第15話 精霊を助けたら愛しくて愛らしい彼女たちをお嫁さんにすると誓って(中編)(脚本)
〇暗い洞窟
道を進む。入ってすぐ大きな広間に出るが休まず進んで行く。
緩やかに下っているようだ・・・
地下があるのか・・・?
しばらく道なりに進むと道が左右に分かれる。
真樹「どっちに行こうかな・・・」
翠「・・・! 静かにさっきの広間まで戻ろう・・・」
ミドリが何かを察知したようだ。
皆広間に戻っていく。
〇洞窟の深部
咲桜里「ミドリちゃん、奥に何かいたの・・・?」
想里愛「少し・・・血生臭いにおいがしませんでした?」
サオリやソリアが不安そうな声で話す。
翠「分岐の左の奥に、強い何かが居る気配を感じたの・・・ 移動しているからこっちに来るかもしれない。」
緊張が走りしばらく広間に待機する。
足音も聴こえて来ないし、姿も道の奥には見えていない。
翠「分岐の右に移動したみたいだね」
真樹「この道は危ないね、スロープ状の階段で2階層へ行ったほうが良いかもしれない。」
咲桜里「お兄ちゃん・・・!」
〇薄暗い谷底
入ってきた辺りに出口が見えない。
入口はいつの間にか閉ざされていた。
想里愛「・・・左に進んでみましょう。 時間が経てば出口がまた開くかもしれませんし・・・」
確かにこのまま待ってても進展しない、右に行かないだけまだ安全だと言えるだろう。
〇洞窟の深部
ミドリが広間から魔法で分岐の周辺の様子を伺う。
誰も居ないようなので、ゆっくり分岐まで行き左に進んで行く。
鼻をつんざくような腐臭が立ち込めていく。
床や壁には何かの体液のようなものが散らばっている。
真樹「うっ・・・。」
最初の広間よりも広い空間に出る。
4つ分は広く感じる。
そこには山のようにモンスターの死体が原型を留めず積み重なっていた。
元の姿の亡骸は見た限り1体しか居ない。
翠「この部屋で殺しあったのか・・・」
皆絶句していて声にならない。
しかし何が起きたのかは理解し体は震えている。
翠「こっちに来ている・・・!? なんで・・・隠れて!」
足音を立てぬよう亡骸の山の裏側に移動して息を潜める。
ぐちゃぐちゃと破片と化した肉体の一部や体液を踏む音が聞こえてくる。
ミドリに全員手を合わせるように言われる。
手を合わせると向こう側の様子が頭の中で明瞭に映る。
〇洞窟の深部
青色の長いフードを深くかぶった人物が居るが性別はわからない。
愛凛「うまくいったね、後はこの魔物を届ければ必要な金額まで届くよ。」
歩き回り地面に散らばる骸をよく観察している。
破片をよく見ると種族同士が徒党を組んで戦っていた事を理解したようだ。
愛凛「共闘していたのかな? それだと蟲毒の力が完全ではないけど・・・、 十分強い個体だし文句は付かないよね。」
じっと赤いキノコのモンスターを見る。
瞳は死んでいて体中に返り血を浴びている。
ミドリがさっきの気配と違う・・・と呟く。
先程の左奥に居たモンスターとは違うのか・・・?
愛凛「・・・向こう側に何人か居るね、君の力をもう一度計ろうかな。 文句が付いて返品はごめんだからね。」
謎の人物の視線が明確にこちらを向く。
気付かれている!?
真樹「僕が行くよ・・・人数はバレてないかもしれないし、皆は隠れててね?」
すっと立ち上がり移動しようとする時とほぼ同時に無言で3人に腕の裾を掴まれる。
想里愛「それで真樹さんが帰って来なかったら、あたしきっと後悔するから・・・一緒に行きます。」
咲桜里「サオリやミドリちゃんもいるんだから、皆で協力してやっつけようよ!」
〇洞窟の深部
その時ものすごい絶叫に近い声が聴こえる。
キーンと高くなっていって耳では聞き取れなくなるぐらいだ。
もう一度手を合わせて向こう側を覗くと、1体のキノコの亡骸を抱きかかえて泣き叫んでいる赤いキノコが映っている。
愛凛「君の姉妹かな? 今頃気付くなんて遅くない?」
赤いキノコの後ろでフードの人物はクスクス笑っている。
翠「いる・・・!」
視界の隅に黒いもやの様な塊が映っている。
それは次第に鮮明に且つ色濃く漆黒に染まっていく。
完全な黒い闇が声に導かれるかのように赤いキノコの元へ移動して・・・完全に重なった。
愛凛「えっ、制御が効かない・・・!」
キノコが殺意の籠る瞳で睨んでかと思うと手から赤く煮えたぎる球状の塊が放たれる。
フードの主は驚愕した表情で氷の柱を放つが一瞬で氷は溶けて術者の元へ降り注ぐ。
愛凛「さっきは相殺できていたのに!! あっ・・・きゃああぁ!」
叫びを意に介さず、塊を放ち続ける。
ミドリの使った聖域のようなものを張っているようだが完全に防げてはおらず、
フードは焼け焦げ腕に深い火傷を負っている。
キノコを見ると詠唱を始め、手に持ち上げた赤い塊がどんどん色を変えていく。
先程から部屋が暑い・・・
温度が上がっているのではないか?
塊はマグマのようにグツグツ煮えたぎり有毒そうな煙を吹き出しながら巨きく膨張させていく。
翠「真樹・・・たぶんフードの人の次はボク達がやられる。 今戦おう。」
全員が目を合わせ頷きキノコの正面へ飛び出す。
〇洞窟の深部
愛凛「無駄だよ、もう助からない・・・」
諦めの色をにじませて、弱く息を吐くフードの人物。
この人が主犯だと思われるが・・・
そんな事は後だ!
対峙すると体を仰け反らせて塊を放とうとしている。まずい!
翠「真樹、上着を開いて!」
僕の仕込んだ包丁に両手を合わせるミドリ。
冷気の塊が包丁の先端に籠っていくのが理解る。
僕はその包丁を敵の胸元目掛けて投げつける!
星「ぎゃっ!」
よろめいてフラついている。
願いでモンスターの言葉を理解できる事を思い出し少し躊躇するが、僕は何度も包丁を投げつける。
しかし次の攻撃は見えない何かに弾かれて相手に届かない。
相手も聖域を張っているのか!
ソリアとサオリがフードの人をミドリの後ろへ連れて行くのを確認しつつ、投擲を続ける。
なんとかならないのか!?
ミドリが聖域の詠唱を続ける中、キノコはすぐに体勢を直すともう片方の手のひらを頭上にかざす。
塊の周囲を風が強く渦巻きより激しく明滅して燃えていく。
そして勢いよくこちらへ投げつけ眼前にゆっくりと、しかし確実に死の色が視界を埋め尽くしていくのだった。