まだ店員とお客さん(脚本)
〇店の入口
──ある雨の日
乙夜(一応看板は出しておくけれど、こんなに雨が酷いと客さんは来ないだろうな・・・)
乙夜(今日は店に僕1人だし・・・・・・普段できていない所の掃除でもするかな)
乙夜「って、──うわっ!キミ、びしょ濡れじゃないか!」
乙夜「わかってると思うけど・・・小さな屋根のこの店先だとあまり雨宿りにならないよ?」
乙夜「店にタオルとドライヤーくらいならあるから使うといいよ。中においで」
乙夜「え、いいの?・・・・・・って?」
乙夜「キミ、お店によく友達と来てくれてる子だよね」
乙夜「だから、特別。ね?」
乙夜「なんてね。──とにかく早く中に入ろう。本当に風邪引いちゃうよ」
〇レトロ喫茶
────カフェ内
乙夜「充分乾かせた?──そう、それはよかった」
乙夜「ありがとうだなんて。いいんだよ。困った時はお互い様、って言うし」
乙夜「にしてもこの大雨・・・・・・まだまだ収まりそうにないなぁ」
乙夜「もう少し収まるまでここで時間潰していきなよ」
乙夜「帰る時の傘はお店の貸すからさ」
乙夜「また週末に友達と来てくれた時返してくれたらいいよ」
乙夜「ん?ああ、覚えているよ。数ヶ月前から毎週来てくれているよね」
乙夜「このお店、元々叔父さんのお店で俺が譲り受けたから」
乙夜「俺と同年代くらいのキミたちみたいなのお客さんって珍しくて」
〇レトロ喫茶
乙夜「──そうだ!!」
「ちょっと待ってて・・・!!」
そう言った乙夜はカウンター内でエスプレッソマシンの前で表情を緩ませながら手際良く作業をしていく
「珈琲豆をホルダーに入れて、軽く叩いて粉を水平にならす・・・」
「タンパーを使って、ぎゅっと豆を押し込んで、ホルダーをマシンにセットして抽出・・・・・・」
「その間にフォームミルクを準備して・・・・・・と」
乙夜「お待たせ。実は今お店で出すラテアートの練習をしていてさ」
乙夜「やっぱり人に見てもらっていた方が練習になるから・・・・・・付き合ってもらう事になるけどいいかな?」
乙夜「抽出したエスプレッソにたっぷりのフォームミルクを揺らしながら注いで・・・・・・」
乙夜「す・・・・・・っと、並行に戻して細く切るように流す。っと、」
乙夜「!!」
乙夜「手際がよくて綺麗・・・って?」
乙夜「ふふ、練習中だから褒めてもらえると嬉しいなぁ」
乙夜「カフェ内は暖房効いてるから暖かいけどやっぱり外で体は冷えただろうからさ。暖かいラテを飲んで、体も中から温めてあげてね」
乙夜「砂糖もどうぞ」
乙夜「珈琲の味は勿論、香りも俺は大好きなんだ。ふわって広がる香りが1日の疲れを取ってくれそうな位穏やかで・・・・・・優しい香り」
乙夜「だから今はお店を深夜まで開けているんだ。お昼もだけど、夜も誰か疲れてる人の癒しの場所になればいいなって」
乙夜「叔父さんには長く開けすぎじゃないか?なんて心配もされるけど」
乙夜「需要はあるみたいで。夜遅くでも1人で静かに読書にしに来たり、」
乙夜「仕事終わりに美味しい珈琲と軽いご飯を食べて帰ろうってお客さんは意外と多いんだ」
乙夜「だから君にも。友達と予定合わなくてもここの珈琲飲みたいなぁなんて思って貰えたら嬉しいんだ」
乙夜「俺と話してもいいし、1人で勉強や読書したりでもいいし。もっと気軽に来てもらえるような場所になれたらいいな」
〇レトロ喫茶
カランカラン、
出された珈琲を飲み干し一息ついたところでドアを開ける音がする。ドアの隙間から見えた外は大分雨が小降りになっていた
乙夜「いらっしゃいませ」
乙夜「こんばんは。今日は・・・・・・いつもの珈琲で?」
乙夜「かしこまりました」
新しい客の珈琲を手際よく準備する乙夜
乙夜「ん?雨が小降りになったから・・・・・・帰る?」
乙夜「ラテの代金はいいよ。俺も練習に付き合って貰っちゃったし」
乙夜「それは気が引ける?・・・・・・そっか・・・・・・」
乙夜「あ!!」
乙夜「なら、またお店に来てよ。友達とでも1人でも」
乙夜「お礼なんて・・・・・・本当に大丈夫だよ。こちらこそありがとう。お陰で楽しい時間だったよ」
乙夜「出口まで送ろうか。忘れ物はない?」
乙夜「また来てね」
〇レトロ喫茶
乙夜が見送りをした後、座っていた客からくすくすとわらいながら声がかかる
「乙夜くんが女の子と話すの見るの貴重だったなぁ。彼女なの?」
乙夜「や、やめてくださいよ」
乙夜「最近来てくれて、若いのにお店の雰囲気悪くしないしちょっと可愛い人だなと思ってただけで・・・・・・」
「乙夜くんの片想いか。がんばってね」
乙夜「まずは、このお店を好きになって貰って・・・・・・それから俺の事も知ってもらえたらいいな」
彼はヒロインに必死に声かけていたんだろうなぁ、と、ラストまで読んで思いました。言い訳のように、ヒロインに優しくしてしまう彼にキュンですね。なんだか微笑ましいです(^^)
いつか乙夜くんがヒロインとお付き合いできますように✨
ここ2週間ほど雨が降り続いていて、ちょうど憂鬱だなぁと感じていたので、このカフェとふたりの世界観に入り込んで、妄想を楽しみました。雨の日でもこんな素敵な出会いがあるなら、心がぱっと明るくなりますね。こういった静かなカフェも好きですので想像するだけで癒やされました。
他のお客さんと違ってて、すごく彼女を意識してる彼がかわいいなぁって思いました。
まだ片思いだそうですが、これからの進展が気になってにまにましてしまいます。笑