モグラの夢

わらやま

読切(脚本)

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〇ダイニング
母「おはよう」
小倉 夢香「・・・おはよう」
母「・・・やっぱりよく眠れない?」
小倉 夢香「うん・・・あんまり・・・」
母「いいのよ・・・謝ることじゃないわ。 お母さんが報告の電話しておくから」
母「ところで、今日どうする? この前話した読み聞かせ会のボランティアの件・・・。無理はしなくていいのよ」
小倉 夢香「・・・行くよ。大丈夫」
母「・・・そう。 わかったわ。10時には出るから準備しておいてね。お母さんまだ少しタイプライター作業残ってるから」

〇図書館
司書「小倉さん、今日もよろしくお願いします」
母「いえいえ、こちらこそ」
司書「今日は夢香ちゃんも一緒なのね。 ありがとう。 夢香ちゃんは小学生のみんなへの読み聞かせお願いできる?」
小倉 夢香「・・・はい。 わかりました」
司書「・・・夢香ちゃん、まだ学校には復学できてないの?」
母「ええ、まだ・・・。夜もあまり寝られてないみたいで。 カウンセリング通いながら、少しずつ外出の機会も増やしているとこです」
司書「そう。本の読み聞かせで少しでも元気になってもらえるといいけど」

〇古い図書室
小倉 夢香「『──こうして2人は夢を叶えて幸せに暮らしました。 めでたし、めでたし・・・』」
少年「あー、良かったぁ!2人とも幸せになって!」
少女「面白かったー! オネェちゃんありがとう!」
小倉 夢香「・・・いえ。 どういたしまして」
  ふう、これで終わりね
  ん?
  あの子が読んでる本って
  お母さんが作った点字の本だ・・・。
  ってことは、あの子、目が──。
士竜 光「ん?」
士竜 光「誰かいるの?」
小倉 夢香「ご、ごめんなさい。 読者の邪魔しちゃって・・・」
士竜 光「ううん、全然。大丈夫」
士竜 光「あなた、もしかして、小倉夢香さん?」
小倉 夢香「え!!え!? うん、そうだけど・・・ どうして知ってるの!?」
士竜 光「ああ!!やっぱり!! ごめんね、突然・・・ びっくりしたよね?」
士竜 光「私あなたのお母さんとここで、お話したことあって、私と同い年の子供がいるって言ってたから」
小倉 夢香「ああ・・・そうだったんだ」
士竜 光「いきなりごめんね。 私は士竜 光。 よろしくね」
士竜 光「良かったら夢香って呼んでもいい? お母さんの事もよく知ってるから小倉さんって呼び辛くて、それに私達同い年だし」
小倉 夢香「うん、全然いいよ。士竜さん」
士竜 光「光でいいよ!! 夢香は今日はお母さんのお手伝い?」
小倉 夢香「うん、小学生向けの読み聞かせしてた」
士竜 光「そっか!!ありがとう!! 読み聞かせってすごい助かるんだよ。 点字って覚えても最初はスラスラ読めないし」
士竜 光「私も生まれつきほとんど目が見えないから、読み聞かせもいっぱい聞いたし。 今は点字の本を読んでるけど」
士竜 光「だから、夢香のお母さんにはすごく感謝してるの。いつも面白い本を持ってきてくれるから!!」
小倉 夢香「そうだったんだ。 喜んでもらえてるようで良かった」
士竜 光「ねぇ、夢香はどんな本をよく読むの?」
小倉 夢香「わ、私はなんでも読むよ。 あんまりジャンルとか考えた事ないけど、小説が多いかな。 ・・・光は?」
士竜 光「私もなんでも読むんだけど、やっぱり好きなのは冒険譚かな」
士竜 光「砂漠とか山とか海とか大自然相手の冒険ってすごいワクワクしない!?」
小倉 夢香「うん!!私も大好き!! 人類未到の地とかスゴいロマン感じる!!」
士竜 光「ホント!? 嬉しい!!同年代であんまり本好きな人いなかったから!!」
小倉 夢香「うん、私も嬉しい・・・」
母「夢香お疲れ様!! こっちは終わってるみたいね」
小倉 夢香「あ、お母さん。 うん、終わってるよ」
士竜 光「小倉さんこんにちは」
母「あら光ちゃん。こんにちは。 久しぶりね。 夢香とお話してくれてたの?」
士竜 光「はい!!本の話で盛り上がっちゃいました」
母「そう、それは良かった。 ありがとう。 夢香そろそろほら時間だから帰りましょう」
小倉 夢香「うん あの、また会えるかな?」
士竜 光「もちろん!! 私、読み聞かせ会の時はこれからはいつもいるから!!」
士竜 光「良かったらまた来てね。 私ももっとお話したい!!」
小倉 夢香「うん・・・またね」

