蟻地獄に咲く薔薇のよう

戸羽らい

Ep.1 ミッション「敵を殲滅せよ!」(脚本)

蟻地獄に咲く薔薇のよう

戸羽らい

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〇雑踏
  物語の創作論には「主人公には困難を与えるべきだ」と書かれているが
  現実に生きる私たちは「困難はできることなら回避した方がいい」と考えている
  困難とは主人公が立ち向かうべき「敵」であり、物語を動かす上での大事な導火線
  しかし、私たちは無意識的に敵を作らないように生きてしまう
  落とし穴から這い上がるのではなく、落とし穴に嵌まらない生き方を選ぶ
  人はよく「人生はクソゲーだ」と言うけれど、確かにそうだなと私も思う
  だって、敵のいないゲームなんて面白いわけがないから
  よっぽど不運でない限り、安全地帯でのほほんと暮らす私たちの前に敵は現れない
  「一寸先は闇」「明日は我が身」
  その「一寸先」が遠すぎて
  いつになっても「明日」が訪れない
  ──なら、その一寸先を、明日を、今この手に手繰り寄せればいいだけ

〇黒背景
  私は落とし穴を掘った
  平坦な人生に起伏を与える
  そんな大きな穴を、深く深く、掘った
  深い闇が私たちの足下を包んだ
  すると、そこでやっと──
  ゲームが始まった

〇廃墟の倉庫
ガタイの良い男性「どうすんだよ!」
ガタイの良い男性「このままじゃ俺たち全員死ぬだろうが!」
青年「わ、わかってるよ でもどうしようもないだろこんなの」
小太りの男性「もう腹を括るしかないな」
小太りの男性「青年、お前が囮になれ」
青年「なんでだよ・・・ 腹括るんじゃないのかよ」
小太りの男性「若者だろ!根性見せろ!」
小太りの男性「この根性なし!無能! 役立たずの軟弱者が!」
青年「はあ?」
青年「ならてめえがやれよおっさん」
小太りの男性「なんで私が・・・」
小太りの男性「う・・・うぐぅ」
青年「調子こいてんじゃねーぞ のろまなデブのくせによう」
ガタイの良い男性「・・・」
青年「デブ!ハゲ!無能! 上から指図するしか脳のない豚が!」
小太りの男性「うぐうう」
青年「・・・まあ、でも」
青年「そんなあんたでも 僕らの役に立てる仕事があります」
青年「ここで囮になって、未来ある若者のために犠牲になってください♪」
ガタイの良い男性「それいいな」
小太りの男性「なんで・・・私が」
青年「うるせえ! 豚が口答えすんなァ!」
  きゅいーーーーん
青年「やべっ もう追いつかれたのか?」
ガタイの良い男性「ぁ」
青年「おいおいおい」
小太りの男性「ひぃ・・・」
青年「くそ!このままじゃやられる!」
青年「てめぇはそこで寝とけ!」
小太りの男性「ゔっ」
  きゅいーーん
青年「くそがぁ!」
化け物「きゅいーん」
青年「何で俺の方追ってくんだよ!」
化け物「きゅいーん」
青年「や、やめ・・・」
化け物「きゅいーん」
小太りの男性「く、くるなぁ」
化け物「きゅいーん」
小太りの男性「ひぃぃぃ!」
  タイムオーバー!
  生存者820名!
  ミッションは失敗に終わりました!
化け物「きゅいーん・・・」
小太りの男性「タイムオーバー?」
小太りの男性「よく分からんが、助かったのか・・・?」
  タイムオーバー!
  生存者820名!
  ミッションは失敗に終わりました!
小太りの男性「はは・・・ なんでもいいや・・・」
小太りの男性「ガキどもが・・・ 散々バカにしくさって・・・」
小太りの男性「結局最後まで生き残れるのは私のような真面目な大人なのだよ!」
小太りの男性「はっはっはっはぁ!」

〇荒廃した街
小太りの男性「はっはっはっ!」
青年「どうしました?」
小太りの男性「は?」
青年「何でしょうね、ここ 目が覚めたらこんな・・・よく分からない場所にいて」
青年「ここに来る前のこと何か覚えてます? 僕は何も思い出せないんですよね」
小太りの男性「・・・?」
小太りの男性「どういうことだ?」
  ミッションを開始します!
  ミッションを開始します!
青年「ん?」
  ミッション!敵を殲滅せよ!
  ミッション!敵を殲滅せよ!
小太りの男性(同じだ・・・)
小太りの男性(さっきと同じ・・・)
  きゅいーーーーん
気の強い女性「んー?」
気の強い女性「何この音?」
化け物「きゅいーん」
気の強い女性「え?」
化け物「きゅいーん」
青年「うわぁ!」
小太りの男性「同じだ・・・」
青年「なんだあれ・・・やべえ・・・」
青年「おっさん!早く逃げないと!」

