エピソード1(脚本)
〇ネオン街
かのん「・・・残す必要ないよね、・・・もう、明日は、」
かのん「・・・最後の夜は誰かといたいから、」
〇狭い畳部屋
かのん 義父「おい、酒が切れてるぞ、すぐ買ってこい!」
かのん 母「今月はもう、お酒買う余裕ないの、」
かのん 義父「はぁ、ふざけてんのか、」
義父は戸棚を探り、本に挟まれた封筒から紙幣を抜き取り、本を母に投げつけた。
かのん 母「そのお金は、かのんの学校に」
かのん 義父「うるせぇ、口ごたえすんな!」
お金を取り戻そうとした、母は義父に酷くなぐられ、倒れたまま泣き続けた。
かのん 子供の頃「・・・お母さん、お母さん、」
〇古いアパート
母親は、かのんを連れて家を出た。2年後、病を患い、母親は他界した。残されたかのんは、身よりがなく、施設に預けられた。
〇ネオン街
恭一「あー!やられた、なに、8万円って、30分飲んだだけだぞ!」
浩介「だから、やめとけって言ったろ、ホイホイついてくからよ、俺ら、完璧なカモなんだよ」
恭一「・・・くそっ!」
浩介と恭一は大学卒業後、2年ぶりの上京、友人の結婚披露宴二次会後、新宿に繰り出したが、
逆ナンされた、女性2人に連れて行かれたバーでボッタクリ被害にあった。
〇ホストクラブ
ホストクラブ店内
ホスト リュウ「こんばんわ、僕はリュウ、さあ、こちらへどうぞ、」
かのん「あ、ありがとうございます」
ホスト リュウ「あれ、ちょっと緊張してるかな?」
かのん「・・・はい、ちょっと、はじめてなので、」
ホスト リュウ「そっか、うん、大丈夫ですよ、くつろいでください、」
かのん「ありがとうございます、」
ホスト リュウ「今夜は、ゆっくり飲んで話して、楽しみましょう、」
〇ファミリーレストランの店内
終電を逃した2人は、所持金も残り少なく、始発まで、ファミレスで時間をつぶすことにした、
恭一「・・・はぁ、社会人2年目になって、まさか、ドリンクバーだけで朝までファミレスに居座ることになるとはな、」
浩介「まあな、でも、外ふらついてるよりましだろ、・・・今の俺らには、」
恭一「自分で言うのなんだけど、そんなモテないとは思えないんだよな、」
浩介「ってか、そういうの関係ないんじゃないか、」
恭一「えっ、・・・どういうことだよ、」
浩介「だから、この繁華街でさ、深夜にふらついてる子が、すてきな出会いとか求めてないだろ、」
恭一「だよな、・・・もともと、俺らの動機すら、遊べればって、下心満載だったからな、」
浩介「だまし合いの駆け引きに、負けたんだよ、」
〇オフィスのフロア
課長「横井さん、この企画書、全く使いものにならないよ、明日の朝までに、別の案を出してくれ、」
かのん「はい、すみません、・・・でも、明日の朝までに間に合うか、」
課長「間に合うかじゃなくて、間に合わせるんだよ、」
かのん「・・・はい、かしこまりました、」
主任「横井さん、ちょっといいかしら、」
かのん「あ、はい、なんでしょう」
主任「来週の接待のお店なんだけど、和一ってどういうこと、」
かのん「あ、それは、創作料理の和食が美味しいお店なので、」
主任「はぁ、誰が食べて美味しかったわけ、・・・あなたでしょ、基準が低すぎ、恥ずかしいと思わないの、」
かのん「あの、どこでもいいから、私に任せるからと、おっしゃっられたので、」
主任「なにそれ、私が悪いってことよね、」
かのん「いえ、そんなつもりでは、」
主任「もう、結構、他の人に頼むわ、」
部長「・・・おや、どうしたかな、元気ないね、横井くん」
かのん「えっ、──やめてください、」
部長「いいじゃないか、減るものでもなし、」
高校卒業後に就職した会社では、パワハラ、セクハラ、いじめのオンパレードで、かのんは入社半月で退職した。
その後も、最初の会社で受けた心の傷は癒えず、仕事は長く続かなかった、
〇ホストクラブ
ホストクラブで楽しむはずが、なぜか、幼い日の家庭内暴力や辞めた会社の暗い記憶が断片的に蘇る。
ホスト リュウ「どうしたのかな、・・・浮かない顔してるよ、笑ってた方が素敵だよ!」
かのん「あ、ごめなさい、・・・」
ホスト リュウ「ふふ、そんな、ごめんばかりだね、ごめんなさいは、ここではいらないからね、」
かのん「はい、ありがとう、」
