10分間の恋人

イチ

10分間の恋人(脚本)

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10分間の恋人
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〇大衆居酒屋
  私は酔っていた
  はじめて1人で居酒屋に来て、だ。
  いや、もう酔っているという段階ではない
  ヘベのレケである──
  それもそうだ
  学生時代から10年も付き合っていた男にフラれたのである
  フラれただけならまだいい
  ヤツは二股していて、そっちの女に子供ができたのだ
  なんの悪びれもなく私に
  結婚するから
  と告げていなくなったのだ
  これが酔わずにいられるか!

〇大衆居酒屋
ヒナ子「うぃっく」
ヒナ子「トイレいこーぅ」
ヒナ子「いたっ」
カズシ「ゴメン、ぶつかっちゃった」
ヒナ子「らいじょーぶれすかー?」
カズシ「ははッ!」
カズシ「おねぇさんは大丈夫じゃなさそだね」
ヒナ子「どもです」
カズシ「彼氏か友達にちゃんとしてもらいなよ」
ヒナ子「うわぁ〜ん」
カズシ「ちょちょ、どした!?」
ヒナ子「彼氏にフラれてやけ酒飲んでんの分かるれしょー」
カズシ「分かるかよ!」
カズシ「・・・ふーん、そなんだ」
ヒナ子「なんれしゅか?」
カズシ「俺が今、10分間だけ恋人になったげるよ」
ヒナ子「あんたみたいなガキに、なんれ慰められにゃいと・・・」
ヒナ子「よろしくおねしゃす」
カズシ「ははッ! 素直でよろしいッ!」
カズシ「じゃ、今からね」
カズシ「はい!」
ヒナ子「うひひ」
カズシ「きめぇな」
ヒナ子「しゅきって言ってよぉ」
カズシ「言わねーし」
ヒナ子「え〜、恋人ごっこじゃないのぉ?」
カズシ「ごっこじゃねーの!マジの恋人!」
ヒナ子「じゃあ、しゅきって言ってよ〜」
カズシ「俺、好きとか言わねーから」
カズシ「・・・ぜってぇ落としたい時しか」
ヒナ子「いい!そゆの! 感じれてゆ!」
カズシ「そーゆー冷めること言うなよ」
ヒナ子「あはは、ごみんごみん」
ヒナ子「おばさんは愛に飢えてるのでしゅ」
カズシ「おばさんじゃねーし」
カズシ「愛に飢えてんだったら俺がいるし」
カズシ「赤ちゃんみたいに甘えさせよっか?」
ヒナ子「わ〜い」
ヒナ子「おっぱいちょーらいッ!」
カズシ「ちょーし乗んな!」
カズシ「それは俺のセリフだろ」
ヒナ子「なんだぁ、やっぱ体目当てだにゃ?」
カズシ「なんだよ」
ヒナ子「怒った」
カズシ「悪ぃかよ!」
ヒナ子「開き直ってただけらったぁ」

