廃ビルに教え子を迎えに行くことになるとは思っていなかっただろう。
為定京二「まだ気にしてるのか、来明が怪我したこと」
班馬宙斗「まあ・・・」
あの日から、2週間が経つ。僕はあれ以来、ずっと探偵部に顔を出せずにいた
為定京二「あいつは、お前に責任はないって言ってたぞ?」
為定京二「無謀に突っ込んでいったのは自分だし、むしろお前を巻き込んでしまったって・・・」
班馬宙斗「先輩が突っ込んでいった時、僕は足がすくんで、1歩も動けませんでした・・・」
為定京二「逃げなかっただけでも、凄いじゃないか。迷わず突っ込んでいった来明が特殊なんだよ」
為定京二「化け物みたいな猿がいたんだろう? 私だったら、そいつを見た瞬間、逃げてるぞ」
班馬宙斗「・・・でも結局、意味がありませんでした。何もできないまま倒れて、気絶して・・・」
班馬宙斗(電奈先輩を守れなかった・・・)
班馬宙斗「あの人が助けに来てくれなかったら、きっと僕達、2人とも・・・殺されてました」
〇廃ビルのフロア
???「頑張ったな、少年。後は俺に任せろ」
???「この○○○○○○にな」
〇学校の屋上
班馬宙斗「誰だったんでしょう、あの人・・・。 どうして、あの場所に・・・」
為定京二「ああ・・・、たぶん学校に連絡くれた人だな。私が駆けつけた時には、もういなかった」
為定京二「名前も匿名だったから、よくわからないんだ。若い男性だろうってことくらいしか・・・」
班馬宙斗「そうですか・・・」
班馬宙斗(不思議な事に、あの事件はどこでも報道されてなかった)
班馬宙斗(あの時の猿は・・・血まみれの男の人は、どこへ消えたんだろう・・・)
為定京二「とにかく、一度、部活に顔を出せ。 誰もお前を責めたりはしない」
班馬宙斗(誰も僕を責めないことは、わかっている)
班馬宙斗(真っ先に怒鳴り込んでくると思っていた山田でさえ、廊下ですれ違っても、無言でこっちを見るだけだ)
班馬宙斗(誰も僕を責めないのは、誰も僕の罪を知らないからだ)
班馬宙斗(あの廃ビルで何かが起こってることに、僕は気づいていた)
班馬宙斗(気がついてたのに、電奈先輩を止めなかったんだ)
班馬宙斗(この中途半端に改造された体で、何かができるかもしれないって、思い上がってた)
班馬宙斗(努力して手に入れた力でもないのに、思い上がってしまったんだ・・・)
涙がこぼれた。
ほとんど何もできなかった自分が、先輩を傷つけてしまった自分が、許せなかった。
為定京二「・・・ここで後悔して、何かが変わるのか?」
急に為定の声のトーンが変わった。
班馬宙斗「先生・・・」
為定京二「来明は、あの性格だ。きっとこれからも、危険に飛び込んでいくだろう」
為定京二「その時、お前は彼女のそばにいなくていいのか?」
班馬宙斗「それは・・・」
為定京二「守れなかった自分を悔やむ暇があるなら、今度は守れるように、強くなれ」
為定京二「いくら悔やんでも過去は変えられん。 変えられるのは、今と未来だけだ」
重みのある言葉だった。
為定京二「・・・なんて、私も他人に偉そうに言える立場じゃないんだがな」
為定京二「一度、言ってみたかったんだよ。 教師みたいなこと」
為定京二「まあ、柄にもないことはやめて、あとは彼女に任せるとしよう」
為定は屋上の入り口を見て、そう言った。
そこには電奈が立っていた。
為定京二「じゃあ、ごゆっくり」
そう言って、為定は頭をボリボリと掻きながら去っていった。
来明電奈「・・・・・・」
班馬宙斗「・・・・・・」
「すまなかった(すみませんでした)」
2人の声が重なった。
来明電奈「君は何も悪くない。 巻き込んでしまったのは、私だ」
班馬宙斗「そんなことないです。僕の責任です・・・」
来明電奈「あの場は、逃げるべきだった。君がいたのに、つい頭に血が上ってしまって・・・」
班馬宙斗「先輩・・・」
来明電奈「あの猿を見た時、私にはわかった。 あれは『ZOD』の改造人間だと」
宙斗は言葉に詰まった。
いろいろありすぎて、すっかり忘れていたのだ。彼女があの時『ZOD』という言葉を口にしたことを。
来明電奈「『ZOD』というのは、ある組織の名だ。 私も詳しいことは知らない・・・」
来明電奈「ただ、危険な思想を持った組織であることは確かだ」
来明電奈「やつらは、獣を人より純粋で崇高な存在とし、獣の姿で欲望におぼれた人間を狩る」
電奈はフェンスの金網を両手でつかみ、うつむいた。
来明電奈「・・・私がアメリカで暮らしていた頃、政府の捜査機関に所属していた父が、行方不明になった」
来明電奈「元捜査官だった母は、父を捜すために現場復帰し、そのまま姿を消した」
来明電奈「後日、川底に沈んだ車の中から、2人の遺体が発見された・・・」
来明電奈「助手席に座っていた母の手には、『ZOD』と書かれた金属製のエンブレムと、獣の毛が握られていたそうだ」
金網が音を立てて軋んだ。
彼女の声は震えていた。
来明電奈「2人は決して欲におぼれるような人間じゃなかった。ただ見せしめに殺されたんだ・・・」
来明電奈「私は当時、飛び級で既に大学を卒業していたが、年齢制限で捜査官にはなれなかった」
来明電奈「だから、独自に捜査を始めた」
来明電奈「両親の遺した資料を読み漁り、両親の友人の力を借りて『ZOD』の本拠地が日本にあることを突き止めた」
班馬宙斗「それで・・・この学校に?」
来明電奈「ああ。まずは、日本での一般教養や常識を身につけようと思ったんだ」
来明電奈「そうしたら、思いの外、面白い人材に巡り会えた。だから、探偵部を作った」
来明電奈「いつか、『ZOD』からこの国の人達を守れるように、信じ合える仲間を育てようと・・・」
来明電奈「でも、そんな事情を君達に打ち明ける前に、私は『ZOD』に出会ってしまった」
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