ロマンチストなきみに捧ぐ

汐カオル

読切(脚本)

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汐カオル

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〇黒
  樹と私は幼馴染だった。
  その関係性が「恋人」に変わってから、早いもので今日で一年が経つ。
  「デートをしよう」
  樹からそう誘われた時は
  記念日だし、何か特別なことがあったりして・・・・・・。
  そんな風にちょっぴり期待して、いつもよりお化粧も髪型もコーデだって気合いを入れたんだけど。
  なんてことはない────いつもと変わらないデートだった。
  いや、楽しかったし、別にいいんだけど、一年記念日だって浮かれていたのは私だけなのかなって、ほんの少し、寂しくなった。
  そんな中、「最後に行きたいところがある」なんて言われたから、どこへ行くのかと思ったら。

〇見晴らしのいい公園
「うわぁ! すごーい!」
  連れて来られたのは、夜景の綺麗な公園だった。
樹「だろ? どうしても今日、お前を連れて来たかったんだ。晴れて良かったわ」
  「今日」という単語に私は思わず反応する。つまり、それって。
樹「付き合って今日で一年、だろ。・・・・・・忘れてねぇよ」
「もー! 覚えてたならもっと早く言ってよ!」
  私の文句を「悪い悪い」と流した樹は照れように頬をかいた。
樹「でも、ここで言いたかったんだ。・・・・・・どうしても」
  少しの沈黙。
  その僅かな間に、樹の表情はがらりと変わる。────真剣だった。
「え、な、何?」
  どきり、と心拍数が跳ね上がった。
  樹がこんな顔をするのは珍しい。
  幼馴染だった期間も含めればかなり長い付き合いになるけれど、これで二度目だ。
  一度目は「好きだ」と告白された時。
  じゃあ、二度目の今は、一体。
樹「プレゼントがあるんだ」
  声色から緊張が伝わってくる。
「樹?」
  そう呼びかける私の声も、緊張と戸惑いと────それから少しの不安とで震えていた。
樹「プレゼントは、その、俺の────」
  そこで言葉を切った樹は瞳を閉じて。
樹「俺の残りの人生です!」
  真っ赤な顔で、そう言った。
「・・・・・・ぷっ!」
「あはははは! 何その恥ずかしいセリフ! ドラマの見すぎだよ!」
  耐えきれず笑い飛ばしてしまった私を見て、樹は「はぁ!?」と真っ赤な顔のまま声を荒らげた。
樹「お前が言ったんだろ! プロポーズはドラマみたいにとびっきりロマンチックなやつがいいって!」
「え?」
樹「だからめちゃくちゃ考えて、わざわざ凝った言い回しにしたのに!」
「ちょっ待って、私が? いつ?」
  全く身に覚えがないんだけど、そんな事言ったかな・・・・・・。
  私に笑われたのがよっぽど堪えたのか、樹は聞き取れないくらいの小さな声で、でも確かに呟いた。
樹「・・・・・・小学生の時」
「いや付き合ってもいない頃じゃん!」
  それどころか樹への恋心すら自覚する前だよ!
  思わず全力でツッコミを入れた私の前で、「クソ、こんなことなら普通に言えば良かった」と樹は苦々しい顔。
  でも、小学生の頃か・・・・・・。確かに恋愛ドラマにハマっていた頃だし、ませてたからな・・・・・・言いかねない。
  当の本人が忘れているくらい昔のことなのに覚えていて、それを実行してくれたのは純粋に嬉しかった。
  それにね、答えはもう、決まってるんだ。
「樹、ありがとう」
樹「・・・・・・」
「えっと、私からもプレゼントしていいかな」
  弾かれたように樹がこちらを見た。・・・・・・笑ってる。
  私が言いたいこと、わかってくれたみたい。
  だけど全部言わなくちゃ。
  樹がしてくれたみたいに、私も。
「私の人生を全部あげるので、結婚してください」
  この言葉をきみに捧げるよ。

コメント

  • 彼が彼女の昔言った望みをかなえるために色々と準備した背景が伺えて、とてもいい話だなと思いました。素敵な物語ありがとうございました!

  • 樹くんはヒロインの幼い頃の言葉を覚えていて、必死にどう言おうか考えていたのですね!愛しいが過ぎます❤
    小さい頃からお互いを知っているからこそ、特別なキュンでした!
    ヒロインと樹くんの未来はきっと、幸せで溢れているのでしょうね😊

  • 時と場所を選んで真剣な面持ちと態度でプロポーズをした彼は勇気あって素晴らしい。彼女は昔のことを忘れていましたが、彼の真剣な気持ちに答えるように素敵な返事をしたのが良かった。

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