第四話 妖怪退治(脚本)
〇山並み
緑に覆われた深い山々──
〇けもの道
青馬文彦「ゼイゼイ・・・」
青馬文彦「ハアハア・・・」
〇山間の集落
青馬文彦「やっと着いたか・・・」
〇集落の入口
青馬文彦「しかし想像以上の僻地だな」
日が暮れかけているせいか、人の姿もほとんど見かけない。
青馬文彦「いちおう店もあるのか」
青馬文彦「雑貨屋兼食料品店てとこか」
青馬文彦「お、狒々だ!」
〇田舎の役場
その近くには、古ぼけた木造の役場があった。
青馬文彦「ここにも!」
ベテラン職員「おにいさん、いまどき狒々なんかに興味があるんかい?」
青馬文彦「え? はい」
青馬文彦「狒々を倒・・・いえ、狒々の写真を撮りたくて」
ベテラン職員「それは今流行りの何とかチューバーとかいう・・・」
青馬文彦「は、はい、そんな感じです。役場の人ですか?」
ベテラン職員「もう生きた化石なみに長いことおるよ」
青馬文彦「最近でも、狒々の目撃情報はあるんですね。ホームページで見ました」
ベテラン職員「山の中で見たっていう村のもんが今でもおるが、ほんとかどうか・・・」
ベテラン職員「70年代の頃は目撃情報も多かったんよ。観光客もようけ来たし。妖怪っていうより、ネッシーやツチノコみたいな扱いで」
青馬文彦「大猿の妖怪である狒々は、地元の民間伝承にも登場しますよね」
青馬文彦「山中に棲んでいて性格は獰猛。しかも十人力の怪力」
青馬文彦「その狒々にたびたび村を襲われ、困り果ててるときに、武者修行中の鋼吉郎が通りがかって──」
ベテラン職員「おにいさん、若いのによう知っとるねえ」
ベテラン職員「木場山といえば、昔から〈鋼吉郎の狒々退治〉じゃからね」
〇山の中
山頂付近──
役場の男性から聞いた、もっとも狒々の目撃情報の多い場所だ。
文彦はここで、奇妙な技の型を稽古していた。
両手には、なぜか温かそうな羊毛ムートンの手袋をはめて。
その掌部分を道着の胸あたりに擦りつけるようにして、両腕をすばやく上下に動かしているのだ。
ザラザラザラ!
ザラザラザラ!
道着に擦りつけている両掌を、さらに速く激しく動かす。
・・・だが何の変化も起こらない。
青馬文彦「なにがダメなんだ・・・!」
〇山並み
〇テントの中
文彦は、無蔵から借り受けた奥義書をリュックから取り出し──
〝最終奥義 破邪雷神拳の章〟のページを開く。
青馬文彦「〝17代目正統後継者の鋼吉郎は、木場山の村を襲う妖怪狒々を退治することで、この奥義を会得した〟か・・・」
次ページには、手袋をした両掌を道着に擦りつけるようにして上下に動かしている挿絵と──
一見すると正拳突きのようだが、手袋をした拳から光のようなものを放っている挿絵が描かれている。
青馬文彦(どちらも身体の動かし方は詳細に説明してあるけど、それ以上のことは書かれていない・・・)
青馬文彦「これだけでは奥義の全貌はつかめない」
青馬文彦「やはり、実際に狒々と闘わないと会得できないのか・・・」
〇黒
二ヶ月後──
〇山の中
文彦は、川で獲った魚を夕飯に食べていた。
青馬文彦(山ごもりを始めてずいぶんたったけど、いっこうに狒々と遭遇する気配がない・・・)
青馬文彦(このままじゃ、大会に間に合わない)
青馬文彦(いったいどうすれば・・・)
青馬文彦「ぐぅ・・・」
すぐ目の前に、体長2・5メートルはあろう巨大な大猿が立っている。
狒々「グルゥゥ・・・!」
青馬文彦「狒々め、やっと現れたか・・・!」
文彦は道着のポケットから、羊毛の手袋をとりだして両手にはめる。
青馬文彦「よし、奥義を試すぞ!」
掌を道着に擦りつけるようにして、両腕を上下に動かしはじめる。
狒々「ウガァ!」
だがそれを邪魔するように、狒々は長い両腕を伸ばして襲いかかってくる。
青馬文彦「チッ!」
文彦はすばやくよけるも、狒々の攻撃は矢継ぎ早で途切れない。
不意に狒々の動きが止まったかと思うと、
狒々「ギシャーッ!!」
ひときわ大きな咆哮を浴びせかけてくる。
たまらず文彦は、両手で耳をふさいでしまう。
その一瞬の隙をついて、狒々は文彦の道着を片手でつかみ、軽々と投げ飛ばす。
背中から木の幹に激突し、地面に倒れ込む。
狒々「グルゥ・・・」
満足そうな声をあげ、動かなくなった文彦に迫ってくる。
文彦は、狒々がそばに来たとたんに目を開け、向う脛を蹴りつける。
敵を油断させるために、気絶したふりをしていたのだ。
狒々は悲鳴をあげ、もがき苦しむ。
青馬文彦「今だ!!」
ふたたび両掌を道着に擦りつけるようにして、両腕をすばやく上下に動かしはじめる。
ザラザラザラ!
ザラザラザラ!
道着がパチパチと音を立てはじめる。
青馬文彦「あと少し・・・!!」
文彦の髪の毛が、だんだんと逆立ってくる。
青馬文彦「よし、いける!!」
だが不意に、文彦は意識を失って崩れ落ちる。
続いて、狒々も意識を失って巨体が横倒しになる。
文彦と狒々の背中には、麻酔銃の矢が刺さっている。
草木をかき分けて、三人の男女が姿を現す。
一人は麻酔銃を手にし、一人はビデオカメラを手にしている。
リーダー「Fuck you!」
手ぶらの黒人男性がリーダーらしい。
全員の上着の背中に、〝自然保護団体 Land Shark〟(略してLS)と書かれている。
そして敵意のこもった顔で、意識のない文彦のことを睨みつけていた。
〇黒
つづく
次回予告
第五話 決闘裁判
乞うご期待!!
次回が楽しみです!