ホスト リュウ「何か悩みでもあるなら、相談のるよ、・・・彼氏さんのことかな?」
かのん「あっ、」
ホスト リュウ「ごめんね、ちょっとストレートに言い過ぎたかな、」
〇デパ地下
会社を辞めた後、かのんは、仕事を転々としていた。そして、かのんの前に、彼氏と彼氏に仲良く寄り添う見知らぬ女性が現れた。
見知らぬ女性「あの、これっていくらですか?」
かのん「はい、そちらは、・・・」
かのん「あ、・・・」
かのんの元彼「・・・」
見知らぬ女性「え、なにか?」
かのん「あ、すみません、そちらは、5,800円になります、」
2人が売り場を去ってから間もなく、一通のラインが届き、かのんの恋は終わった、
〇電車の中
浩介「・・・、疲れたな、」
恭一「あー、始発で帰ってホテルで寝る、むなしぃー、チェックアウトって何時だ?」
浩介「うーん、9時か10時、まあ、3、4時間は寝られるな、」
恭一「・・・うん、」
浩介「なに?」
恭一「ラストチャレンジ、・・・渋谷で降りたら、声かけてみる、」
浩介「好きにすれば、」
〇駅のホーム
恭一「あのう、突然すみません、この後お茶でもどうですか?(・・・あー、お茶って、なんだそれ、ダサいな、やっちまった、)」
かのん「・・・、」
恭一「あー、急に、なんか、ごめんなさい、朝から」
かのん「わたし、ですか?」
恭一「わたし?・・・あ、そうです、時間あれば、」
かのん「・・・はい、時間はあります、」
恭一「えっ、いいの!」
かのん「わたしでよければ、大丈夫ですよ、」
〇改札口前
恭一「コースケ、お待たせ!」
恭一「こちら、かのんちゃん、この後お茶することになりました!」
かのん「はじめまして、かのんです、」
浩介「・・・あ、はじめまして、」
〇SHIBUYA109
恭一「今、いくら残ってる?」
浩介「あー、ラーメン一人前くらい、・・・トッピングは付けられないかな、キョンは?」
恭一「牛丼大盛り一杯、味噌汁とお新香つき、玉子もなんとか、」
恭一「また、ドリンクバーかな、」
浩介「いや、もう喉乾いてないし、食いもんオーダーされたら、アウトだろ、」
恭一「・・・、まあ、牛丼屋でお茶するか、一杯の牛丼、お茶は3人分、きっと無料だろ、」
浩介「・・・極めて切ない状況下だな、」
かのん「・・・ねえ、さっきから、2人でなにコソコソ話してるの?」
〇ホテルの部屋
かのん「いちごオレ、美味しい!冷たくて、サッパリする、」
恭一「うん、このオレンジジュースもなかなか、」
浩介「・・・なんか、ムリしてるよな、」
恭一「全然、こういうのもなんか新鮮だな! かのんちゃん、このチョコも飲んだ翌朝には結構いいよ!」
かのん「うーん、ちょっとヘビーかな、こっちのにする、」
浩介「なんで、甘味飲料にチョコがくるかな、飲み過ぎて舌の感覚麻痺してるのか、」
浩介と恭一は金欠であることを、かのんに話した。かのんの案でコンビニで飲み物を買って、お茶をすることになった。
浩介「まあ、でも、かのんちゃんには、申し訳けない、キョンが誘ったあげくにこれじゃあ、」
恭一「いやー、ホント、ごめんなさい」
かのん「わたしは、全然気にしてないよ、軟派が初めて成功してよかったじゃない、フフッ」
恭一「なんか、繁華街に負けた気分でさ、ノリで声かけちゃったけど、かのんちゃんって、なんかナチュラル、いいよね、」
かのん「ナチュラル!なにそれ、」
浩介「まあ、ケバくないってことかな、」
かのん「相当、痛い思いしたんだね、新宿で、」
恭一「そう、そのとーり!」
束の間、3人はたわいもない、おしゃべりを続けた。
浩介「・・・なあ、ちょっと帰る前に仮眠しとこうぜ、眠気襲ってきた、」
恭一「・・・まあ、俺もかな、」
かのん「うん、わたしも、少し休みたいかな、」
浩介「じゃあ、かのんちゃん、ベッド使って、」
恭一「だね、俺らはソファーに寝るから、」
かのん「ベッド、2つあるけど、」
恭一「いや、大丈夫、1つは空けておく!」
浩介「そう、安全地帯!」
かのん「フフッ、なにそれ、・・・でも、ありがと、」
20分後・・・
かのん「・・・寝てますか?」
恭一「なんか、さっきまで眠かったけど、覚醒してるわ」
かのん「フフッ、覚醒って、」
浩介「寝転がる1秒前に、目覚めた、」
かのん「ハハッ」
浩介「はい、俺の勝ち!」
恭一「はぁ、なんで」