〇荒廃した街
小太りの男性「おっさんだと!失礼な!」
小太りの男性「ったく・・・ 最近の若者は無礼極まりない」

〇荒廃した街
小太りの男性(同じだ・・・)
  きゅいーーん
青年「・・・ったく!早く逃げるぞ!」
小太りの男性「あぁ・・・」
化け物「きゅいーん」

〇廃墟の倉庫
  9
  周
  目
  タイムオーバー!
  生存者325名!
  ミッションは失敗に終わりました!
ガタイの良い男性「助かったのか・・・?」
青年「やっぱりおっさんすげえや!」
青年「俺らおっさんのおかげで生き残れたようなもんだし」
小太りの男性「・・・」
小太りの男性(こいつらを助けたところで終わらないことは知ってる)
小太りの男性(かれこれ10回近く繰り返しているが、決まった時間になると必ず最初の地点に戻る)
  タイムオーバー!
  生存者325名!
  ミッションは失敗に終わりました!
小太りの男性「はぁ・・・」
青年「どうしたんすか? 溜め息なんかついて」
小太りの男性「何でもな」

〇荒廃した街
  10
  周
  目
小太りの男性「い・・・」
青年「何でしょうね、ここ 目が覚めたらこんな・・・よく分からない場所にいて」
青年「ここに来る前のこと何か覚えてます? 僕は何も思い出せないんですよね」
小太りの男性「・・・」
小太りの男性「そうだよな 何も覚えてないんだよな」
青年「?」
  ミッションを開始します!
  ミッションを開始します!
小太りの男性(こいつらを生かしたところで 全部忘れてしまう)
小太りの男性(体を張って助けても 全部なかったことにされてしまう)
小太りの男性(無駄だ・・・こんなの)
  ミッション!敵を殲滅せよ!
  ミッション!敵を殲滅せよ!
小太りの男性「敵を殲滅・・・」
小太りの男性「殲滅されるのは私たち・・・」
小太りの男性「ミッション・・・敵を殲滅・・・」
小太りの男性「そうか!」
小太りの男性「私たちは殲滅されるべきなんだ!」
青年「?」
  きゅいーーーーん
化け物「きゅいーん」
青年「うわぁ!」
青年「なんだあれ・・・やべえ・・・」
青年「おっさん!早く逃げないと!」
小太りの男性「いや、逃げちゃダメだ」
小太りの男性「逃げていたら永遠に終わらない」
化け物「きゅいーん」
小太りの男性「根性を見せろ!若者よ!」
青年「なっ!」
青年「何すんだ!離せ!」
小太りの男性「みんな死なないと終わらないんだよ」
化け物「きゅいーん」
青年「やめろォ!」
小太りの男性「ふぐっ」
青年「チッ」
小太りの男性「ま・・・まてぇ」
化け物「きゅいーん」
小太りの男性「はぁ・・・」
小太りの男性「もういい・・・殺してくれ・・・」
小太りの男性「死ねば終わるだろ・・・」
化け物「きゅいーん」
小太りの男性「・・・」
小太りの男性「・・・?」
小太りの男性「どうなってる? 何故、私だけ襲われない?」
猫背の男「はぁはぁ・・・」
猫背の男「くんなぁぁ!」
化け物「きゅいーん」
小太りの男性「なるほどな・・・ そういうことか」
小太りの男性「はは・・・ははは」
小太りの男性「はっはっはっは!」

〇学校の屋上
小太りの男性「っはっはっはぁ!」
「・・・」
小太りの男性「分かっちゃった・・・全部・・・」
小太りの男性「分かっちゃったよ・・・ どうすればいいか・・・」
小太りの男性「これは私にだけに与えられたミッションなんだ・・・!」
化け物「きゅいーん」
平凡な男性「やめてくれ・・・」
平凡な男性「せめて・・・妻だけは・・・」
平凡な男性「なっ!」
小太りの男性「ひっひっひ」
小太りの男性「あとどれだけ殺せばいいんだ〜?」
小太りの男性「時間もなくなってきたなあ」
小太りの男性「また繰り返すのはやだなぁ」
小太りの男性「ぐひっ」
小太りの男性「ひっひっひっひ!」
化け物「きゅいーーーーん!」

