化け物クリエイターズ

あとりポロ

エピソード3『出会い』(脚本)

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〇荒廃した街
  黒く美しかった『奈久留』が死んで10日後の事だ。
緋色(幼少期)「俺、ちょっと修行に行ってくる」
  『緋色』は、ボクたちへ一方的に別れを告げた。よその町へ行くと言う。頭をかき照れくさそうなフリをして、彼が笑った。
緋色(幼少期)「だって、いつまでも弱いままじゃ、『創』たちに守られてばかりじゃ、カッコ悪いもんな!」
  黒い髪をかいてぎこちなく笑う『緋色』は、いつもの『緋色』のように見えた。
  挙動不審なその表情を除けば本当にいつも通りの彼だった。
創(幼少期)「『奈久留』はボクが冷凍保存しておいた」
  ボクの言葉に、『緋色』の笑みが霞む。赤くなっていく空を見て、その後、彼はボクへ笑った。
創(幼少期)「ボクが、ボクがいつか『奈久留』を絶対に助ける! そして必ず仇を討とう! 約束だ、『緋色』」
  これは誓いだった。美しかった彼女の為の誓い。ボクと『緋色』は腕を絡める。
  『みれい』は顔を伏せて『緋色』の前に居た。長い髪の下からゆっくり振り上げられた鼻の下で唇が狂おしく動いている。
みれい(幼少期)「『緋色』は死なないよね? 私の所に戻ってきてくれるよね?」
  『みれい』は細く白い指を組み、他所の街へ逃げていく、という『緋色』へ願った。
緋色(幼少期)「ああ!」
  『緋色』が『みれい』の髪を優しく撫でる。そして『緋色』はボクたちに背を向けた。
みれい(幼少期)「待ってよ! 私を置いていかないでよ、『緋色』!」
  振り返らずに『緋色』は答えた。
緋色(幼少期)「助けてほしい時は呼んでくれ。何処からでも、きっと駆け付けるから」
  苗字を持たない、幼馴染の弱虫『緋色』は、その日、夕陽と共に赤茶けた山の先へ消えていった。

