第7話 『遭遇』(脚本)
〇黒
???「この世で最期に聞く音だ。 冥土の土産にするがいい」
???「大声出すなよ。少しでも騒げば、即、喉を引き千切るからなぁ」
男「は・・・はひ・・・」
???「俺の名は、猿獣神エイプ。 お前の罪に裁きを下す者だ」
男「裁・・・き・・・?」
猿獣神エイプ「ああ。お前の目と耳と喉を奪う」
男「なんで・・・! 私は何も・・・」
猿獣神エイプ「フェイクニュースを拡散したろ?」
男「え・・・?」
猿獣神エイプ「お前はわざわざネットで検索し、 誤情報を信じて、デマを拡散した」
猿獣神エイプ「余計なことを見聞きして、 言わなくていいことを言った」
猿獣神エイプ「だから、お前の目と耳と喉を奪うんだ」
男「フェイクニュースを拡散した・・・? それだけで・・・?」
猿獣神エイプ「ああ。「それだけで」だ」
猿獣神エイプ「「それだけで」どれだけの人間が人生を狂わされたか、お前は知ってるのかぁ?」
猿は男の片耳をつまみ上げて、囁いた。
猿獣神エイプ「ある中小企業は風評被害で倒産し、 何人もの社員が路頭に迷うことになったそうだ」
猿獣神エイプ「殺人犯のレッテルを貼られた男は、 婚約者に逃げられ、田舎の母親が首を吊った」
男「そ、そんな・・・! そんなことになってるなんて・・・」
猿獣神エイプ「そう。どんなことになるか想像もせずに、無自覚に無責任に、お前は嘘をバラまいたんだ」
男「悪いのは、嘘のニュースを流したやつだろ!? 私だって、そいつに騙された1人だ・・・!」
猿獣神エイプ「被害者面すんじゃねぇよ。お前は無実の人間を袋叩きにした立派な加害者だ」
男「悪気はなかったんだ! ただただ正義感で・・・」
猿獣神エイプ「正義感だァ?」
猿獣神エイプ「それが真実かどうか調べもせず、その相手がどうなったかも知らねぇくせに」
猿獣神エイプ「お前たちは、日々のストレスを正義の鉄槌を下すという快感で、発散してるだけだろ」
男「た、助けて! ・・・ひぎぃっ!!」
猿獣神エイプ「騒ぐなと言ったろう? 勢いで片耳、千切れちまったじゃねぇか・・・」
〇廃ビル
「助けて!」
宙斗の耳は、その声を捉えていた。
来明電奈「どうした、宙斗くん?」
班馬宙斗「いえ・・・」
班馬宙斗(今、確かに声が聞こえた。 この上で、誰かが助けを求めてる・・・)
班馬宙斗(電奈先輩に、伝えるべきか?)
探偵部に入る前の宙斗だったら、迷わず引き返して警察に通報しただろう。
廃ビルで助けを求める人がいるなんて、
どう考えても普通じゃない。
だが、今の宙斗には成功体験があった。
助けを求める声から逃げず、前に踏み出したことで電奈に認められた。
だから、今回も自分の能力が何かの役に立つかもしれないと思ってしまった。
その数秒の迷いの間に、事態は大きく動く。
ぎぃやあああああーーーーーーっ!!
今度は電奈にもはっきりと聞き取れる大きさだった。
来明電奈「聞いたか、宙斗くん! 上の階だ、走るぞ!!」
少しも迷うことなく、階段を駆け上がっていく電奈。
宙斗はその後を追うことしかできなかった。
〇廃ビルのフロア
来明電奈「何だ・・・これは・・・」
最上階の凄惨な光景に2人は言葉を失った。
〇廃ビルのフロア
窓から薄暗い部屋に差し込む光。
その光の中におよそ2mの猿が立っていた。
猿の手には、だらりと力なく膝をつく男。
逆光でよく見えないが、その足元には目玉と耳のようなものが転がっている。
猿獣神エイプ「ほら見ろ、お前が叫ぶから邪魔が入っちまったじゃねぇか・・・」
猿は歯茎をむき出しにしてニッと笑った。
男「助・・・けて・・・」
その声を聞くや否や、電奈は電光石火の如く駆け出していた。
猿獣神エイプ「ほぅ!」
長い左腕を勢いよく振り回し、 電奈を薙ぎ払おうとする猿。
彼女はその腕をくぐり抜け、がら空きになった猿の腹に正拳を突き入れた。
猿獣神エイプ「・・・俺の姿を見た上で、 何の迷いもなく、一直線に突っ込んでくるか」
猿獣神エイプ「大したもんだ、お嬢ちゃん。 だが、所詮は人間の子供だ」
殺気を感じ、素早くバックステップで猿の腕が届かない距離まで下がる電奈。
猿獣神エイプ「安心しろ。 子供を殺すのは趣味じゃない」
猿獣神エイプ「ここで見聞きしたことは忘れて、消えろ。 そして、誰にも口外するな」
猿獣神エイプ「そうすれば、命だけは助けてやる」
宙斗にとってはこの上ない申し出だった。
だが、電奈に迷いはない。
来明電奈「断る・・・! お前は『ZOD』の改造人間なのだろう?」
班馬宙斗(『ZOD』?)
班馬宙斗(先輩は・・・『ZOD』を知ってる・・・!?)
猿獣神エイプ「ほぉ、『ZOD』を知っているのか。あの雄鶏の命も無駄にはならなかったようだな」
来明電奈「『ZOD』は『悪』だ。 私は『悪』を許さない!」
猿獣神エイプ「ほぅ。じゃあ、こいつはどうだ?」
猿は、力なくうなだれる男の体を電奈の前に突き出した。
猿獣神エイプ「無責任にフェイクニュースを拡散し、無実の人間の人生を無茶苦茶にした。」
猿獣神エイプ「こいつは『悪』じゃないのか?」
来明電奈「そ、それは・・・」
電奈は言葉に詰まってしまった。
その隙を猿は見逃さなかった。
猿獣神エイプ「受け取れ」
そう言うと猿は片手で男を放り投げた。
来明電奈「くっ!」
男の体が直撃し、電奈が宙を舞った。
映画で観た交通事故のシーンのように、スローモーションで目の前を通り過ぎていく。
宙斗は、その間、身動きどころか声を上げることさえできなかった。
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