ベアトリーチェがいるなら絶対負けない

さかがも

喫茶店にて(脚本)

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〇カウンター席
磐井拓海「げっ、またいる・・・」
磐井拓海「さっさと帰れよニセモノ。 今日はここのスイーツ、楽しみにしてたんだから」
磐井拓海「先に来たのは俺だって」
  状況を整理しよう。俺、磐井拓海は数日前から自分のニセモノ──ドッペルゲンガーに悩まされている。
  アイドルなんて事をしている以上、厄介なファンがいないわけじゃないが、外見まで似せてくる手合いは初めてだ。
磐井拓海「せっかく前から目をつけてた目をつけてたカフェでゆっくりしようとしてたのに」
磐井拓海「とはいえ、混んでるから誰かに気付かれると厄介だな。磐井拓海似の双子って事でやり過ごそう、そっくりさん」
  一応、悪くはない考えだ。こちらを見ながらひそひそと顔を寄せ合っている他の客に気付いてトレイを置く。
  磐井拓海は一応は名の知れたアイドルだ。ファンサービスも欠かすわけにはいかないが、
  オフのスイーツ巡り関しては、少しだけ放って欲しいと思うところが無いわけでも無い。
磐井拓海「利用させて貰うよ。これ食ったら解散で」
  机の上には既に同じプレートが乗っていた。
  自由に選べるフレーバーやトッピングの種類まで同じだ。
磐井拓海「襟をつまむの、やめてもらっていい? マネージャーからその癖治せって散々怒られたばっかりなんだ」
磐井拓海「最初の現場で、こうすると様になるってスタイリストさんからレクチャー受けたんだけど」
  怒られたのも事実だし、様になると言われたのも事実だ。
  このニセモノは恐ろしいまでにこちらのことを知っている。
磐井拓海「第一、俺をニセモノだっていうけど、俺がホンモノの磐井拓海だ。24歳、A型。身長182cm。趣味はスイーツ食べ歩き」
  そんなことは事務所のプロフィールに載せていることだから、簡単に詐称できる。
磐井拓海「誰も知らないことを言っても確かめようが無いだろ。例えば昨日の仕出し弁当にソースがついてなかったこととか」
磐井拓海「何でそれ知ってるんだよ・・・」
  なりすましにしては知りすぎている。
  スイーツを口に運びかけたニセモノの腕を掴んだ。
磐井拓海「知りすぎているし、存在している。 気になるのはそれだね」
磐井拓海「幻覚だと思いたいけど、何人ものファンが握手をした、サインを貰ったって証言を上げているんだ」
  ファンを信じないわけにはいかない。
  だからもっと非現実的で、かつ現に実体として現れられるような方法を考えてみたんだ、と言って目の前のニセモノを眺めた。
磐井拓海「例えば悪魔を呼び出して契約をすることで、姿を変えたり、誰かの秘密をつまびらかに出来るじゃないか?」
  あくまでも仮定の話だけど、と言いながら話を続ける。
磐井拓海「変化したなら実体はあるわけだし。秘密を明らかにすることも、あくまであれば造作ない」
磐井拓海「それで? この磐井拓海は誰だって言うのさ」
  調べがついたから君と話そうって気になったんだけどね、とニセモノを眺めた。
磐井拓海「最近めっきり見ないファンの子がいるんだ」
磐井拓海「あいにく、1人1人全部調べたんだよ。ファンをやめた人も含めてだ」
  どうやら1人消えたらしい、と磐井拓海の顔をまじまじと眺める。
磐井拓海「他人になりすまそうって言うなら、多少なりとも俺に興味を持っているはずだろう?」
磐井拓海「誰かになりきるには、自分の姿は消さなきゃならない。君が現れるようになってから、その子の姿を見たものは誰もいない」
磐井拓海「だから、君はその子なんだろう? 君の名前は、」

〇カウンター席
  その名を呼ぶともう1人の磐井拓海の姿は消えた。きっと、名前を言いあてれば消えるものだったのだろう。
  そういう悪魔があることを、昔童話で聞いたことがある。何という名前だっただろうか。

〇カウンター席
  さて、この話はもう一つ話を追加して締めることにしよう。
  なぜそれを知っているか、ということは無用な詮索だ。
  砂糖壺の中に悪魔を呼び出し、賭けをしようと言ったその人の名を今となっては知ることは出来ない。
  仮に彼女の名をマルガレーテとして、

〇カウンター席
マルガレーテ「砂糖壺の中の悪魔さん、わたしと一つ賭けをしない?」
マルガレーテ「私は彼が神様だって信じているわ。 あんなに素晴らしくて美しい人がこの世の中にあるとは思えない!」
マルガレーテ「けれど私はファンの1人にすぎないから、彼から名前を呼ばれることすら叶わない」
マルガレーテ「みんなは彼のことをただの人間だって言うわ」
マルガレーテ「ならばあなたの力で、私を彼の姿に似さしめて」
マルガレーテ「彼がわたしの名前をあてることができたら、この魂はあなたのもの。 わたしが勝ったら、彼の魂はわたしのもの」
マルガレーテ「そんな賭けはどうかしら?」

〇カウンター席
  悪魔は彼が人間だと知っていたので、一も二も無くこの賭に飛びついた。
  全知全能の神とは違う、たかが一介の人間なのだ。
  彼女との契約に従って、悪魔は彼女の姿を彼に似せしめ、彼しか知らないはずの知識をもたらした。
  こうして磐井拓海のニセモノができあがったというわけだ
  けれども、

〇カウンター席
  彼に名前を呼ばれたとき、賭けに負けた彼女の魂は
  悪魔の手の内を抜け、神ならざる人の手によって、彼に名を呼ばれたときめきで昇天していたのだ。
マルガレーテ「彼が勝っても、わたしの勝ち。 なぜならわたしの魂は天国にあるから!」
  残された悪魔は歯がみして、砂糖壺の中に沈んでいった。
  ベアトリーチェが本当にこの世にあるとは、思ってみもしなかったのだろう。

コメント

  • 圧倒的情報量なこの表紙、さてはファンの娘のプロファイリング?
    「ビッチ・バレイへようこそ」と同じく、上質なショートショートを味わった気分です☺︎
    憧れの存在から認識されたら文字通り天にも登る気持ちになりますね。
    本作の場合、ダンテならぬ少女にとってのベアトリーチェがアイドル・磐井拓海になる訳で、悪魔との契約でもタイトル通り「ベアトリーチェがいるなら絶対負けない」…

    すごく面白かったです!

  • ドッペルゲンガーが現れて怖さを感じましたが、その実はとても真っ直ぐな恋心。その純粋さが心に響きました。
    もし自分が出会ってしまったとき、恐怖以外の感情を抱いてしまいそうですw

  • ドッペルゲンガーとの会話…。
    自分だったらどうするかなぁ。
    趣味思考が同じであればお互い深読みして行動に移せない気もしますが、別の人間と考えると…、うーん難しい笑

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