〇大衆居酒屋
ヒナ子「うひひ」
カズシ「なんだよ」
ヒナ子「私と寝るつもりだにゃ」
カズシ「いちいち言うなし」
ヒナ子「でも10分間の恋人じゃ、時間ないんじゃなゃ〜い?」
カズシ「大丈夫」
カズシ「なんか10分もたなそ」
ヒナ子「うひひ でも私の彼氏はね〜」
カズシ「ちょちょ、彼氏って何?」
ヒナ子「私をフった彼の事よぉー」
カズシ「元カレじゃん」
ヒナ子「あ、そだったごみん」
カズシ「んで、元カレの話すんなし」
カズシ「俺、元カレの話されんのヤなの」
ヒナ子「なんれ〜?」
カズシ「・・・めっちゃ妬くから」
カズシ「だせぇけど、絶対ダメなの」
ヒナ子「そなんだ」
ヒナ子「かわいいとこあんじゃん」
カズシ「ガキ扱いすんなし」
ヒナ子「ま、あなたみたいな遊び人からしたら 私の方がガキなのかもねぇ〜」
カズシ「遊び人?」
ヒナ子「私にゃんて男、1人しか知らにゃいもん」
カズシ「遊び人はさすがに傷つくな」
カズシ「これでも、努力して笑顔になってもらえるよう・・・」
カズシ「ゴメン、だせぇ事言いかけた!」
ヒナ子「男はダサくてもいいにょ」
ヒナ子「ただ1人だけを愛ししゃえしゅれば!」
カズシ「なんかカッケぇ事いうじゃん」
ヒナ子「で、あとは顔が良くて、お金持ちで──」
カズシ「なんだよ、ソレ!」
カズシ「なんか、俺のが惚れそうになるわ!」
カズシ「はーい、10分終了〜」
ヒナ子「なになに〜」
カズシ「どう? 少しは楽になった?」
ヒナ子「なに? ナンパじゃにゃかったのぉ〜」
カズシ「ナンパじゃねーわ」
ヒナ子「そっかぁ〜 ホストにナンパしゃれてるのかと思ってたぁ〜」
カズシ「ホ、ホストッ!?」
カズシ「ちょ、待って! おねぇさん、俺の事知らねーの?」
ヒナ子「え〜、タロぉ〜?」
カズシ「誰だよ! タローって!」
ヒナ子「実家のいぬ〜」
カズシ「んなわけねーだろ!」
カズシ「やっべ、じゃあ俺めっちゃヤバい奴じゃん! てか、恥ッず!」
ヒナ子「どしたのぉ? 間違ってお母さんにHなLINE送っちゃったのぉ〜?」
カズシ「ちげぇわ! 確かにそれくらいテンパってたけど!」
カズシ「いや、俺これでも・・・」
カズシ「ううん、なんでもない」
カズシ「ゴメン、なんか少しでも楽になってもらいたかったから」
ヒナ子「うひひ なったよぉ〜」
カズシ「でも、前の彼氏めっちゃ好きだったって事、忘れる必要ないよ」
カズシ「人を好きになるって、思ってできる事じゃないから」
カズシ「また新しい出会いもあるし、 今日みたいに!」
ヒナ子「へい」
カズシ「ホントにわかってんのか?」
敏腕マネージャー「カズシ、そろそろ次の撮影が」
カズシ「やべ、そだよな」
カズシ「じゃな!」
カズシ「俺、おねぇさんに知ってもらえるくらい有名になるから」
カズシ「おねぇさんもガンバレ!」
ヒナ子「いっちゃったぁ〜」
敏腕マネージャー「うちのカズシに付き合っていただいてありがとうございます」
ヒナ子「付き合ったって、10分らけれすからぁ」
敏腕マネージャー「とりあえず、うちの車でお送りいたしますね」
ヒナ子「さ、先、ト、トイレぇ漏れるぅ」

〇シックなリビング
  あの夜のことは、酔っていてほとんど覚えていない
  いつのまにかあの女性の方と連絡先を交換していたようだ
  酒は恐ろしい・・・
  でも、不思議と彼との会話だけは鮮明に覚えていた
  たったの10分間の出来事だったが、本当に付き合っているような甘い時間を私は何度となく思い出していた
  そのおかげか、前の男に残された心の傷は少しずつ癒えてきていた
  あの夜から数ヶ月後──
  また、会いたいな、そう思っていたある日
  あの時の女性からテレビを見るように連絡がきた
ヒナ子「テレビ、テレビっと──」
  と、普段は見ないテレビをつけた

〇テレビスタジオ
カズシ「いや、マジで1位嬉しいッス!」
司会者「新曲が初登場1位! おめでとうございます!」
司会者「誰に伝えたいですか?」
カズシ「そうですね 俺が天狗になった時に鼻をへし折ってくれた元カノですね」
司会者「元カノ!? そんな事言って大丈夫!?」
カズシ「へーき! おねぇさん見てるー?」
カズシ「これでさすがに俺の事わかったー?」
司会者「え? 今回の曲って、カズシ君が作詞だったよね?」
カズシ「そーです」
司会者「じゃあ、もしかして、この曲って」
カズシ「そーです 元カノの事を書いた曲です!」
司会者「いやぁ、人気アイドルが元カノの曲って言っちゃう?これはネットが荒れますよー!」
カズシ「荒れろ荒れろー」
司会者「かっこいい! じゃあその人の事聞いていい?」
カズシ「さすがに相手に悪いからムリー」
司会者「そだよね ファンの方々、失礼しました!」
カズシ「でも、惚れさせようとしてたのに 俺が惚れちった人ー」
司会者「よっぽど魅力的な方だったんですねー! おっと、そろそろスタンバイの時間です! 準備お願いします!」
カズシ「はい!」
カズシ「・・・」
カズシ「おねぇさん見てる?」
カズシ「俺の言ったこと覚えてるよね?」
カズシ「じゃあ、心を込めて伝えるね」
カズシ「聴いてください」

〇白
  『好き』

コメント

  • ヒナ子の酔っぱらい具合の描写が完璧ですね!2人の会話の端々に心情が細やかに表わされていて、読んでいてトキメキますね。2人とも可愛すぎます!

  • 酔っ払いとのやりとりもなかなか面白かったけど、最後の締め方がよき!
    しっかりとキュン要素が入っていてすばらしいとおもいました!

  • 面白すぎる!会話のやり取りも絶妙に面白く、いちいちツボでした。こういう話し大好きです!

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