カナコの運命の日(脚本)
〇教室
お見舞いに行ってから数日たったある日
担任の先生に呼び止められた
東堂先生「アサギが目を覚ましたって! 病院から連絡が来たよ!」
東堂先生「面会時間は18時までだから それまでに行けば会えるって!」
カナコ「良かったぁーっ!!」
カナコ「すぐ行きますっ!!」
私はすぐに病院に向かった
〇病室
ガラガラガラ・・・
カナコ「お邪魔しまーす・・・」
アサギ「あ・・・ 来てくれたんだ・・・」
カナコ「あっ」
カナコ「あの!」
カナコ「ごっ・・・」
カナコ「本当にごめんなさい!! どうやって償えば良いか分からないけど! 本当にごめんなさい!!」
アサギ「!?」
アサギ「・・・」
アサギ「いいよ・・・」
カナコ「ふぇ・・・?」
突然泣きながら謝る私に彼は優しく告げた
アサギ「だから・・・気にしなくて良いよ・・・」
カナコ「そんな・・・」
アサギ「ちなみに・・・」
アサギ「・・・僕の足が動かないのは聞いた?」
カナコ「え・・・」
アサギ「もうね・・・たぶん・・・ 一生動かないんだって・・・」
カナコ「そんな・・・」
カナコ「本当にごめ──」
アサギ「もう謝らないで・・・」
アサギ「階段踏み外したのは僕の不注意だし・・・ 『不慮の事故』だよ・・・」
アサギ「本当、運が無いよね・・・」
アサギ「せっかく来てくれたんだから・・・」
アサギ「違う話をしよう・・・?」
カナコ「う・・・うん・・・」
アサギ君のお母さんが来るまで
最近の学校の様子を話した
みんながすごく心配していること
もうすぐ受験生だからソワソワしてること
担任の東堂先生が4月で転勤すること
アサギ「そっか・・・」
アザミ「あら・・・ お見舞い来てくれてたのね ありがとう」
アサギ「あ、母さん」
カナコ「お邪魔してます・・・」
アザミ「この間はお見舞いにお花頂いて ありがとうございました」
カナコ「いっ・・・いえ・・・」
アザミ「どうぞゆっくりしていってね 私は一旦家に帰って服を取ってくるわ 何か必要なら携帯に連絡してね」
カナコ「あ・・・」
アサギ「ありがとう」
カナコ「謝りそびれちゃった・・・」
アサギ「良いんだよ」
アサギ「母さんも僕も不運だったねって・・・ 諦めてるから・・・ 誰のせいでも無いから・・・」
カナコ「そんな・・・」
アサギ「・・・」
アサギ「前を向いて生きてくしかないでしょ!! 足が動かなくたってバスケもテニスも水泳だってできるよ!!」
アサギ「今度、車いす屋さんが来てくれるんだ! カッコイイ車いすにしてやる!」
カナコ「え・・・うん・・・」
アサギ君は空元気で
その優しさが胸を抉った
〇総合病院
それから予定のない日はほぼ毎日
アサギ君のお見舞いに行った
〇病室
アサギ「おかえり」
カナコ「ただいま」
ほぼ毎日顔を合わせて話している
冗談でおかえりと言われるほどに
この頃は本当に楽しかった
最初は苦しくて罪悪感から通っていたけれど
アサギ君が本当に強く
逞しく前を向いて生きている姿を間近で見て
すごい人だなと尊敬して
前よりもっと彼の事が好きになっていた
いつも笑顔で迎えてくれるお母さんにも
本当に頭が下がる
アサギ「怪我の功名か 最近はろくに会いにも来なかった父親が ほぼ毎晩お見舞いに来るんだよっ!」
アサギ君の家庭環境が複雑なのは
薄々感じていた
彼は
不幸の渦中ではあるけれど
逞しく生きていた
ちゃんと喋る事もできていた・・・
〇総合病院
その日もアサギ君に会いに病院へ向かった
『食事は
何でも好きなものを食べて良い事になった』
と聞いたので
彼の食べたがっていた
季節限定のイチゴのタルトを買って
病院へ向かった
この日は彼の誕生日だった
〇大きい病院の廊下
西陽が入る廊下
カナコ「喜んでくれるかな・・・」
細心の注意を払ってここまで運んできた
あとちょっと・・・
カナコ「あ・・・」
目的の部屋から
アサギ君のお母さんが出てきた
一瞬目が合ったような気がしたが
そのままどこかへ行ってしまった
部屋まではまだ距離がある
カナコ「後で挨拶しよう・・・」
〇病室
ガラガラガラ・・・
カナコ「ただいまー・・・」
・・・
・・・?
いつもなら起き上がる音がするのに・・・
カナコ「アサギ君・・・?」
シャッ
ベットを囲むカーテンを開けると
アサギ君が
グッタリ
力なくベットに横たわっていた
カナコ「え・・・? え・・・!!?」
アサギ君は意識を失っているように見えた
カナコ「アサギ君・・・!?」
話しかけても
肩をゆすっても
アサギ君は小さく呻くだけで起きない
カナコ「どっ・・・ どうしようっ!?」
カナコ「なっ」
カナコ「ナースコール!!」
ようやく私はナースコールのボタンを押した
〇大きい病院の廊下
とても長い時間
廊下で待っていた気がする
不安で不安で
カナコ「アサギ君・・・」
アサギ君のお母さん
どこ行っちゃったんだろ・・・
カナコ「怖い・・・」
また目の前でアサギ君を失うような
そんな気がしていた・・・
〇総合病院
ずいぶん遅くまで待ったけれど
アサギ君には会えなかった
意識が戻ったら連絡すると
看護師さんに言われた
父親が迎えに来て
帰るしか無かった
うまく呼吸が出来ない
苦しいよ
カナコ「アサギ君・・・」
〇総合病院
翌朝出直した
学校なんて行けない・・・
親には言わずに病院に来た
〇病室
神様は残酷だ・・・
これから
私にどうやって生きろと言うのだろう・・・
あんなに努力して
前向きに
逞しく
文句も言わず
現実に向き合って
眩しいくらい輝いて見えた
ひたむきに生きていた
そんな彼に
何故こんな試練を与えるのか・・・
『起きてから詳しく検査しないと
分からないけれど・・・』
『今後、彼と会話するのは難しいと思う』
『身体は・・・
ほとんど自分では動かせないと思う・・・』
『今は寝ているから・・・静かにね・・・』
不憫に思った看護師さんが
病室に入れてくれた
アサギ君は
前よりもっとたくさんの
管と機械に繋がれていた
カナコ「なんで・・・」
カナコ「アサギ君なの・・・」
〇フェンスに囲われた屋上
しばらく呆然として日々を過ごした
まだアサギ君には会えていない
春休みの間ずっとアサギ君の事を考えていた
悩んで悩んで
自分の進む道を決めた
アサギ君の役に立つ人になりたい
ただそれだけ