浩介「笑いの量と質ともに上、覚醒って、中2だろ」
恭一「1秒前が中2だ」
かのん「2人とも、中学生みたいで面白い」
かのん「チェックアウトしたら、どうするの?」
恭一「帰るよ、」
浩介「俺も、」
恭一「かのんちゃんは、家この近く?」
かのん「・・・う、うん、まあ、・・・2人とも東京じゃないんだ、」
恭一「あ、俺、栃木」
浩介「青森!」
かのん「青森!遠いね、・・・栃木は、」
恭一「・・・は、関東だぞ、」
かのん「そうそう、位置的なものが、あいまいで」
浩介「ハハッ、大学の時と同じリアクションされてんの!」
かのん「・・・ごめんなさい、・・・でも、2人とも電車代あるの、」
恭一「それは大丈夫、切符あるから、」
浩介「俺も、」
かのん「そう、帰っちゃうんだね、」
浩介「まあ、金もないし明日は仕事だしな、」
恭一「俺は休み、仕事は明後日から!かのんちゃん、もっとおしゃべりしたいのかな?」
かのん「・・・うん、できたら、海見に行きたいなぁって、ふと、思ったの」
恭一「え、俺らと一緒に?」
かのん「うん、・・・いや、でも、大丈夫、」
浩介「なんか全然大丈夫に見えないけど」
恭一「よし、じゃあ海行こうよ、」
かのん「えっ、いいの?」
浩介「・・・うん、・・・少し稼いでからにしよう、」
恭一「・・・!!なるほど、久しぶりだな、やってるかな、」
〇ホテルの受付
恭一「お待たせ、チェックアウトしてきた、コースケ、取れたか?」
浩介「あー、取れた、8時までに新木場」
恭一「・・・うーん、今、6:47、余裕だな、」
かのん「えっ、新木場って、海予約とかあるの?」
浩介「特別の海だからな、」
恭一「・・・でさ、かのんちゃん、新木場までの電車代、貸してくれないかな?」
かのん「うん、それくらいなら、大丈夫、あるよ!」
浩介「・・・すまない、」
かのん「全然、すまないとかないから、わたしのわがままなんだから、ありがとうございます、」
〇港の倉庫
恭一「懐かしいな、」
浩介「よく金欠になると来たよな、」
恭一「そう、まさに、救いの神!」
かのん「わたしも、手伝います、」
恭一「2人しか登録してないから、手伝ってもバイト代ないよ、隣りの公園で休んでれば、」
浩介「チカラ仕事だからな」
かのん「大丈夫、じゃまにならないようにします、」
配送業者の人「やあ、君たちが、今日のバイトさんかな、」
配送業者の人「予定だと、2人だけど、3人・・・、まあ、荷が予定より多くなってるから、ちょうどいいな、」
かのん「じゃあ、わたしも、いいんですか?」
配送業者の人「え、もちろん、そのつもりで来たんだよね、よろしくね、」
浩介「・・・すごい、もってるな、」
恭一「・・・あまり、ないよね、」
かのん「・・・へぇー、なんか、当たった気分、嬉しい!!」
3人は、新木場埠頭で、荷下ろしの日雇いバイトをして、一人7,000円ずつ稼いだ。
〇街中の道路
浩介「なんか、東京来た甲斐があったな、やっぱいいなぁ、あの頃はよかったよ、」
恭一「ホント、なんか、一時しのぎで、小さな目的もって働くって、生きてる感満載なんだよな、」
かのん「すごいね、2人とも、仕事して楽しめるなんて、・・・でも、きつかったけど、わたしも生きてるって感じした、」
恭一「なら、よかった!でも、服もスカートも汚れたね、」
浩介「その格好で荷下ろしする人、前にも後にも、かのんちゃん以外いないだろうな、」
かのん「これくらい、なんでもないよ、」
恭一「海行く前に、新しいの買って行こう、金もあるしな、」
かのん「えっ、いいよ、いらない、これで大丈夫、せっかくバイト代入ったのに、無駄遣いしなくていいよ、」
浩介「遠慮しなくていいよ、店寄ってから行こう、」
〇アパレルショップ
かのん「・・・これで、いいかな?」
恭一「うん、いいね、似合ってるよ、」
浩介「そうだな、」
かのん「よかった、・・・あの、本当に、ありがとうございます、」
恭一「なーに、かしこまってんの、自分も稼いだんだから、遠慮いらないよ、」
かのん「・・・ハリーポッターの一場面で、」
浩介「うん、なに、」
かのん「屋敷しもべ妖精のドビーは主人のルシウス・マルフォイから、いつも酷い扱いを受けているの、」
恭一「・・・うん、」
かのん「でも、ハリーから靴下をもらったことで、自由の身になれたの、」