〇通学路
小倉 夢香「お母さん 私また手伝いに来てもいいかな?」
母「ええ!もちろん! 大歓迎よ」
小倉 夢香「あと、点字本なんだけど・・・。 私でも作れたりするのかな?」
母「大丈夫よ!! 夢香の好きな本を点字の本にするといいわ。やり方は教えるから」
小倉 夢香「ありがとう。やってみる」

〇古い図書室
小倉 夢香「あ、あの!! 光!!」
士竜 光「夢香!? 嬉しい。また来てくれたんだ!?」
小倉 夢香「う、うん。 あのさ、今日は本を持ってきてて」
小倉 夢香「これ・・・私の好きな話なんだけど、お母さんと一緒に自分で点字の本にしてみたの。 良かったら読んでくれる?」
士竜 光「え、ホント!?嬉しい!! 読む!!読ませて!!」
士竜 光「・・・・・・・・・」
小倉 夢香「ど、どうかな? タイプライターのミスとかあるかもしれないけど」
士竜 光「ううん、ちゃんと読めるよ!! この本すごく面白い!! 夢香の好み、やっぱり私と凄い似てる!!」
小倉 夢香「よ、良かった・・・」
士竜 光「翼を得た少年が世界中を旅する物語ね」
士竜 光「私もこの少年みたいに世界中を冒険したいな・・・ 私の夢なの」
士竜 光「夢香には叶えたい夢とかある?」
小倉 夢香「え!?夢!? ・・・別に今はないかな?」
士竜 光「そっか 夢香ならきっといい夢が見つかるよ。 私の夢は叶わないかもだけど・・・」
小倉 夢香「・・・・・・」
  30分後──。
士竜 光「この本すっごく面白かった!!ありがとう!!」
士竜 光「でさ、もちろん夢香さえ良ければだけど、 今後もオススメの本を紹介してもらえると嬉しいな」
小倉 夢香「う、うん、全然大丈夫だよ! わたしも光と一緒に語り会いたいから!! また作って持ってくるね!!」
士竜 光「ホント!?ありがとう!!」

〇古い図書室
  あれから約2ヶ月
  私は毎週のように読み聞かせ会に参加し、
  光と色々な話をした。
  そんなある日──。
小倉 夢香「今日もすっごい楽しかった!! ありがとね光!! また来週!!」
士竜 光「その事なんだけど、夢香・・・。 私ね・・・。来週でこの会に参加出来るの最後なんだ」
小倉 夢香「え!!な、なんで!?」
士竜 光「私・・・手術のためにアメリカに引っ越すの」
小倉 夢香「手術って!?どこか悪いの!?」
士竜 光「ううん、病気とかじゃなくて・・・」
士竜 光「視覚の再建手術・・・が出来るようになったの」
小倉 夢香「え!? 光の目が見えるようになるって事!?」
士竜 光「うん、成功すれば──。 まだほとんど前例がなくて、アメリカの病院でしか手術も術後ケアも受けられなくて」
士竜 光「急にごめんね。手術の予定や親の仕事の調整が昨日やっと確定したの・・・」
小倉 夢香「そ、そうなんだ・・・。 いや、うん、ビックリしたけど・・・。 光の視力が回復するんなら、 こんなに嬉しいことはないよ」
士竜 光「ありがとう・・・」
士竜 光「だから、来週が夢香のオススメの本を読める最後の日になっちゃうんだ・・・。 寂しいけど、とっておきのお願いね!!」
小倉 夢香「・・・うん。わかった」

〇本棚のある部屋
  そんな・・・。
  
  光と離れ離れなんて・・・。
  せっかく仲良くなれたのに・・・。
  最後の本・・・。
  よし──決めた!!

