クロと蛇神と、カノジョの秘密

春日秋人

第18話 『迷子のSOS』(脚本)

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春日秋人

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〇白
  ──尻尾を呑んでいた蛇は、わたしに告げた
蛇(へび)「ボクはコトワリとよばれるモノのヒトツ」
蛇(へび)「コトワリをカえたキミはこれからカミとなル」
蛇(へび)「モシ」
蛇(へび)「カミであることにタえられなくなったら」
蛇(へび)「キミがオノレよりもタイセツだとオモえるアイテを ミツケルことダ」
蛇(へび)「コトワリにハンするモノ」
蛇(へび)「そのモノだけが」
蛇(へび)「カミのサダメをウチやぶれル」
蛇(へび)「アリガとウ」
蛇(へび)「やさしいキミ」
蛇(へび)「これよりセカイはサキへむかウ」
  ──そうだった
  お礼を言われたんだっけ
  だけどあのコは間違えていた
  わたしは優しくなんてなかったのだ
  あのコが教えてくれた『神の定めを打ち破れる者』・・・
  『わたしが自分よりも大切だって心の底から思えるヒト』
  そういう相手なら、わたしを殺せる
  うん
  理屈は通っている
  わたしは死ぬと、死因が世界から取り除かれることで復活してしまう
  けれど、その死因が、神自身の復活よりも優先される相手だったらどうか?
  復活はキャンセルされるはずだ
  神は死んだまま生き返らない
  わたしは死んだまま生き返らない
  そのはずだ
  なのに──
  今まで誰ひとりとして、わたしを殺せた者はいなかった
  わたしは復活し続けた
  もう、わたしは死にたかったのに
  相手を消したくなんてなかったのに
  つまり、そういうことだ
  わたしは優しくなんてなかった
  死にたいと思いながら心のどこかではそれを拒んでいる
  相手を消したくないと思いながら自分よりも大切だとは考えていない
  わたしはわたしのことしか大切じゃないんだ
  むかしのゲームに『真実の姿を映す鏡』というのがあった
  わたしの姿はきっと、ひどく醜く映るだろう
  だけど・・・まだ希望はあった
  この世界にわたしが大切に思える者がいないのならば、創ってしまえばよいのだ
  幸い、というかなんというか、わたしにはその力があって
  だからそうした
  ほどなくして・・・
  わたしの前にひとりの男の子が現れた

〇教室
九郎(くろう)「鳥居森九郎。よろしく」

〇白
  転校してきて教室での第一声、必要なことしか言わなかった
  一目見て、わたしの胸は高鳴った
  彼だ!
  間違いない!
  わたしが願った者がやってきた!
  普段は使わないようにしている神の力をちょっぴり解放して、彼の素性はそのとき知った
  当時のわたしの感動は言葉では表せない
  世界を守る秘密組織のエージェント!
  7度も世界を救った男!
  影の英雄!
  だけど一時の興奮から冷めると、わたしを罪悪感が襲った
  彼の人生は遠くからすこし眺めただけでわかるほど血にまみれていて、一般的な幸福とはかけ離れていて・・・
  わたしの身勝手な願いが、彼をそうした境遇に閉じ込めたのだとわかってしまったから
  しかし、もう後には引けない
  すでに彼はここにいる
  わたしのできる罪滅ぼしは、彼を存在させた責任を果たすことだけ──
  きちんと彼に殺されることだけだろう
  任務のためにわたしを殺す方法を知りたがっていた彼に、秘密を賭けたゲームをすることを、わたしは提案した
  これは妙案だったと思う
  すでにわたしは彼に一目惚れ状態ではあったわけだけれど・・・
  自分よりも大切だって心の底から思えていたかと聞かれれば、疑問だった
  そこで、彼といっしょに過ごすことができて、なおかつお互いに秘密を打ち明けられるゲームというのはもってこいなのだった
  実際、効果はバツグンで、わたしはどんどん彼を好きに──大切に思うようになっていった
  楽しかった
  こんな幸せでいいのかと思った
  そしてわたしの中で彼の存在が大きくなるのに比例して、罪悪感も大きくなっていった
  罪悪感を誤魔化すために、わたしは彼の本名を知ろうともした
  最初に神の力で素性を知ることはできていたけれど、それは履歴書を眺めたようなもの
  個人的な情報まではわかっていなかった
  彼の中に役割以外のなにかを見つけられれば、そう思ってのことだったけれど
  ──名前はない。と彼は言った
  罪悪感はさらに増した
  ──もし。彼でダメなら──
  もしも
  わたしが彼に殺されたそのとき、それでもわたしが生き返ったら・・・
  彼が消えていたら
  わたしの心は壊れるだろう
  どのみち今のわたしは死ぬことになる
  元のわたしではいられない

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