浩介「うん、映画で見た、その場面覚えてる、」
かのん「・・・今、そんな気分なんだ、・・・気持ちが軽くなったよ、ありがとう、」
恭一「・・・うん、それなら、よかった!」
浩介「・・・お疲れ様!」
かのん「・・・うん、ありがとう、」
恭一「よし、じゃあ、海に行こう!夕陽に間に合うぞ!」
〇海岸沿いの駅
かのん「・・・うわー、すてき、この景色」
浩介「七里ヶ浜、海岸線がいいんだよな、」
恭一「うん、沈みきる前に浜へ降りよう、」
〇海辺
恭一「懐かしいな、ここも、」
浩介「そうだな、・・・まさか、今日来ることになるとはな、」
かのん「海も夕焼けも、みんなみんな、きれいですごい大きいね、」
かのん「ねぇ、・・・叫んでもいいかな、」
恭一「どうぞ、おもいっきり、」
浩介「うん、」
かのん「・・・」
かのん「かのんのばーか、ばかやろー・・・、 死ぬな!生きてけ、バカやろー!」
かのん「・・・!!」
かのん「バカ、バカ、バカ!」
かのん「・・・」
かのん「・・・、ありがとう、」
かのん「・・・スッキリした、」
浩介「だろうな、俺までスッキリしたよ、」
恭一「・・・よかった、かのんちゃんと海に来られて、」
かのん「・・・なんで、そんなに、初めて会ったわたしにやさしいの、」
恭一「かのんちゃんが、やさしいからじゃないかな、・・・なんとなくうつったのかもね、」
かのん「えっ、」
浩介「キョン、感染るって、風邪みてーだぞ、」
恭一「いやー、たしかに、いい風邪だな、」
かのん「・・・こんな素敵な2人に軟派されてスルーした人、とっても損したね、」
浩介「おー!すごい褒め言葉、」
恭一「でしょ、見る目ない人ばっかなんだよ、」
かのん「・・・わたし、今朝、渋谷で降りたら、どこかで最後の時を迎えようと思ってたの、」
恭一「・・・うん、」
かのん「・・・そんな時、声かけられて、もう終わるんだから、どうなってもいいや、この人のしたいようにさせて、そして、消えてゆく」
浩介「そうだったんだ、」
かのん「でも、なんか、・・・その、軟派されたって感じじゃなくて、まるで、昔からの友達みたいな会話になって、」
かのん「・・・その、身体触ったり、なんか、エッチしようと口説いたりとかなくて、」
かのん「ただ、普通に、事情も知らないはずなのに、わたしのそばに居てくれて、ワガママまで聞いてくれて、」
かのん「まだ、わたしなんかに、やさしくしてくれる人いるんだって、・・・あったかい気持ちになって、」
かのん「服を買ってもらった時に、ドビーと靴下の話を思い出したの、きっとこのプレゼントがわたしにとっての自由の靴下なんだって、」
恭一「うん、そっか、かのんちゃん、すごいね、」
かのん「・・・えっ、」
浩介「うん、自分で乗り越えたんだよ、」
かのん「・・・キョンさんとコースケさんに会えたから、」
かのんは、ポシェットから花びらを二枚取り出した。
かのん「最後の二枚の花びら、どちらを先に言うか迷ってた、・・・死ぬ、か、生きるか、」
かのん「でも、決めた、死ぬ、生きる、・・・わたし、生きる、」
かのん「・・・ありがとう、2人が、わたしを救ってくれた、わたしはあの時のドビーのように、救われたの、」
浩介「・・・」
恭一「!!」
恭一「じゃあ、俺、ハリー」
浩介「俺、ポッター、」
かのん「ふふふ、・・・すごい息あってる、」
恭一「そこ!」
かのん「ありがとう、ホント、ありがとう」
浩介「うん、」
恭一「じゃあ、メシ食って帰ろうか、」
浩介「まだ、金もあるしな、」
かのん「うん、ラーメン食べたい!」
恭一「大盛りだな、」
浩介「トッピングも許す、」
かのん「うん、」
かのんが死を考えるまでの背景もしっかり描かれていたので後半も説得力のある展開でした。タイトルの「ドビーの靴下」も素晴らしい。かのんを死の淵から引き戻したエピソードだとわかり、胸にジーンとくるものがありました。
切ない中に温かさのあるお話で、読んでて温かい気持ちになれました。
彼らは人助けをしたつもりもなく、自然体で彼女に接してて、それがとても優しくて、読んでてじんわりと心に染みました。
めちゃくちゃいい人たちに出会えて本当に良かった!
悩みに悩み、苦悩に苦悩を重ね、でもこの出会いはきっと奇跡なんだろうなぁと、そう私は思いました。