第7話 暗殺者夫婦・シゲ&ウメ!①(脚本)
〇広い畳部屋
若井茂蔵(しげぞう)は深刻な表情で電話をしていた。
その隣では、妻の梅子(うめこ)がリモコンを片手に茂蔵を見守っている。
茶の間に並ぶ、若かりし頃の夫婦の写真。
写真の二人は大きな銃を抱え、隅には「シゲ&ウメ」のサインが入っていた。
若井茂蔵「ばーさん、金がいるぞ」
通話を終えた茂蔵が梅子に言った。
若井梅子「そのようだね。 例の暗殺依頼・・・受けるしかないね」
若井茂蔵「20年ぶりのターゲットは女子高生じゃ。 これまで消してきた政治家、企業人と比べれば小物じゃが・・・」
若井梅子「ふん、背は腹に代えられないさ」
〇通学路
若井梅子「この近くのはずだがね」
高原小太郎「おばあちゃんたち、どうしたの?」
若井梅子「あらあら坊や、いいところに。 木枯荘(こがらしそう)って、この辺にあるかい?」
若井茂蔵「高原みこさんの家を探しとるんだよ」
高原小太郎「姉ちゃんの知り合い?」
若井茂蔵「ほお、坊ちゃんは高原みこさんの弟かい」
高原小太郎「うん! 今はバイトしてるはずだから、案内してあげるよ」
小太郎は喜んで頷くと、梅子の車いすを押して歩き始める。
若井梅子「優しいねえ、坊ちゃん。 そのまま車いすから手を離さないでおくれ」
高原小太郎「うん! まかせて」
若井梅子「ほっほ、いい人質が手に入ったねえ」
〇お弁当屋のレジ(店名あり)
高原小太郎「えっ、姉ちゃんの知り合いじゃないの?」
高原みこ「うん、全然知らないけど?」
若井梅子「ふっ、悪いね坊ちゃん。 某大企業幹部も、その優しさが命とりだったよ・・・」
若井茂蔵「行けえ!」
茂蔵が大声で叫んだ瞬間、その口から総入れ歯が飛び出した。
若井茂蔵「フガフガ~!(ばーさんの車いすチェイン殺法! ハンドルごと鎖で拘束して、ワシらの人質としてしまうのじゃ!)」
若井梅子「これでも食らいな!」
ピカッ!
梅子がボタンを押すと、車いすがまるでクリスマスツリーのように光り輝いた。
高原小太郎「うわあ!? まぶしい!」
若井茂蔵「フガガッ(これは車いすネオン殺法!? 夫婦仲が気まずい時や、夜道を明るく照らしたい時に最適じゃ!)」
若井梅子「ボタンを間違えたか! くっ、これが20年のブランク・・・」
高原みこ「わー、ハイテク車いすだー!」
アテナ「ご主人(マスター)、何事ですか?」
店の奥からやってきたアテナが、レーダーで若井夫婦をスキャンした。
アテナ「・・・スキャン完了。殺気はなし。 刺客ではないようです」
〇店の休憩室
みこはしょんぼりした若井夫婦を連れて、スタッフルームにやってきた。
高原みこ「うちで一番人気の特製にこにこ弁当でーす!」
若井梅子「ねだったみたいで悪いねえ」
高原みこ「気にしないで! お腹空いてるおばあちゃんたち、ほっとけないもん」
高原みこ「このお弁当食べて元気出してね」
若井茂蔵「ほう、おいしそうじゃなあ。いただきます」
高原みこ「おばあちゃんも遠慮しないで、どうぞ」
若井梅子「そうかい? それじゃあ・・・」
梅子はみこから割り箸を受け取ると、逆手に持ち替えた。
若井梅子「アンタのタマ、いただくよ!」
若井茂蔵「おぉ!? ばーさん、伝家の宝刀をもう抜くつもりか!」
若井茂蔵「某大物政治家をはじめ、それで倒れた者は幾千人! 割り箸殺法、一之剣!」
若井梅子「出し惜しみはしない主義なんでね! ・・・はぁっ!」
バシッ!
高原みこ「いっったぁ! 何!?」
高原みこ「もー、おばあちゃん! お箸の使い方、間違ってるよ!」
高原みこ「持ち方は、こう! あと、私の顔はご飯じゃないからね!」
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