Ep.26/ THE ELUSIVE NIGHT WATCH #18(脚本)
〇殺人現場
エンフォーサー「この騒ぎ。 やはりお前だったか、ナイトウォッチ」
エンフォーサー「・・・話がある」
ボイスチェンジャーで加工されたエンフォーサーの声が、重低音で路地に響いた。
ちょっと怖い。
バステト「紫雲。威圧モードを起動しますか?」
バステト「声を相手に心理的圧迫を与える声色に変換し、抑揚の癖や声紋も偽装します」
どうやら、こっちもエンフォーサーと同じ声が出せるらしい。
ナイトウォッチ「・・・いいね。格好いいし」
バステト「なお完璧を期すため、口調も変更してください」
バステト「準備は?」
ナイトウォッチ「えっ。わ、わかった」
バステト「では、威圧モードを起動します」
ナイトウォッチ「え、エンフォーサー。昨日は助かった」
重低音に変換された僕の声が、路地に響いた。
エンフォーサー「気にするな。俺とお前はゼニスを打倒しようしている点で利害が一致している」
エンフォーサー「だから勝手に死なれては困る。それだけだ」
ナイトウォッチ「そうか。お前もゼニスを」
エンフォーサー「そういうことだ。だがゼニスは強大だ。 あの兵力と組織力」
エンフォーサー「お前も昨日・・・、今日も思い知ったんじゃないか?」
ナイトウォッチ「・・・あぁ」
エンフォーサー「つまり、あの巨大組織は正攻法では倒せない」
エンフォーサー「・・・そこでだ。 俺たちは協力する必要があると考えている」
ナイトウォッチ「チームを組んで(チームアップして)戦おう、と?」
エンフォーサー「フッ。冗談を。得体の知れない覆面男に、正体を知られるリスクを犯すつもりはない」
エンフォーサー「・・・情報の交換だけだ」
ナイトウォッチ「・・・そうか」
エンフォーサー「こちらには、過去のゼニスの行動に関する詳細なデータがある」
エンフォーサー「そちらには最近の詳しいデータがあるはずだ」
エンフォーサー「提供できる範囲で構わない」
ナイトウォッチ「・・・なるほど」
僕はちらりとバステトを見た。
バステト「はい。有用な取引きだと考えます」
バステト「こちらで集めた情報の穴を埋めることができる可能性があります」
ナイトウォッチ「了解した。取引に応じる」
エンフォーサー「賢い選択だ」
エンフォーサーがメモリスティックを取り出し、僕に手渡した。
エンフォーサー「こちらが掴んでいるデータは、この中だ」
ナイトウォッチ「OK。少し待て」
バステト「データのダウンロード及び、提供データのコピー実行中・・・完了しました」
ナイトウォッチ「完了した。確認してくれ」
エンフォーサーがスティックを受け取る。
エンフォーサー「早いな。・・・データを確認した。 いい取引だった。また会おう」
エンフォーサーはコートの裾を翻し、颯爽と去っていった。
ナイトウォッチ「ふー。緊張したぁ。どう? 違和感なかった? 口調あれで平気?」
バステト「62.3点。及第点です」
ナイトウォッチ「そう・・・」
ナイトウォッチ「しかし得体の知れない覆面の男とチームは組めないか」
ナイトウォッチ「・・・確かに。頭いいな、彼」
バステト「エンフォーサーの正体を探れ、という命令でしょうか? すみません」
バステト「ゼニス所有のシステム以外へのハッキングには 智是の許可が必要です」
ナイトウォッチ「いや、別にいいよ」
ナイトウォッチ「たぶん中身は見知らぬ怖いお兄さんとか、正義感をこじらせたオッサンとかだし」
ナイトウォッチ「プライベートでは、お近づきになりたくないかな」
バステト「・・・たしかに」
〇荒れた公園
その後、僕とバステトは例の公園に来ていた。
久常紫雲「そういえばナイトウォッチには秘密基地があるのに、なんでまた公園・・・?」
バステト「あの隠れ家の所有者は智是ですので。 紫雲が使用するには智是の許可が」
久常紫雲「あ・・・そうだよね。 さようならって、追い出されてそれっきり」
思い出したら、気が滅入ってきた。
久常紫雲「仲直り、できるかな・・・」
バステト「わかりません」
久常紫雲「・・・でも冷静に考えると今の僕って、彼女から別れを切り出されたのに、しつこく迫るダメな元彼氏の典型じゃ・・・」
バステト「検索・・・類似点は多いようです」
久常紫雲「・・・もうダメってこと?」
バステト「わかりません。話は変わりますが、紫雲」
バステト「エンフォーサーから提供されたデータの解析が完了しました」
久常紫雲「君、マイペースだね・・・」
バステト「遅い、という意味でしょうか」
久常紫雲「いいや。ブレないなって」
バステト「ちなみに現在、ゼニスのクラウドサーバ上に間借りしているため、マシンパワーを十分に利用できません」
バステト「ゼニス側に察知されるリスクを犯して良いということでしたら、もっと早く解析できますが」
久常紫雲「無理しなくていいよ。それで?」
バステト「はい。解析が完了した結果、最重要情報が判明した可能性があります」
久常紫雲「最重要・・・情報?」
バステト「はい。物資の運送パターンから、智是の拘束されている可能性の高い施設を特定しました」
空中にウィンドウが開き、ゼニス日本支部の本社ビルの概略図が表示された。
バステト「場所は、ゼニス日本支部の地下。 智是の救出作戦実行へ、大きな前進です」
久常紫雲「・・・!」
久常紫雲「それって、ちーちゃんをすぐ助けに行けるってこと!?」
バステト「いいえ。大きな前進です。 可能性が高い場所が判明しただけです」
久常紫雲「そこに、ちーちゃんがいるんだよね?」
バステト「確率は98.9%ほどです」
久常紫雲「つまり、いるってことだよね?」
バステト「・・・そう言って、問題ないかと」
久常紫雲「よし、じゃあすぐ行こう!」
バステト「紫雲、落ち着いてください」
久常紫雲「なんで!」
バステト「セキュリティが先ほどの施設の比ではありません。事前の調査が必要です」
久常紫雲「じゃあ、やって」
バステト「既に実行中です」
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