ギュッとして(脚本)
〇渋滞した高速道路
〇トラックのシート
早野 うた「若いのになぁ・・・」
都口 アキト「何か言った?」
早野 うた「なんでもありません」
アキトさんは28歳には見えない
「ついたよ」
そして、アキトさんはいつも優しい・・・
でも・・・
早野 うた「あの、キスしてください」
都口 アキト「なっ!何を言ってるんだ!」
私は畳み掛けるように身を乗り出した
早野 うた「私達付き合ってるんですよね?」
都口 アキト「そりゃ、まあ〜」
付き合い始めてもうすぐ半年がたつ
早野 うた「やっぱり私が子供だからですか?」
都口 アキト「そういうわけじゃ・・・」
アキトさんとは10の歳の差がある
早野 うた「手を繋ぐのだって、いつも私からじゃないですか!」
都口 アキト「・・・」
早野 うた「もういいです。送ってくれてありがとうございます」
都口 アキト「あっ!待って!」
乱暴に車のドアを閉めてしまう
〇学校脇の道
早野 うた「こんなつもりじゃなかったのに・・・」
大鳥 司「おはよう。車で登校とはいいご身分だな」
同級生の司だ
彼はいつも元気だ
早野 うた「仕方ないじゃない!私の家、電車もバスも一時間に一本しかないのよ」
大鳥 司「もしかして、いつも車なのか?」
早野 うた「まぁ、最近は・・・」
思えば、ずっとアキトさんに送ってもらっている気がする
アキトさんだって大学院での研究が忙しいはずだ
朝のアキトさんとの時間が好きだけれど・・・
やっぱり迷惑に思ってるのかな
お兄ちゃんの友達として紹介されたアキトさんに一目惚れしてアタックしたのは私だ
高校生の私じゃ、アキトさんに釣り合わないのかも・・・
いやいや、高校生って言っても卒業まで一ヶ月もないんだし・・・
でも、アキトさん優しいから私からの好意を断れなかったのかもしれない
早野 うた「はぁ・・・」
大鳥 司「どうしたんだよ?元気ないな」
早野 うた「司には関係ないよ」
大鳥 司「そうかよ」
大鳥 司「で、あれは誰だよ!」
視界の先にアキトさんがいた
彼氏だって紹介していいんだろうか?
恋人らしいことなんて何一つしてないのに?
早野 うた「ただの知り合いよ」
大鳥 司「ふ〜ん」
モヤモヤとした感情から目を逸らすように早足で校舎へと向かった!!
大鳥 司「あっ!待てよ」
司が追いかけてくる
アキト「・・・」
〇一戸建て
うたの家
〇女の子の二人部屋
あれから、一週間──
なんとなくアキトさんを避けている
アキトさんからのメッセージが並んでいるが返信する気にはなれなかった
早野 うた「はぁ〜」
早野 うた「このまま、終わっちゃうのかな・・・」
早野 うた「えっ!アキトさん・・・どうして?」
早野 うた「電話は苦手だから滅多にかけてこないのに・・・」
早野 うた「出た方がいいのかな・・・」
〇大きいマンション
早野 うた「結局ここまで来ちゃった」
私のバカ!
早野 うた「電話一つで呼びされてノコノコ来るなんて子犬じゃあるまいし!」
でも、この世の終わりみたいな声に弱いのよね
早野 うた「はぁ・・・やっぱり帰ろう」
都口 アキト「来てくれたんだね」
早野 うた「まあ・・・」
都口 アキト「ありがとう」
早野 うた「・・・」
〇明るいリビング
いつ来ても、アキトさんの部屋のソファーは心地いいなぁ
早野 うた「いや、そうじゃない!」
大体、私、子供じみた事して飛び出しちゃった人間よ!
ここに居ていいわけない!
それなのに・・・
都口 アキト「お茶入れるね」
早野 うた「お構いなく・・・」
早野 うた「ああ〜やっぱり私アキトさんの事好きなんだ」
早野 うた「・・・」
早野 うた「でも、辛いな・・・」
都口 アキト「はい、お茶」
早野 うた「ありがとうございます」
都口 アキト「19時には送るからね」
早野 うた「あっはい」
やっぱり子供扱いされてる気がする
都口 アキト「・・・」
都口 アキト「ところで、この前一緒にいた男の子は?」
早野 うた「この前?」
早野 うた「もしかして司の事ですか?」
都口 アキト「彼とはその・・・」
うん?これってもしかして・・・
いや、そんな訳ないわよね
アキトさんが嫉妬だなんて。でも・・・
早野 うた「司の事・・・好きです」
都口 アキト「えっ!」
早野 うた「真に受けないでください」
都口 アキト「ごめん」
早野 うた「アキトさん、私の事好き?」
都口 アキト「もっ、もちろん」
早野 うた「なら、証明してください」
困ってる・・・
早野 うた「ごめんなさい。冗談です」
都口 アキト「・・・」
これだから子供扱いされるのよ!
都口 アキト「好きだよ」
早野 うた「えっ!」
私をそっと抱きしめるアキトさんの温もりを感じる
都口 アキト「その〜今はこれで勘弁してほしい」
アキトさんの顔は真っ赤だ
思わず、頬が緩む
早野 うた「もう、ヤダ・・・アキトさんの心臓、ドキドキしてる」
私はアキトさんの背中に手を回した
都口 アキト「うっ!恥ずかしい・・・」
ハグだけでこの反応?
これは先が長いわ
でも、まあ、いいや
だってアキトさん・・・
早野 うた「かわいい・・・」
都口 アキト「う〜ん。褒めてくれてる?」
早野 うた「はい。褒めてます」
なんだか胸の辺りがぽかぽかする
早野 うた「ねぇ、もっとギュッとして」
私は彼の服の裾を強く握った
都口 アキト「いいよ。君が望むなら」
彼の少し奥手な部分や、彼女の背伸びしている部分が相俟って、とても応援したくなるカップルになっていました!
素敵な作品ありがとうございます!
子供と大人の中間みたいな立場の高校生の心情がリアルで、大人になりたいけどなりきれない彼女の気持ちに切なくなりました。ラストの彼の行動と表情に、大人だってそうだよなぁ、と。年の差なんて関係なく、恋する男女ってこういうものだよなぁ…と読んでて微笑ましい作品でした😊
タイトルの「ギュッとして」に、彼女の全ての想いが詰まっているなと感じました✨
彼はウブで奥手で優しすぎます。と思ったけど本当は彼女が高校生で18歳に満たないから、恋愛行動を抑制してるのかもしれないと思いました。