改造途中人間チュート

栗山勝行

第3話 『暴走』(脚本)

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〇野球のグラウンド
班馬宙斗(穴があったら入りたかった)
班馬宙斗(不良たちに囲まれているところを、憧れの先輩女子に助けられて、泣いた)
班馬宙斗(しかも、彼女になぐさめられて、「痛いから泣いてるんじゃない」なんて・・・)
班馬宙斗(あれは、どう考えても、負けおしみにしか聞こえないよな)
班馬宙斗(でも、本当に少しも痛くなかったんだ。 なぜなら、僕は『改造途中人間』だからだ)
  班馬宙斗は『改造途中人間』である。
  ある日、突然、悪の組織に連れ去られ、改造されたが、人違いだったために、手術は中断。
  これは、中途半端に改造を施されたまま、元の生活へ戻ることになった、不幸な高校生の物語だ。
  そう。僕が泣いていたのは、あまりに不幸だったからだ
  不良に殴られても、まったく痛みを感じなかった。それが悲しくて、僕は泣いていた
  だけど、僕に起きた不幸な出来事など、彼女が知るはずもない
  そこには、ただ「女子の前で泣いた」というどうしようもなく情けない事実があるだけだ
  だから、この時の僕は完全に頭に血が上っていた
  改造人間でも血が上るのか、とか、その血液は人工血液か、なんてツッコミはこの際どうでもいい
  とにかく、やけくそになっていたんだ
体育教師「次・・・班馬宙斗!」
班馬宙斗「はい!」
  宙斗は勢いよく立ち上がった。
  春の体力測定
  個人の体の成長度合いを知るために、幾つかの競技を行い、その測定結果を記録する公式行事──
  その場で、宙斗は──
班馬宙斗(全力を出してやる・・・!)
  愚かな決断をした。

〇野球のグラウンド
  目立ってしまったら、自分を改造した謎の組織『ZOD』が口をふさぎに来るかもしれない。
  昼休みまでは、そう冷静に判断できていた。
  だが、あの来明電奈の前で大恥をかいてしまったというその事実が、宙斗の判断能力を狂わせていた。
班馬宙斗「・・・・・・」
  スタートラインに立つ宙斗。
  大きく息を吸い、体育教師の笛の合図を待つ。
  顔を上げると、神経を研ぎ澄ました宙斗の目に、揺れる金髪のポニーテールが映った。
班馬宙斗(授業中の3年の教室・・・まちがいない。 あれは電奈先輩だ)
  彼女が見ているかもしれない。
  そう意識した瞬間、宙斗は全身の毛穴が一気に開いたような気がした。
  スタートを待つ右足に力が入る。
  ピッ!!
  笛が鳴ると同時に、宙斗は思い切り地面を蹴った。
  予想外の力がかかり、少し地面がえぐれる。
  足の裏が地面をつかみきれずに、数回空転する。
班馬宙斗(ここで転ぶわけにはっ!)
  一瞬、体勢を崩しかけたものの、必死でこらえる宙斗。
  なんとか持ち直して、徐々に足の回転を速めていく。
  まるで自分の意志ではないような初めて電動アシスト自転車をこいだ時に近い感覚。
班馬宙斗(何だ、このスピード・・・!)
班馬宙斗(顔面に今まで感じたことのない風圧を感じる)
生徒「すげえ!」
班馬宙斗(みんなの驚く声が聞こえる)
班馬宙斗(この勢いのまま跳べば、まちがいなく、とんでもない記録が出る)
班馬宙斗(そうすれば、電奈先輩も少しは僕のことを見直してくれる・・・はず!)
班馬宙斗「行くぞ、世界新っ!!」
  踏切のラインを意識しながら利き足の右足に力をこめた瞬間──
  いきなり宙斗の視界が真っ暗になった。
班馬宙斗(なん・・・だ・・・これ・・・)

〇黒
  中途半端に改造された宙斗の体は、全力を出した人工筋肉の負荷に耐えきれなかった。
  熱暴走(オーバーヒート)による機能障害を未然に防ぐための強制停止(シャットダウン)
  急ブレーキでコントロールを失った宙斗の体は、前のめり気味に宙を舞い

〇野球のグラウンド
  その勢いのまま、
  頭部から華麗に砂場に突き刺さった。
  「穴があったら入りたい」
  冒頭部の宙斗の願いは、見事に叶えられた。

〇黒
???「この男が、真城騎刃か」

〇手術室
  真城・・・騎刃・・・?
  ちがう、僕は・・・!
  ダメだ、声が出ない・・・!
鳥マスクの男「世界でも最高レベルの頭脳と肉体をあわせ持つ『最も神に近い大学生』と呼ばれた男・・・」
  誰だよ、それ・・・?
  僕は『どこにでもいる平凡な高校生』だ
鳥マスクの男「・・・にしては、ずいぶん幼く見えるな」
鳥マスクの男「この男、本当に真城騎刃でまちがいないのか?」
???「まちがいない・・・はずです。 学生証でちゃんと確認しました」
  その学生証は、ひろっただけなんだ!
  真城騎刃なんて人、僕は・・・
???「大変です!」
???「ネットの画像検索で再確認したところ、どうも別人のようです!」
  ほら! だから言ったのに!
???「どうしましょう・・・?」
???「改造手術は、65%終わってるんですけど・・・」
  なんで手術前にちゃんと確認しないんだよ!
鳥マスクの男「・・・なかったことにしよう」
  え・・・?
???「なかったこと・・・とは?」
鳥マスクの男「上層部にミスがバレたら、私を含め、ここにいる全員が処分されることになるだろう」
鳥マスクの男「だから、すべてを隠蔽する」
鳥マスクの男「ここにいる全員、今日起きたことはすべて忘れろ」
???「では、改造中のこの体は、どのように処理すれば・・・」
  処理・・・!?
  人ちがいで、殺されるのか、僕は・・・!
鳥マスクの男「下手に騒ぎにしたくない。 行方不明扱いで、警察に捜査されてはまずい」
???「それでは、どうすれば・・・?」
鳥マスクの男「・・・幸い、まだ眠っているようだ」
鳥マスクの男「私が応急処置を施して、そのまま元の場所へ戻しておけば、問題あるまい」

〇黒
  いや、問題あるだろ!

〇保健室
班馬宙斗「あれ・・・ここは?」
  宙斗はベッドの上に寝ていた。
  あの薄暗い手術室ではないことに気づいて安堵の息をもらす。
  シーツが大量の汗で濡れているのは、今見た悪夢のせいだろうか。
  それとも、わずかに残った人間の部分が、全身の熱を体外に逃がそうとしているのか。
???「安心したまえ。学校の保健室だよ」
  宙斗は、その声で初めてその場に自分以外の人がいたことに気づいた。
  飛び起きて、声を発した相手を見て、思わず我が目を疑う。
  なぜか、あこがれの人、来明電奈がそこに座っていた。
来明電奈「ずいぶん、うなされていたようだが、悪夢でも見たのかな?」
班馬宙斗「いや・・・えっと、あの・・・どうして・・・」
  驚きすぎて声にならない。
来明電奈「ああ。体力測定の途中でいきなり高熱を出して倒れたんだ」
来明電奈「運ばれてきた時は、死んでもおかしくないくらい熱かったそうだよ」
来明電奈「ところが、保険医が不在でな。 探してる間に、熱は下がったようだ」
班馬宙斗「いや、そうじゃなくて・・・。 なんで電奈先輩が、ここに・・・?」

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