〇荒廃した市街地
桐谷凍夜「・・・」
小太りの男性「おや? そんなところにいたら危ないよ」
小太りの男性「獲物は隠れてないとダメでしょお」
「きゅいーん」
桐谷凍夜「・・・」
桐谷凍夜「おっさん、あんたはそっち側らしいな」
小太りの男性「そっち側?」
小太りの男性「そりゃあもちろん狩る側だよお」
小太りの男性「子うさぎちゃんは殲滅しないとねぇ」
化け物「きゅいーん」
小太りの男性「・・・」
小太りの男性「な?」
桐谷凍夜「そうか・・・」
桐谷凍夜「立場は違えど、俺たちと同じだな」
桐谷凍夜「敵を殲滅するのがこのゲームの勝利条件だもんな」
風見陽「ひぃ〜良かった〜」
風見陽「さっき拾ったアイテムちゃんと機能したぁ」
小太りの男性「なっ!」
小太りの男性「なんなんだお前たちは!」
桐谷凍夜「敵だよ」
桐谷凍夜「あんたのな」
風見陽「どうする?やっちゃう?」
桐谷凍夜「ああ・・・」
小太りの男性「敵・・・敵・・・」
小太りの男性「敵は殲滅するぅ!!」
小太りの男性「ぐぁっ」
小太りの男性「おのれぇぇぇぇ!」
小太りの男性「ぐゔゔゔぅゔぅぅうゔ」
風見陽「効いてる効いてる」
桐谷凍夜「えげつねえなぁ・・・」
風見陽「あともうちょっとで丸焦げだよん♪」
黒焦げの死体「・・・」
風見陽「こんがり焼けましたぁ」
桐谷凍夜「ひでぇ匂い」
風見陽「死体が残らないのがこのゲームの良いとこだよね!」
桐谷凍夜「そういやもうそろそろ時間だな」
桐谷凍夜「今回で何人減ったのか」
風見陽「もう10周もしてるし みんな慣れてきてるだろうね〜」
  タイムオーバー!
  生存者305名!
  ミッションは失敗に終わりました!
風見陽「前回が325人だったから〜」
桐谷凍夜「たったの20人か・・・ 確かにペースは落ちてるな」
風見陽「でも本来なら死亡者ゼロでもおかしくないから、誰かが死んでる時点で誰かしらがアクションを起こしてるってことだよね」
風見陽「何回も繰り返してるのにも関わらず死んでしまう何かがあった」
桐谷凍夜「・・・」
風見陽「そろそろ本格的にゲームが動き出すかもね」
  タイムオーバー!
  生存者305名!
  ミッションは失敗に終わりました!
風見陽「時間だね・・・ じゃあまた、「いつもの場所」で」
桐谷凍夜「・・・おう」
桐谷凍夜「・・・」

〇荒廃した街
  11
  周
  目
小太りの男性「ん?ここはどこだ?」
青年「あっ目覚めたんすか」
小太りの男性「はぁ」
青年「何でしょうね、ここ 目が覚めたらこんな・・・よく分からない場所にいて」
青年「ここに来る前のこと何か覚えてます? 僕は何も思い出せないんですよね」
小太りの男性「んー? 何も覚えとらんなぁ」
  ミッションを開始します!
  ミッションを開始します!
青年「ん?」
  ミッション!敵を殲滅せよ!
  ミッション!敵を殲滅せよ!
小太りの男性「なんだぁ?」
小太りの男性「何か始まるのかぁ・・・?」
  きゅいーーーーん

〇入り組んだ路地裏
  ミッションを開始します!
  ミッションを開始します!
  ミッション!敵を殲滅せよ!
  ミッション!敵を殲滅せよ!
桐谷凍夜「・・・」
アロハの男性「ん〜? 一体何が始まるんだ?」
アロハの男性「気付いたら知らない場所にいるし 全く・・・何が何だか・・・」
桐谷凍夜「ははは 何でしょうね」
おっちゃん「テロ組織に誘拐でもされたか それとも何か別の陰謀・・・」
おっちゃん「全く・・・物騒な世の中じゃわい」
桐谷凍夜(このループにおいて 一度死んだ人間は記憶を引き継げない)
桐谷凍夜(たとえ別の周で生き残っても 次の周には記憶がリセットされる)
桐谷凍夜(一度死んだら・・・だ)
桐谷凍夜(一度でも死んだら・・・ もうそいつは魂のない抜け殻)
桐谷凍夜(地縛霊と一緒 このループの舞台装置として、わけもわからずずっと彷徨い続ける)
桐谷凍夜(勿論、「生存者」にはカウントされない)
桐谷凍夜(こいつらは既に死んでいる 死んでもなお、このループの呪縛に取り憑かれてやがる)
桐谷凍夜「・・・」
桐谷凍夜「俺が早く楽にしてやるよ・・・」
アロハの男性「おい兄ちゃん! どこ行くんだ!」
おっちゃん「全く・・・政府がしっかりしていればこんなことには・・・」
  きゅいーーん
アロハの男性「何の音だ・・・?」
化け物「きゅいーん」
アロハの男性「・・・へ?」
化け物「きゅいーーーーん!」
  ミッション「敵を殲滅せよ」
  
  現在11周目
  生存者305名

次のエピソード:Ep.2 田井中コルネリアの仮説

コメント

  • 小太りのおっちゃんが中核でどうなっちゃうかと思いましたが…ちゃんと本編始まった 笑
    一度死ぬとループに参加はしてるけど舞台装置になる…面白い設定ですねぇ!どうなるかワクワクします😆
    冒頭の戸羽節の語り口も素敵でした👍

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