〇荒廃したショッピングモール
  【2033年、イバラキ。『ヒト腹 創』】
みれい「『創』! どうすればいいの? 聞いてるの? 『創』!」
  意識が6年前から帰ってくる。
  皆が『ペストネズミ』に近づけず、手をこまねいていた。果敢に近づこうとするうちの『キメラ』も居るが、その尾が震えている。
  そんなキメラの皆を、『みれい』と『飼葉《かいば》タタミ』が抑えていた。
  この背に『タタミ』が体を寄せる。ミディアムストレートの黒髪がボクの肩へ触れた。
  『飼葉タタミ』彼女は飼育・調教兼、お茶くみ隊長である13歳の女の子だ。
タタミ「リーダー。『みぃちゃん』なら行けるよ」
  『みいちゃん』とはボクたちが作った猫ベースのキメラだ。
  体長11mの巨体で、今居るうちのメンバーで唯一『ペスト』に耐性がある事が解っている。
  しかし『ペストネズミ』を傷つけた時、その体液の噴出は免れない。いくら『みぃちゃん』が良くてもボクたちが感染する。
  けれど『みぃちゃん』しか安全、いや、比較的安心して戦えるメンバーは居なかった。
「お困りのようだね、『化け物クリエイターズ』の諸君」
  見上げると、民家の上、雲の隙間に誰かが立っているのが見えた。
  黒い帽子・鳥形の仮面を被った長身の男、40前半くらいだろうか? そいつが高いそこから、ボクらをあざけるように見下していた
ツクル「・・・・・・誰だ? お前は」
歯車フォーチュン「『歯車フォーチュン』と申します。キミたちとは、是非とも挨拶をしておきたくてね」
  ボクの問いに杖を振って応える。その杖にも、何か仕込んでありそうだった。
ツクル「あんた、このネズミたちのリーダーかい?」
  鳥仮面のそいつが頷く。杖を突き、そのくちばしがボク達を前につり上がった。
ツクル「おいおい。こんなお粗末なものじゃなく、もう少し『格』のある奴らを連れておいでよ」
ツクル「ネズミ3匹じゃ、うちの『みぃちゃん』だって腹ぺこさ」
歯車フォーチュン「そうかい。失礼したよ」
  『歯車フォーチュン』、そいつが喉を転がすように笑う。表情は仮面の中でよく分からない。
歯車フォーチュン「なら、うちの子たちは肩を借りようじゃないか。その『みぃちゃん』に。・・・・・・それでは少々早いが、皆さんごきげんよう」
  『フォーチュン』はハットを手に、頭を下げた。 その長い足の角度を反転させる。
ツクル「逃げるのか?」
歯車フォーチュン「いやいや。世間に響く『化け物クリエイターズさん』がどれほどのモノかと思ってね。・・・・・・いや、とんだ期待外れだったよ」
  『フォーチュン』が杖を踊らせ屋根上で黒い革靴を鳴らす。その背がボクたちから立ち去ろうとした。
ツクル「最後に聞きたい。お前、・・・・・・6年前この街に来なかったか?」
  その背が静かに動きを止める。ハットを目深に被り、『フォーチュン』は息をこぼした。
歯車フォーチュン「さぁ、どうだろうね」
  「・・・・・・あ」と、その顔だけを振り返らせた。それも満面の笑みで。
歯車フォーチュン「そうそう、私もキミたちに言いたかった事がある」
  その仮面のレンズが煌めく。顔の角度を変えることなく『フォーチュン』はボクたちに語った。
歯車フォーチュン「――ネズミ肉、美味シソウに食べてたよ。あの子」
  喉を震わすその姿を前に、身体があふれ出るチカラを抑えることを許さなかった。
  こいつこそが、黒いあの子を葬った仇! それを殺すチャンスは今しか無い!!
  腰から、とっておきの銃を取り出し撃ち放つ。
  『フォーチュン』は軽々と杖を振るい、傘状に開いたソレで銃弾をはじいた。位置を変えたボクに今度は『ペストネズミ』が迫る。
  悠々と杖を閉じその背が屋根を伝い渡っていく。燃える夕日に向かい跳ねるように遠ざかっていった。
  追いかけようとする仲間たちを3体の『ペストネズミ』が阻んだ。
  『みぃちゃん』が襲い掛かる。だが『みぃちゃん』と巨大ネズミの交戦は、すぐに均衡が崩れた。
  3対1、しかも『みぃちゃん』は、ボクたちに『ペスト』が感染《うつ》らないように、ボクらを守りながら戦うしかない。
みれい「みぃちゃんっ!」
  『みれい』が悲痛な泣き声を上げる。何も出来ない! 『みぃちゃん』の巨体が民家をおし潰していく。
「──大変そうだね」
  『知らない男』が路地裏からボクたちの元へ歩んできた。それはあの『フォーチュン』とは別の男だった。
  齢は50くらいだろうか? 『フォーチュン』より、歳を重ねているように見えた。
  幅のある肩、大きな体躯で、白髪の混じった黒髪、彫りの深い顔に幾つものシワを蓄えている。その目は無邪気に笑っていた。
  彼は自身の左手側に刀を携え、居合の姿勢を取った。
  一方的に街を壊し、『みぃちゃん』を虐げた『ペストネズミ』たちは、その身に危険を感じたのか
  目標を白髪の男へと変更し、襲いかかった。
  それは瞬きの間に起こった。
  一瞬で大気に6つの太刀筋が奔る。空に銀の糸を引いたようなそれは、本当に見えないくらい、僅かな時間の出来事だった。
ジョーカー「これも、・・・・・・朽ちた世の綻《ほころ》びか、」
  男の呟きののち『ペストネズミ』3匹はそのままの姿勢で前傾に倒れた。
  奥の建屋・『化けクリ』メンバー、全てを無傷に『ペストネズミ』3匹にも一切の傷が見受けられない。
  全く訳の分からない攻撃だった。ただ分かったのは、
  
  刀を仕舞う彼が、圧倒的な強者だという事。
ジョーカー「四肢の腱を切った。あとはキミたちが好きにするといい」
みれい「あなたはいったい、いったい何者なの?」
  『みれい』の声を受け刀を納めた彼が振りかえる。
ジョーカー「私に名は無いよ。どうしても名を呼びたかったら、・・・・・・そうだね、『ジョーカー』と呼ぶといい」
  切れ長な目を見開き、唖然とした顔で『みれい』が口にした。
みれい「『ジョーカー』?」
  白髪の男『ジョーカー』は優しい笑みを示した。軽々とその巨体を立ち上げ、ボクたちへ語る。
  礼節に満ち、埃を払う所作《しょさ》すら見せない。それは強者の余裕だった。
ジョーカー「そうだ。キミ達が欲すれば私は文字通り『切り札』となろう。キミたちが私を、『ジョーカー』を手札に加える事が出来たら、だがね」
  ――『ジョーカー』と名乗る男が去っていく。茫然と立ち尽くすボクたちを置き捨て、赤黒い陽を背に何処までも歩いていく。
  それが謎の男『ジョーカー』と、ボクたち『化け物クリエイターズ』の出会いだった。
  𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭

次のエピソード:エピソード4『切り札』

コメント

  • 一度他サイトで既読てはあっても。サウンドビジュアルと共に鮮やかに作品が立ち上がります!いち早くアニメ化された作品を見られるような臨場感もありますね!再読することで作品への新しい発見や理解も深まる気がしました。ぜひほしのさんの作品が元々お好きで読まれている方にも体験して欲しい!とても有意義な時間でした!ありがとうございますm(_ _)m

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