人体寄生植物

青谷圭

第三話 『狂暴化と自暴自棄』(脚本)

人体寄生植物

青谷圭

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〇駅のホーム
  逃げる人の流れに逆らい、ホームに向かう。
  電車内に人の姿はなく、駅員や野次馬たちはホームから、木の生えた車両を眺めていた。
黒木沙羅「その木に近づかないで! 近づきさえしなければ──」
  大丈夫だと言いかけたところで、電車内の太い蔓が鞭のようにしなり、窓ガラスを叩き割った。
赤坂隆二「危なっ!」
  咄嗟に赤坂がかばってくれるが、ガラスの破片が周囲に飛び散り、赤坂の腕から血が流れる。
  蔓は蛇のようにうねって電車の車体に巻きつき、締めあげていく。
黒木沙羅「どうして? 前は、ここまで狂暴じゃ──」
  疑問を抱いたところで、ホームの床に落ちた白い花びらに気づく。
  伸びた蔓には、緑色の果実がつらなっていた。
黒木沙羅(実がなってる。だとしたら、次は──)
  みるみるうちに、果実が赤黒く変色していく。
黒木沙羅「みんな、ここから離れて!」
  沙羅は赤坂の腕をつかみ、駆け出した。
  背後でパァンッ、と弾ける音が聞こえる。
野次馬A「なんだこれ? なんか降ってきたぞ」
  振り返ると、スマホを向けて写真を撮る人々の頭上からパラパラと何かが降り注いでいた。
  次の瞬間──付着した種が発芽し、蔓が伸びて巻きついていく。
野次馬A「うわぁっ、助けてくれ!」
野次馬B「やめろ、こっちに来るな!」
  阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
  悲鳴と怒号が響き渡る中、次から次へと人が木に変貌していく。
  沙羅は何もできない悔しさに唇を噛みながら、赤坂と共にその場を逃れた。

〇おしゃれなリビングダイニング
  報道番組は駅での騒動で賑わっていた。
アナウンサー「都内では人が植物に襲われる、前代未聞の事件が相次いでおり──」
  つい先日まで誰も信じなかったような出来事が、動画付きで紹介される。
アナウンサー「都内で騒ぎが起こる以前、地方でも事例があったようです。先日、植物学者が都内から調査にいっており──」
黒木沙羅「!」
  突如、自身の話題があがり、沙羅は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。
ニュースキャスター「学者の方が持ち込んだのでしょうか。管理体制はどうなっていたのでしょうね」
赤坂隆二「勝手に決めつけんなや。 駅での発生は関係あらへんやろ」
  電車が使えなくなり、共に沙羅の家に戻った赤坂が、テレビに向かって文句をつける。
黒木沙羅「・・・だけど、私が寄生根を持ち帰ったのは事実だわ」
  沙羅は呟き、木と同化した祖父に目を向ける。
黒木沙羅(残り時間は、どのくらいあるのかしら。衰弱しきる前に、助けることができるの・・・?)
アナウンサー「撒き散らされた種、巻きついた蔓から寄生するため、政府は寄生虫に近い存在とみなし、感染症対策本部を設立すると──」
黒木沙羅「感染症・・・虫に寄生する冬虫夏草は菌類だし、真菌が感染症を引きおこす例もあるけど」
黒木沙羅「植物から人への感染例はないはずだから、違和感があるわね。植物自体がウイルスによる突然変異なのかしら?」
赤坂隆二「突然変異ゆうたら、駅での狂暴化は、なんやったんや? あんたは、なんかか感づいとったみたいやけど」
黒木沙羅「実がなっていたから、種子を飛ばすと危険だと判断したの」
黒木沙羅「さすがにホウセンカみたいに破裂して撒き散らすのは予想外だったけど」
黒木沙羅「狂暴化は、次の奇主を探すためでしょうね。実がなるほど、人間から栄養を吸い尽くしたわけだから」
赤坂隆二「宿主が死ぬ間際に、次を探すために種を撒き散らして暴れ出す、ちゅうわけか。はた迷惑な話やな」
  赤坂が皮肉を口にした、そのときだった。
  沙羅は祖父を取り込んだ木の蔓に、緑色の実を発見した。
黒木沙羅「あ・・・」
  口元を覆う沙羅の視線の先に目を向け、赤坂もぎょっとする。
赤坂隆二「あかん! 逃げるで!」
黒木沙羅「でも、おじいちゃんを置いては・・・っ」
  祖父を気にする沙羅の腕を、赤坂がつかむ。
赤坂隆二「ええ加減にせえ! じいさんと心中するつもりか!?」
  叱咤の声とほとんど同時に、蔓が暴れ出す。
  先ほどまで座っていた椅子に巻きつき、ミシミシと軋ませながら取り込んでいく。
  蔓が勢いよく床を叩きつけ、ヒビが入る。
黒木沙羅「離して! おじいちゃんが・・・!」
赤坂隆二「行くで!」

〇一戸建て
  家の外に逃げ出してからも、木はしばらくの間、壁を叩き、ガラスを破って暴れていた。
  通報を受けて駆けつけた隊員たちは、防護服をまとい、大きな盾に小型の電ノコギリや火炎放射器を手にしている。
黒木沙羅「何をするつもりですか? 中には祖父がいるんです。まだ、生きてるんですよ!」
  必死になって叫ぶ沙羅に、白衣姿の神経質そうな男が近づいてきた。
白衣の男「黒木沙羅さんですね? 植物学者で、例の植物の調査を担当されたとか」
  言い当てられ、沙羅はぎくりとする。
黒木沙羅「あなたは──」
橘省吾「感染症専門医の橘です。 菌──この場合は種でしょうか」
橘省吾「それを保有している可能性があるので、あなたを隔離します」
赤坂隆二「アホゆうなや。そんなもん保有しとったら、とっくに木になっとるやろ」
赤坂隆二「動画で次々と木になっとった人々を見てへんのかい!」
橘省吾「菌の場合は無症状で感染を広げる保菌者(キャリア)がいますし、植物も動物などにくっついて種を遠くに運ばせますので」
黒木沙羅「・・・・・・」
  沙羅は反論する気力もなく、家に目を向けた。
  割れた窓ガラスから、騒ぐ声と物音が聞こえ、壁に血が飛び散るのが見える。
黒木沙羅(お願い、無事でいて。 誰か、おじいちゃんを助けて・・・!)
  家の中で何度か炎が揺れ、しばらくすると、防護服の隊員たちが外に出てくる。
  運び出された担架は、シートで覆われていた。
  風でシートがめくれ、黒焦げの変わり果てた祖父の遺体が覗く。
黒木沙羅「・・・っ!!」
  沙羅は口元を覆い、息を呑んだ。

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