てとり あしとり あやとり

根本ぴゃ

エピソード1(脚本)

てとり あしとり あやとり

根本ぴゃ

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〇宮益坂
  灰色だ
  今日も世界は灰色だ
花里 遊歩「あれ? 会社に行くんだっけ?」
花里 遊歩「それとも帰るとこ?」
花里 遊歩「携帯ないし」
  今が朝なのか夜なのか
  灰色の空は教えてくれない
  キィーン
花里 遊歩「痛っ!頭が!」
花里 遊歩「と、とにかく! 会社へ」

〇神社の石段
花里 遊歩「なんで近所の神社に来てるの?私!?」
花里 遊歩(頭が割れる! 無理!)
花里 遊歩「ごめんおばあちゃん」

〇幻想空間
???「ねぇ起きて」
  耳元に甘い囁き
  アスファルト色の心に
  花が咲く
「遊ぼうよ」
  暖かい声色に
  このまま溶けてしまいたい
花里 遊歩(よく膝枕してくれたな)
花里 遊歩「おばあちゃん・・・」
「んえっ?!」
花里 遊歩「へぁっ?!」
  すっとんきょうな声に
  思わず飛び起きる

〇神社の石段
鳥居本 綾「お・・・ばぁ?」
鳥居本 綾(え?何かおかしかった? 服?顔?)
花里 遊歩「ごめんなさい! まさか男性だなんて」
花里 遊歩「話し方が柔らかかったので!」
鳥居本 綾「あ!話し方~ ずっと女性についてたから」
鳥居本 綾「ちょっと失礼」
鳥居本 綾「んっ! ぅん・・・!」
  彼は喉を押さえ咳払いした
鳥居本 綾「暇してんだろ?遊ぼうや」
  先ほどとは真逆の
  渋いワイルドボイスが
  荒々しく体を駆け抜ける
花里 遊歩「さっ!さっきの話し方で お願いします!」
花里 遊歩「刺激が強すぎます!」
鳥居本 綾「なにそれ~?」
鳥居本 綾「フフッ!声、戻っちゃった!」
花里 遊歩「あとナンパなら 他あたってください! 私じゃ不釣り合いです!」
鳥居本 綾「あなたと遊びたいのよ 遊歩ちゃん」
鳥居本 綾「はじめまして 私は鳥居本 綾 「アヤ」って呼んで♪」
鳥居本 綾「あなたのことは おばあ様から聞いてるわ」
花里 遊歩(誰かのお孫さん?)
鳥居本 綾「ねぇ」
鳥居本 綾「あ・や・と・り」
鳥居本 綾「しよ?」
花里 遊歩「え、覚えてるかな」
鳥居本 綾「自由でいいのよ やってみましょ!」

〇和風
鳥居本 綾「まずは練習ね」
  彼は両手首に紐を一巻きし
  中指にかけ交差させた
鳥居本 綾「これは「橋」 取ってみて?」
花里 遊歩(確かクロスをつまんで 下からくぐす)
鳥居本 綾「やるじゃない! 「田んぼ」ね」
鳥居本 綾「そしたら私はね~」
  彼は無邪気に笑いながら
  同じように取る
花里 遊歩「「川」だ!」
鳥居本 綾「あったり~♪ 次は?どう取る?」
花里 遊歩(内側の糸を小指で 交差させて取れば 「舟」だけど)
花里 遊歩(こんなことしてる場合だっけ?)
  私の戸惑いに気がついたか
  彼は紐をほどいた
鳥居本 綾「そろそろ本番行こっか!」
花里 遊歩(本番?)
鳥居本 綾「あやとりの起源は明確でなく 自然発生的な遊びとも 呪術や占いの類いから 始まったともされるわ」
鳥居本 綾「私的にはコミュニケーション ツールなんだけどね」
花里 遊歩「おばあちゃんもあやとりしながら 歌ったり昔話してくれた!」
鳥居本 綾「でしょ?だからさ それぞれが取った型について 思い出を話していくってどう?」
花里 遊歩「素敵!」
花里 遊歩(昔の話をするなんて いつぶりだろう)
鳥居本 綾「じゃ、まずは私から」

〇ボロボロの吊り橋
  『橋』
花里 遊歩「きゃっ?!」
  次の瞬間私たちは橋の上にいた
鳥居本 綾「落ち着いて あやとりの魔力よ」
花里 遊歩「そ、そっか」
  不思議とすんなり受け入れていた
鳥居本 綾「さて、話さなきゃね 言い出しっぺだし」
  彼はトーンを落とす
鳥居本 綾「僕さ 捨て子なんだ」
鳥居本 綾「あの日は浮かれてたな 珍しく外に出れて」
鳥居本 綾「土砂降りの中、橋の下で 馬鹿正直に母の帰りを待ってたよ」
花里 遊歩「綾さん・・・」
鳥居本 綾「でもお陰でおばあ様や 遊歩ちゃんと縁ができたし! 結果ヨシ!」
  明るく振る舞う彼がいたたまれず
  私は奪うように糸をつまんだ
鳥居本 綾「お!積極的~」