〇古い図書室
士竜 光「今日で最後ね・・・」
小倉 夢香「うん・・・」
士竜 光「とっておきの本持ってきてくれた?」
小倉 夢香「・・・うん。 ──私のとっておきだよ」
士竜 光「ありがとう!! 早速読むね!!」
士竜 光「ええと、タイトルが『モグラの夢』 著者が・・・小倉 夢香・・・!? え!?ど、どういうこと!?」
小倉 夢香「この本・・・私の、自作小説なの・・・」
士竜 光「えっ!?ホントに!?」
小倉 夢香「うん、私、小説家になりたいんだ」
士竜 光「え!?そうなの!? でもたしかこの前は夢なんか無いって・・・」
小倉 夢香「ご、ごめん 学校の友達にこの事を言ったらみんなにバラされて笑われて、それで学校にも行けなくなっちゃったから・・・」
小倉 夢香「モグラのくせに とか、根暗野郎 とか、 言われちゃって・・・。 もちろん光はそんなこと言わないって分かってたんだけど」
小倉 夢香「今まで言い出せなかった。 それに学校行かなくなってから筆も進んでなかったし・・・」
小倉 夢香「でも光と出会ってから少しずつまた書けるようになって・・・やっと一作できたんだ!! だから最後に読んで欲しくて・・・」
士竜 光「そうだったの・・・ 辛かったね。 ──ありがとう」
士竜 光「小説家なんて凄くいい夢じゃない!? 応援するよ!! 夢香ならきっとなれるよ!!」
士竜 光「私も目が見えるようなったら・・・」
士竜 光「点字じゃなくて、 活字の本を自分の目で読む!! 出版された夢香の小説を──」
小倉 夢香「・・・光・・・ありがとう」
士竜 光「ううん、私こそありがとう。 『モグラの夢』──大事に読むね ちなみにどんなあらすじなの?」
小倉 夢香「『モグラの夢』はね、目のほとんど見えないモグラが太陽を──光を求めて冒険する物語なの・・・」
小倉 夢香「実は今渡した本は途中までなんだ・・・。 最後まで書きたかったんだけど、間に合わなくて・・・」
士竜 光「──このお話の最後は決まっているわ」
士竜 光「きっとモグラは夢を叶えて光を見ることが出来る。 そうでしょ?」
小倉 夢香「光・・・本当にありがとう。 手術上手くいくように祈ってる!!」
士竜 光「うん・・・またね・・・ 夢香の夢もきっと叶うよ。 ずっと応援しているから」

〇オフィスビル
  光がアメリカに引越してから、
  3年の月日が流れた。
  私は出版社と契約が出来、プロの小説家として単行本を出版することが決まった。
  タイトルは『点と点』
  
  私たち2人の実体験をベースに書き下ろしたヒューマン小説だ。
  見本誌が届いた日、私はそれをアメリカに送った。
  この本の最初の読者──光に。
  光──。
  
  モグラは太陽を・・・光を見る事が出来たよ
  
  本当に・・・ありがとう

コメント

  • お互いがお互いの背中を押せる、そんな素晴らしい出会いだったのですね。もしかしたら出会うべくして出会ったのかも。
    そう考えると人生ってどのタイミングでどんな変化があるのか、わからないものですよね。

  • 光の名字「士竜」がちょっとしたミスリードになってますかね?タイトルの「モグラ」は光を指しているかと思ったので、夢香を(も)指していたのは予想外でした
    全盲の子の名前が「光」というのも、今後の運命を暗示しているようで素敵ですね

  • 二人とも自分の夢に向かってるところがすごく良かったです。
    読んでて勇気づけられるようなお話でした。
    二人とも本当に強くて、前向きで、素敵な人達です。

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