〇田園風景
  『田んぼ』
花里 遊歩「私も両親がいないの 物心つく前に事故で・・・」
花里 遊歩「だからおばあちゃんちで育った 田んぼに囲まれた静かな家で」
花里 遊歩「よくこうやってあやとりしたな」
花里 遊歩「10才のときおばあちゃんが 亡くなってからは施設で育ったの」
鳥居本 綾「苦労したね」
花里 遊歩「とんでもない! 恵まれてたんですよ私」
花里 遊歩「なのに全然・・・」
鳥居本 綾「十分頑張ったわよ」

〇川沿いの原っぱ
  『川』
鳥居本 綾「おばあ様とは川原で会ったのよ」
賽の河原の小鬼「惨め惨め! 迎えの来ないお前は 永遠に石積みじゃ!」
死んだおばあちゃん「おやめ! その子は私が引き取るよ」
死んだおばあちゃん「ほれ船代だ おいで坊っちゃん」
少年姿の綾「でも、」
死んだおばあちゃん「孫と同じ年頃の子を見捨てちゃ じい様に会わせる顔がないよ」
鳥居本 綾「石積みしか知らない私に あやとりを教えてくれてね」
鳥居本 綾「天国にも誘ってくれたけど」
死んだおばあちゃん「本当にいいのかい? 私となら「顔パス」だよ?」
死んだおばあちゃん「現し世に残っても生者とは 言葉を交わすこともできないよ」
少年姿の綾「それでもいい!」
鳥居本 綾「そばで見てたくてさ」
鳥居本 綾「お年玉を全部冥銭に 使っちゃう優しい女の子」
鳥居本 綾「やっと会えた」

〇クルーザーのデッキ
  『舟』
花里 遊歩「ふ、船なんて縁がないよ」
鳥居本 綾「じゃ、このまま乗ってっちゃう?」
花里 遊歩「へ?」
鳥居本 綾「あやとりは昔から 世界中にあるんだって」
鳥居本 綾「探しに行かない?」
鳥居本 綾「ずっと二人でこうしていよう?」
花里 遊歩「あの、」
鳥居本 綾「アハ!地声になってたね!」
鳥居本 綾「あ!私の番ね! どう取ろっかな?」
花里 遊歩「あの!」
花里 遊歩「私、帰らなきゃ」
花里 遊歩「綾さんといたいけど」
花里 遊歩「ちゃんと生きなきゃ おばあちゃんに申し訳なくて」
鳥居本 綾「そう、ね」
鳥居本 綾「でももう無理はしないでね 私たちには あなたの笑顔が一番だから」
  彼は寂しそうに微笑むと
  慈しむように私の指から
  紐をほどいた

〇幻想空間
  世界が輪郭を失っていく
花里 遊歩「綾さん、ありがとう! 会えて良かった!」
鳥居本 綾「私の方こそ」
  彼の姿が薄れていく
  お別れの時間だ
  涙は見せたくない
  私は彼に背を向けた
鳥居本 綾「遊歩!」
花里 遊歩「ひゃっ?!」
花里 遊歩「綾さん、その喋り方 脳へのダメージが」
鳥居本 綾「だからだよ!刻み付けとけ!」
鳥居本 綾「しばらく会えねぇけどな! 俺とお前はこれで繋がってんだ 忘れるなよ!」
  意識が遠退く中
  彼の声がいつまでも
  頭の中で鳴り響いていた

〇神社の石段
花里 遊歩(元の世界?)
花里 遊歩(夢だったのかな? でも・・・)
  見上げた空は
  黄金色に輝いていた

〇事務所
  翌朝
嫌な上司「花里ぉ! 今日は昨日の分まで働けよ!」
花里 遊歩「働きません!辞めます!」
花里 遊歩「これからは私、 自分を大切にするので!」

〇宮益坂
花里 遊歩(勢いでやめちゃった)
花里 遊歩(でもきっと大丈夫)
  世界はこんなにも
  色に溢れているから

〇空
鳥居本 綾「疲れたらまたおいで」
鳥居本 綾「いつだって待ってるから」
  Fin.

コメント

  • あやとりの魔力に魅了されるような、とても素敵な作品でした。主人公が彼との交流を通して、最後には自分を大事にすることに決め、辞表を叩きつけましたが、主人公がいい意味で変わった事に良かったとなりました。
    素敵な物語ありがとうございました!

  • 色褪せない思い出、本当は広い世界、そしてとき解されていく心、を赤い糸で表現していて凄いです。そもそもあやとりという遊びの持つ深さでもあるのでしょうね。遊歩(名前のセンスもいい)が最後に辞表を突きつけた後も、悲壮感が全くなく、頼もしく感じられるのは、赤い糸で死者と繋がっていることを、この時の読者は既に確信させられているからなんだなあと思いました。

  • ボディが強い、なぎ倒す、俺にバックギアはねぇ、な感じで、持っていかれました。

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